第五話 実地訓練
(さて、場所を移してやって参りましたよ。仕事場に)
「……また、ここかよ」
アストビル。そう、先日仕事をしたばかりの所ですよ。
同じ所に発生することはまぁ、別段気にすることでもない。けど、昨日今日で連続して発生するのは別だ。
(私、もしかしてミスった?いや、でも仮にそうだとしてもあの程度のヤツがこんな短期間で復活するとは思えない)
「緋鉄さん、またって……?」
「ん」
いけない。考えてて新人忘れてた。
「ココ、昨日私が仕事した場所なのよ」
「あ、そうなんですか。あれ、でも昨日退治したんですよね?それなのに次の日すぐ出るって……?」
(ですよねー。そりゃ、疑問に思うわ。私だって思う)
「そうだよね。おかしいよね。疑問に思うのは当然だよね。だから、ついでに説明しましょう」
(さーて、どんな反応をするか……)
「基本的に退治した後に間を空けず発生することはないです。だから、昨日の仕事場に今日また来るってのはおかしい状況です。で、原因というか要因はいくつか考えれるけどなんだと思う?」
「えーと、……討ち漏らしたのがいた?」
(まぁ、それが真っ先に出るだろうね)
「まぁ、それが一番最初に出るでしょうね。討ち漏らした、討っても復活するヤツら。それが活性化したってのが考えられるわね。でも昨日始末したヤツらはそんな大層なヤツらじゃなかった。討ち漏らしたとしてもこんな短期間で復活できるわけがない。だからそれはない」
「……じゃあ、偶然同じ場所に発生した?」
「そうだね。次に考えるとしたらそれかな。でも、それもビミョーなんだよね。退治した後の場所って、ヤツらあんまり寄り付きたがらないみたいなんだ」
「そうなんですか?」
「そ。特に空間ごと浄化するような退治方したら顕著かな。私みたいな一体一体片づけていくのだとそこまでみたい」
「へぇー」
「まぁ、それでもやって来るようなヤツは手強かったりするね」
「……え?」
(うん。この子結構いいね。反応があるし、反抗的な態度もない)
「大丈夫。手強い程度なら私がなんとかするから。歯が立たないなら撤退だけど、ね」
「ということは私は何もするなってことですか?」
「いやいや。そういう格上相手じゃなかったら城崎さん、あなたがやるのよ」
「え?」
「さー、行きましょうか」
(うーん、なんか楽しい)
少し唖然としている新人さんを適度に気にしつつ、討伐対象さんの元へと向かいましょうか。
「はーい。ご到着。ここからが仕事場です」
目の前にあるのは、例の亜空間。得も言われぬ色合いというか模様というか、形容しがたいものが壁となってある。
「なんか気味が悪いですね」
「だよね。でも、これがあったほうが楽なのよ。周り見てみて」
城崎さんが私に言われた通り、周りを見渡してみる。私たち二人以外誰もいない周りを。
「誰もいないですね。……人払い?」
「そういうこと。私は亜空間とか結界とか言ってるけど、コレがあると周りの認識が誤魔化されるから気にせず仕事ができるってわけ」
「へぇー」
「でも、コレに寄ってくるように誘導される場合もあるから一概にコレがあって良かったとか思えないのよね。後、人によっては精神操作されているって言って騒ぐ人いるからあんまり言わないのが吉ね」
「分かりました」
「質問はあるかな?ないなら、いよいよ仕事です」
(流石にそろそろ仕事に取り掛からないとね)
私も準備をし始める。身支度を整え、得物を用意しようとしたくらいで彼女から声がかかる。
「じゃあ、あの1つ」
「何?」
「あの緋鉄さんの口調ですけど、さっきから変な感じになってるんですけど」
「……」
(しまったー!しばらくは敬語で通そうと思ってたのに、途中からおざなりに!
あー、これじゃ年上の威厳が削がれる。でも、ここで下手に繕うともっと危機的状況に……)
「……あの、緋鉄さん?」
「……はぁ」
(……しゃーない)
「ごめんね。城崎さん。言葉づかいが乱れちゃって。硬い感じで説明するのに慣れてなくて、つい素がでちゃった」
「あ、いえ。そんな、別に不快というわけでは……」
「そう?よかった。これで『この人ダメだな。』って思われたらどうしようかと思ったよ」
「そんなこと思いませんよ!」
「ハハ、今後も敬語と素が混じることがあるだろうけど、よろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
「さて、それじゃあお仕事といきましょうか」
「はい!」
(よし!成功だ!あえて失敗を曝け出して相手に対する親近感を抱かせる案、私の選択は正しかった!)
背を向け、安堵する。
頭の中身は微妙なことだが、とりあえず仕事前の懸案事項は解決された。
そろそろ実務的なことを教えるかと考えを変える。
「まずは得物を持ってください」
私は銃を、彼女は棒を。
(ふーん。やっぱりまだ自前か。てか、よくあったな)
「では、それに力を込めます。物理じゃないよ、オカルトだよ」
私は漫画でよく見るビーム刃みたいなのが銃口から出ているのをイメージする。
「では、それで目の前のコイツを切り裂きます」
四角く切り抜くイメージで腕を振るう。四角く囲んだ部分のみ周囲の模様と異なる。
「では、中に入ります」
作った入口を潜って私、続いて城崎さんが中に入る。
「……うわぁ」
結界内、現在の視界内には敵は見受けられない。ただ、本来の場所が不気味な配色で在るだけ。
「切ったところは、力を残しておいて念のため入口を維持しておく。逃げる時とか、増援の時とかに役立つから」
「はい」
入り方を教えて、一呼吸。ここからが本番です。
周囲の警戒は怠らず、振り向いて私は彼女に改めて挨拶をする。
「ようこそ。――――私たちの職場に」