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第三話 新たな仕事





「緋鉄。昨日はご苦労だった」

「あ、局長。いえ、大した相手ではなかったですし」


 ちょうどメディカルチェックが終わり、検査室を出た所で上司である、榊局長に遭遇した。

 私たち戦闘員に割り振られる退魔士は仕事が終わった後にはメディカルチェックするようになっている。心身ともに異常がないかをみるものだが、目的は変なものを拾ってきていないかだ。倒しに行って、持ち帰って拡散させては本末転倒どころの話ではないのだから。

 要するに、このメディカルチェックは普通のものではないということだ。

 そして、今の私の姿も普通ではない。検査着姿だ。

であるため、少々恥ずかしい。

 乙女的な思考回路をしているわけではないし、一応職務中だから露骨な嫌がり方をしないが、こんなスース―した格好で男性と接するのを好むわけではない。馬鹿な親に育てられたわけではないのだ。


 まぁ、この人は本当に事務的な、堅物といった表現が似合う人であるからそういった心配ごとはないのだが。

 それがこっちだけが意識しているように感じるので、なおさら恥ずかしく思わせているのでそれもそれで困る。


 そして、私の思考が少し逸れている間に局長は仕事を片付ける。


「そうか。じゃあ、この後も頼むぞ」

「……え?」

「はい。これが概要だ。しっかりな」


 それだけ言うと、局長はその場を後にした。


「……無難な返しをしたのは失敗か」


 残されたのは検査着姿の私とA4用紙数枚が綴じられた指令だった。






「……面倒だ」

「何が面倒なの?」

「ヒッ!!」


 独り言に返答を期待する人は一般的にいないだろう。私もその人であったから、わりと耳元付近から聞こえてきた声に驚いた。

 飛び上がるまではいかないものの、ビクッと大げさに反応してしまい、警戒心露わに振り返った。そこには呼びかけた本人であるレイさんがクスクスと笑いながら立っていた。


「あなたって、油断している時はほんと無防備ね」

「……だからって、囁くのはどうかと思います」

「ふふ、ごめんなさい。で、何が面倒なの?」


 少々非難を含めた言い方をしたのにレイさんは全く気にした風もない謝罪を述べただけで、私の独り言について聞いてくる。

 なんだろうか。少し遊ばれている気がする。


「はぁ、これ見てくださいよ」

「サヤちゃん、人に説明くらいできるでしょ?怠けていたら、そのうち会話が成り立たなくなるわよ」

「…………」


 確定。気がするではなく、事実遊ばれている。

 しかも、それらしい理由を妙にキリッとした顔で言ってくるから変な強制力がある。なんか腹立つな。

 けれど、この人に腹を立てても意味がない。事の発端となった指令の内容をかみ砕いて、ざっくり説明する。

 腹を立てることに意味がある場面ってどんなだろう?


「……私、緋鉄サヤが本日18時00分に新人、城崎サイの研修を担当することとなりました!」

「ヤケね」

「うっ」

「フフッ」


 ジト目から一転、おかしいといったふうに微笑む。

 そのリアクションに私が思惑通りに動かされている気がして仕方がない。


「そうね。もう、サヤもそういうことやるべきよね」

「私はレイさんに教えられるほうがいいです」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。でも、あなた、それだと後輩に使われることになるわよ。あなた、そういう人間じゃないでしょ」

「まぁ……」


 確かに私は自尊心が強い。自分がそこまで能力が高くないと自覚しているくせにある、ちっぽけなプライド。

 後輩に顎で使われると考えると確かに、確かに腹が立つ。仕事中に後ろから撃ってやろうかと思う。


「そういうのが嫌なら上にならないと」

「……はい」

「大丈夫。今日初めて顔を合わせるなら、サヤの説明だけで終わるはずよ。まぁ、出動になって実戦もありうるけど状況を見て、見学させるなり戦わせるなりさせればいいわ」

「……はい。わかりました」


 レイさんがフォローしてくれるけど、新しい子の相手は不安がやはりある。

 ある程度のことが一人でできるようになるまで、おんぶにだっこ状態で通常以上に神経を使う。それで私がミスでもして、その子まで巻き込んでしまったら……。

 学生時代のバイトでもこんな気持ちだったな。でも、あの時は、仕事が楽になるって希望というか期待があったし、所詮バイトで命がけじゃなかった。


「……はぁ、素直な子だといいな」

「素直じゃなかったら、一回戦ってみれば?」

「なるほど、それで叩きのめしてやると」


 己の未熟さを分からせるということか。なるほど、いい手だ。

 具体的にどこがいいかというと、私の気が晴れるのと鼻っ柱を折ってやれるところだ。


「うん。やっぱり教えるって大事ですよね。特に相手が知らないことを自分が教えてあげるのって」

「うん。サヤの中で一体何が考えられたのか追及しないけど、前向きになれたのならいいわ」

「そうと決まれば準備しないと。レイさん、失礼します!」

「はい、頑張ってね」


 先までの少しくらい雰囲気はどこへやら、軽やかな足取りでその場を後にする。






――――さて、まずは場所を確保しないと。







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