第二幕 勇者様は読心術がお好き
「今日も良い天気ですね、勇者様」
「そうだねー。青い空はなかなかに綺麗だ」
「でしょう? と、いうことで勇者様。外へ、」
「嫌だ。こういう日は碌なコトがないんだよ。てか、日光を浴びたくない」
「酷い偏見ですね、勇者様……」
「生来晴れの日は嫌いなんだよねぇ」
そう言って、カーテンをきっちりと閉めてしまう勇者様。
晴れの日が嫌いなど……贅沢なことを仰る勇者様ですね。
どうも皆様こんにちは。
今日も勇者様をお城の外へ出そうと苦心している、ヘルリアス王国第一王女 ミレイア・ヘルリアスです。
勇者様は今日も今日とて、お部屋の外にすらでていただけません。
というか、ベッドの上からすら動いて貰えません……最近は、勇者様の部屋にくるとまず、部屋にあるテーブル用の椅子をベッドのそばに持ってくることが習慣となってしまいました。
早く魔王を倒してもらわねばいけないと言うのに……
しかし、強行手段にでることもできずに歯噛みをする毎日です。
勇者様は腐っても勇者様。
例え我が国の兵力を全て終結させたとしても、その身体に傷を付けることすらままならないでしょう。
其れが、魔王と唯一対等に戦える勇者という存在であり、そうでなくてはならないのですから。
「では勇者様は、どんな天気がお好きですか?」
「そうだねぇ……曇りの日かな。過ごしやすいから」
「そうですか……」
なんということでしょう、火の候に曇りの日は皆無です。
これからしばらくは、晴れの日しか続きません。
これでは勇者様のモチベーションを上げて魔王討伐に行ってもらうことが、ますます困難になってしまったような気がします……
そうですね……では、勇者様に晴れの日の利点を伝えて、晴れの日を好きになって貰いましょう!
「勇者様。そうは言いますが、晴れの日もなかなか良いですよ?」
「外にでなければね」
「いえ! お散歩をすると太陽の光を存分に浴びられて気持ちいいですし、運動をするのにも晴れの日がぴったりですし。お外にでたら良いことたくさんですよ?」
「無理。太陽は敵だよ。てかこの世界でも太陽は太陽なんだねぇ」
この貧弱勇者様は……っ……いえ、貧弱、というのは間違っていますか。
むしろこの世界で貧弱と一番縁遠い人ですから。
しかし……なればこそ、どうしてここまで頑なに外に出たくないのでしょうか?
「勇者様……では、防護魔法の応用で陽射しをカットしたら快適にお外にでられるのではないですか?」
「えー。なんていうかなぁ。そもそも外に行くこと自体が面倒というか」
「……この駄目勇者様は……」
「聞こえてるんだけど」
面倒……その一言で我らが希望は役割を放棄するというのですかっ。
なんという勇者様ですか……
「では勇者様、お外に出ていただければ、僭越ながらわたしからご褒美をあげますよ?」
「へぇ。どんな?」
「そうですね……例えば、一晩わたしを自由にして良い……とか」
これでも容姿には多少の自信があります。
世界が救えるなら、この身を勇者様にささげるのも悪くはありません。
むしろ、安すぎるぐらいです。
さぁ、勇者様、どうか乗って来てくださいっ。
「いや、いらないかなぁ」
「そっ、そんな! わたしに魅力は無いというのですかっ」
「いや、王女様は僕から見ても凄く魅力的だよ? でもさ、そういうことはお互いに愛し合った状態じゃないと、駄目なんじゃない?」
「愛……勇者様は、意外に貞操観念のしっかりした方なのですね」
「何その本気で驚いた声。僕を一体なんだと思ってたのさ」
自らの欲望のまま行動をする、凄い力をお持ちの駄目人間……
「そこまで酷くはないつもりなんだけどなぁ」
「心を読まないでくださいっ」
「本当に僕がそうだとしたら、王女様は今頃お人形さんになってるって」
そんなことを、ゾッとする程冷たい声色で言った後に、あはは、と笑う勇者様。
確かに勇者様であれば、容易くわたしをそう・・できるでしょう。
ですがわたしにはそのようなことは全く想像できなくて。
確かに勇者様は凄い力をお持ちだけれど、そんな、人の嫌がるようなことをする人ではないと……あら? これって。
「さっきと考えてることが真逆じゃない?」
「だから心を読まないでくださいっ」
本当に、調子が狂います。
勇者様を説得するつもりが、気が付いたらわたしが手のひらの上で弄ばれていて。
本当に……何者なのでしょうね、勇者様は。
いえ、勇者様は、勇者様なのですが。
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「僕が何者か……ねぇ」
「僕は普通に人間なんだけど……いや、この世界でいうとあちらの世界の人間は異世界人になる訳だから、普通じゃないのか」
「まぁ正直、知ってどうなる訳でもないどうでもいい疑問だよねぇ」
「しっかし王女様、よくも飽きずに毎日毎日遊びに来てくれるもんだ」
「王女様、様々だねぇ」
「しっかし、カーテンを開けるのはマジで勘弁して欲しい……」
「……あぁ、くそ、頭いてぇ」
「……もう、カーテン固定しちゃおうか」
「……なんでそんなことに気付かなかったんだろ。よし、そうしよう」