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働かない勇者様の日常   作者: @you
~本編~
1/7

第一幕 勇者様は引き篭もる


異世界モノ書いてみました。

ちょっとした練習作です。


 


 拝啓、天国のお婆様


(前略)


 召喚した勇者様が働いてくれないのですが、どうしたらいいでしょうか?


(後略)


 ヘルリアス王国第一王女 ミレイア・ヘルリアス



 ―――



「勇者様―――!! お早うございますっ。いい加減にお城の外に出てくださいなっ!!」

「……あぁ、王女様。おはよう」


 勇者様がわたし達の世界に召喚されてから、二週間が経ちました。


 召喚に応じて下さった当初は、わたし達はそれはもう、期待に胸を膨らませておりました。


 今代の勇者様は、初代勇者様と同じ黒髪黒目の持ち主だったからです。


 更に魔力総量はぶっちぎりで史上一位。


 あの伝説中の伝説と名高く、∞魔力機構とも呼ばれた初代勇者様を圧倒的に超える魔力を有していたのですから、魔王の恐怖におびえるわたし達がどれほど歓喜したことか、おわかりになるでしょう。


 この人ならもしかすると、魔王をついぞこの世界から完全に消し去ってくれるのではないか、と思い我が国の魔法知識を余すことなく伝えました。


 勇者様もわたし達の期待に応えてえくださり、その素晴らしい頭脳を持ってして、瞬く間に魔法を修められました。


 更にそれでは飽き足らず、魔王討伐のための修練の合間に魔法の研究もされ、勇者様によって従来のものよりも効率の良いものに組みかえられた魔法は数知れません。


 勇者様は、召喚されて僅か一週間で、この国の誰も敵わない程の魔法の知識を身に付けられ、それに裏打ちされた圧倒的な力を示してくださいました。


 それがいかに驚異的なことか、それは当事者であるわたし達以外には、きっと完全には伝わらないでしょう。


 驚異的、という言葉ですら生ぬるい、もっと恐ろしいものの片鱗を、わたし達は味わいました。


 そしてお父様、今代のヘルリアス王は満を持して、勇者様に魔王討伐を成してもらおうとしました。


 事態がおかしな方向に向かいだしたのは、それからです。


 お父様が勇者様に魔王討伐の命をだした直後。


 勇者様はお父様の命を無視し、与えられたお部屋に引き篭もってしまわれたのです。


 しかも、そのお部屋に魔王封印級の封印魔法をかけて。


 突然の勇者様の行動に、王城内は混乱しました。


 皆口々に、お部屋から出て魔王討伐に向かってくださるよう勇者様にお願いしました。


 それが功を奏し、勇者様はふらり、と部屋の外に姿を現しました。


 手を取り合い、救世の勇者様の姿に喜ぶわたし達にむかって、勇者様はおっしゃいました。


「今日から僕は王城の外に出ないから。てかここに永住する。怠惰生活最高」


 突然の勇者様の言。


 当然お父様はお怒りになり、その夜勇者様とお話合いをされました。


 そして明くる朝。


 わたしが見たのは、お部屋で深い眠り……ぐーすかと自堕落に眠ってらっしゃる勇者様と、「勇者の行動は全て不問とし、今後一切勇者の行動を妨げない」と、青い顔で仰るお父様の姿でした。


 わたしは不甲斐ないお父様に憤慨しましたが、お父様は黙って首を振るばかり。


 そこでわたしは決意しました。


 勇者様はわたしが外に連れ出し、なんとしても魔王討伐を為してもらうのです、と。



 ―――



「王女様も毎日御苦労だねぇ。僕なんかの部屋に毎日足しげく通って。通い妻かっ」

「馬鹿なことを仰らないでください」


 ベッドに横になったまま、勇者様が黒い目を細め、そんなことをおっしゃいます。


 特に、“僕なんか”とは聞き捨てならないですね……勇者としての自覚をもっと持っていただきたいです。


 寝乱れているのにさらさらの黒髪は顔を半分ほど覆い隠し、男性とは思えない程の得も知れぬ色気を醸し出しています。


 そして上半身は裸。


 引き締まった身体が眩しい……ではなく、あまりそんな扇情的な格好を見せないでいただきたいですね。


 押し入ったのがわたしから、という点は敢えて無視する方向で、一つ。


「つれないねぇ。そこがいいという市井の声もあるけど」

「どこ情報ですか、それ。それよりも、今日こそはお城の外にでてくださいますねっ?」


 半ば断定的な口調で言ってみますが、


「やーだよ。外暑いし。日差しが眩しいったらありゃしない。なんですか? この世界は一年中夏なんですか? 日本が恋しいよ」


 勇者様には全く効果無しです。


 というか、先ほどの色気と今の悪戯っぽい少年のような口調の差が激しすぎますね。


 いつの間にか服も着てらっしゃますし。


 袖から手が見えない、だぼだぼの黒い服。


 被っているフードの部分には猫獣人のような耳がついています。


 本当に、何時の間に……?


「今は火の候なので、特別暑いだけです。一年中暑いという訳ではありません」

「あ、そうなんだ?」

「そうですとも」

「それよりこの服、どう? なかなか可愛らしいと思わない? 着ぐるみルックだぜ。王女様には白猫バージョンを、」

「結構です」


 勇者様は召喚されてからずっと魔法についての勉強しかしてこなかったため、こちらの世界の一般常識に疎い部分が有りますね。


 というか、ほとんど何も知らないのではないでしょうか……


 ……だからこそ、魔王に怯える人々の気持ちが理解できず、引き篭もり宣言をされている、という可能性もあり得るかもしれませんね。


 だとすれば、今わたしにできるのは。


 勇者様に、人々がどれだけ魔王恐れているかを伝えることではないでしょうか?


 そうです、そうに違いありませんね!


「勇者様、今からわたしが語ることをよくお聞きくださいませ?」

「……」

「勇者様?」

「……すー」

「寝ないでくださいなっ!」


 勇者様はわたしが大事なことを話そうとすると、すぐに眠ってしまわれますっ。


 困った人です。


 わたしは『ライトニング』の魔法を唱えて、勇者様を起こそうとします。


『ライトニング』は風属性魔法の派生、雷属性の魔法の初歩です。


 そして初歩であるが故に威力の調節が容易ですし、使い手によっては上級魔法にすら匹敵する威力を出すことも可能です……魔力消費を度外視すれば、ですが。


 日頃のうっぷんもこめて、すこしこんがりするレベルで行かせていただきますっ。


「『エル・ライトニング』ッ」


『ライトニング』の威力を下から二番目、『エル・ライトニング』にします。


 ちなみに魔法は基礎となる魔法名の前に、下からオル・エル・ウル・イル・アルの威力調節用のワードを付けて使用することが一般的です。


 基礎となる魔法名を正しく発音するのは勿論のこと、威力調節のワードを入れないと、魔法が暴発してしまう恐れがあるのです。


 わたしの手から飛び出した雷の槍は、真っすぐに勇者様へと向かい……


 バチバチッ


 その肌に触れることなく、透明な壁に弾かれて消えてしまいました。


「素で防御魔法をかけて過ごしてらっしゃるとは……流石勇者様ですね」

「……すー」

「ならば……『アル・ライトニング』!」


 手加減無用。


 そこらのモンスターなら一瞬で消し炭になるレベルの『ライトニング』を放ちます。


 いくら防御魔法が有るとしても、ピリッ、と感じるぐらいはするでしょう。


 ドゴォォォン!!


 先ほどとは比べ物にならない轟音をたて、『ライトニング』は勇者様の障壁に衝突……そして、あっけなくもなく消えてしまいました。


「な、何事でございますかっ!?」


 メイドが数人、開けっ放しにしていたドアから入ってきますが事情を説明してすぐさま部屋から追いやります。


 そして肝心の勇者様はというと。


「……すー」


 全く動じずに眠っておりました。


 先ほどの轟音で起きないということは、今は防音魔法も併用しているのでしょう。


 ……って、あ。


「……それよりもこれ、どうしましょうか……」


 わたしは『アル・ライトニング』の余波によって黒こげになったカーペットを見ます。


 ……勇者様が起きる前に、取り変えさせましょうか。


 わたしは慌てて、先ほど追い出したメイドを呼び戻しに行くのでした。



 ###



「……ふぅ、いったかな?」

「って、うわぁ。カーペット黒こげじゃん。物は大事に扱えよな……〝直れ〟っと」

「うん、やっぱり魔法は便利だねぇ。ちょっと熱中して習得した甲斐があったってもんだ」

「それにして、ねぇ」

「んー……王女様の相手は楽しいけど、偶に話が長い上に説教臭いんだよなぁ」

「見てくれは美少女なのに、中身はババァなのかね、全く」

「とか言うと怒られるな。そうして僕の部屋の物が壊れる、と」

「まぁ直せばいいんだけどさ」

「ちなみに王女様の容姿は、快活さを感じさせるピンク髪ポニーテイル、同色の瞳、そして豊満な胸と完全完璧なヒロイン臭が漂う感じだね」


 ドタドタ


「あら? もう業者さんが来たのか。無駄足だけど」

「どうも御苦労さまです~。あっ、替えは必要ないですよ? 僕が直しておきましたので」

「はい、はい。そうですね。はい御苦労さまです。では」


 バタン


「王女様何気に人使い荒いよねぇ」

「ホント、人を異世界からいきなり召喚して、魔王倒しに行けだもんね」

「困っちゃうよ。テンプレすぎて笑えてくる」

「まぁ、面白いからいいんだけどさ」

「この世界は、元の世界よりも過ごしやすいし。なにせこんだけゴロゴロしても、文句を言う人なんていな……王女様だけだもんね」

「でも、これで王女様が文句を言ってこなくなったらなったで僕は寂しいんだけど」

「毎日ゴロゴロしてるだけで、美少女が部屋に遊びに来てくれるとか、役得すぎるよね」

「あーあ。よし、寝るか」

「おやすみ」


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