第二話 仕事です
あの人に連れられて、私は現在絶賛デート中です。いや、デートと言っても御飯食べたり、遊んだりするような甘いものじゃ全然ないですよ。
実際やってるのは仕事です、仕事。まったく、こんなに短時間で立て続けに仕事するなんて久しぶりだよ。
得も言われぬ奇怪。
常とは異なる空間。異空間。
そんな空間内で動く無数の影と動かぬ一つの影。
――シュッ
――パシュ
その動く影の一つ、私――――緋鉄サヤはその他の動く影を両手に握りしめた得物で駆逐していく。
――シュシュシュシュシュッ
――パパパパパッ
しかし、いくら倒そうとも蠢くヤツラは一向に潰える気配はない。
「レイさーん、数多くないですかー?」
「ええ、多いわよ。当然でしょう?私が誘ったのよ?」
「ですよねー」
――シュ
――パシュ
しゃべりながらも手も足も休めない。正確に異形のモノを撃ち貫いていく。
「やりごたえあるでしょう?」
「っと。そうです、ねっ!」
――シュッ
――パシュ
確かに先の獲物と違い、やりごたえはある。数が多いだけでなく、そこそこ強いのだ。
それに加え――――
「レイさーん、まだですかー?」
私はレイさんの護衛も行っている。
さっきから私ばかり動き回っているのはレイさんの準備が終わるまでの時間稼ぎ。
私はレイさんに向かってくる敵を迎撃しながら、暴れまわっていたわけだ。
意識の分散具合に気を付けながらやるのは骨が折れるが、なかなかに燃える状況であった。
確かにやりがいはあるし、先のくすぶりも払える。
「ん?もういいの?」
「……やっぱり、準備終わってたんですね」
おかしいと思った。コイツラの相手をしていて疑問に思ったのだ。レイさんにしては時間がかかりすぎると。
きっと準備は私が尋ねるだいぶ前に終わっていたのだろうけど、私の気が済むまで待っていてくれていたに違いない。おそらくはじめからそのつもりだったのだろう。
「気に障った?」
「いえ、そんなことないです」
「そう、よかった。じゃあ、やってしまう?」
「はい、お願いします」
「ふふ、久しぶりにお見せしましょうか」
そう言い、レイさんが目を細めると白い蝶が現れた。
続々と白い蝶が現れていき、瞬く間にこの空間全体を覆い尽くしていく。
私は動かないが、ヤツラは動けない。
「滅!」
――スッ
ほんの僅かにその程度しか音がしない。
けれど、眩い光が空間全体を染め上げた後の変化は劇的であった。
異空間であることには変わりない。だが、先ほどまで蠢くという表現が適切であったヤツラの姿が一切なかった。
かわりに一人の男が立っていた。
「馬鹿な……!いったいこれは!!」
「サヤ」
「りょーかい!!」
ひどく狼狽している男に向かい、銃口を向ける。
今度は私がみせる番。
両手に持った銃を側面が触れ合う程近くに揃え、狙いを定める。
「ブチ抜けーーーー!!」
――カッ
二つに揃えた銃により新たに砲身が作られたかのように、本来の径からは外れた太い光が放たれた。
光は真っ直ぐに男へと向かい、この仕事の達成条件を撃ち抜く。
「…………」
撃ち抜かれた後に残ったのは静けさと無傷の男。
男には撃たれた外傷はどこにも見当たらない。
ただ意識はないようでそのまま倒れる。
――ドサッ
「よし、任務完了!」
「ええ、終わったわね」
異形のモノが完全に消滅した異空間で、二人が任務終了を確認した声が響く。
それを合図にしたかのように風景が歪み始め、数秒後には元の空間へと戻った。
「お疲れ様、サヤ」
「お疲れ様です。レイさん。あ、それとありがとうございます。おかげですっきりしました」
「それはよかった。誘ってよかったわ」
「……はは」
正直、レイさんならひとりでこの仕事を余裕で終わらせられただろう。
なにせ、レイさんこと、白金レイは私が所属する組織のツートップの一角なのだから。
レイさんが本当にひとりで持て余すような仕事に私を呼ばれるはずがないのだ。そんな事態はいままでに起こったことがないらしいが。
今回のことは別に誰でもよかったはずで、効率を考えるなら私以上の熟練が呼ばれるべきだろう。
それでも私を呼んだのは、レイさんが私を気に入ってくれているからだろう。
……私もレイさんには好意的感情を持っているし、悪い気はしない。
「――――。報告も終わったし、一緒に食事でもどう?」
「いいですね。ゴチに――――」
「奢らないわよ」
「はは、残念!」
軽口を叩きながら、私とレイさんはこの場を後にする。
「私にたかるほど、お金がないわけないでしょ。あなただって、うちの職員なんだから」
あ、私の職業、ありていに言えば退魔士です。ちなみに公務員です。