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第一話 戦闘?いえ、事後です





「……………」


 ボケーとした、と表すのが一番適切な表情で彼女は椅子に座っていた。彼女とは先程業務連絡を受け、ひとっ走りし、指定された場所で仕事を全うした彼女である。

 出発から仕事終了、その後の遅い昼食にこのファストフード店に入るまでの所要時間およそ1時間。

徒歩で片道30分を半分以下の時間で走破したが、仕事は着実に抜け目なく完了したにも関わらず、この速さ。彼女がこの仕事に慣れたといっても、速い。

 まぁ、理由は単純なもので。


(……なんか、呆気なかったなー)


 要するに相手が格下過ぎたというものである。

 別に苦労して強敵を倒したいというような、バトル漫画的ドM思考ではないが、意気込んで行ったために肩透かしを盛大に食らった感じは否めないので少々不完全燃焼気味というわけだ。

 そして、なんだかそのまま帰るのもと考えていたら、小腹がすいているのに気が付いてこの店に入り、一番安いものを注文し席に着き、その注文の品も食べてしまって、という現状だ。


(……どうしよっかなー)


 もともと急いで出たために大して持ち合わせがあるわけではなく、このお代も仕事道具バッグに入っていた電子マネーで払ったのだが、それも残高が心もとない額である。

 そんなに心もとないならおとなしく帰ればいいと、思うだろう。だが、今の彼女にはその選択肢がなぜか出てこず、結果ここでボケーとしているわけだった。


「あなた……、外でその顔はやめなさい」


「ん?」


 けれど、その表情はかけられた声で変わる。その声により、やや虚ろだった意識がしっかりとしたものへと変わると隣に誰かが立っていることに気付いた。首を捻ってみると、そこには見知った顔があった。


「あー、お久しぶりです。珍しいですね、あなたがこんな所にくるなんて」

「あなたがいるのが見えたから入っただけ。じゃないと、こんな所一人じゃ入らないわ」

「それもそうですね」


「あなたは……、大方仕事で不完全燃焼起こして、もやもやしていて、おなかがすいているのに気づき、このお店に入ってそれをひとますは解消したけれど、結局どうするか決まらずアホ面晒していたというわけね」

「大筋それであってますけど、言葉のチョイスに若干の悪意が感じられるのは気のせいでしょうかねぇ!?」

「悪意じゃないわ。敵意よ」

「どういうこと!?」

「冗談よ」

「ですよね!!」


 コントのような問答に一段落つくと、彼女は対面する形で席に着いた。


「それにしてもこんな所で済ますなんて……。あなた、意外に舌が肥えているのに。

 ……相変わらずなのかしら?」

「えぇ、まぁ、相変わらずです」

「その程度で変わるほどの給料でもないでしょうに……、これも長年の癖というものなのかしら?」


 やや呆れを含みながらも、現れた女性はどこか楽しそうに語りかける。それに対する彼女の反応もつっけんどんな感じがするも楽しげだ。






 そのまま他愛のない会話をすること30分ほど。


「ところで私を見かけたって、言いましたけど」

「言ったわね」

「そもそもなんでここに?テリトリーじゃないですよね?」

「ああ、それは……」


 少しの沈黙。けれど私は感じ取った。

 ――――あ、これ嫌な感じだ。


「あなたが不完全燃焼を起こすと思って」


「は?」


「敵、弱かったでしょ。なんでこんなのを、って思わなかった?」

「……すこし」

「別に特別急ぐこともなかったから新人でも対処できたでしょうね」

「……もしかして?」

「どうぞ」

「コスト?」

「正解。対応可能な新人は燃費が悪くてねー。お金がかからない、あなたに白羽の矢がたったわけ」

「…………」


 途中から授業っぽくなったけど、なるほど。私は要するに経費削減に利用されたわけか。いや、子供でもないからわかるんですけどね。それが組織として重要なことというのはけれど、別に私そこまで達観しているわけじゃないんですよね。なにせ、まだ大人になって日が浅いものですから。


「はい。そこでいじけない」

「……う」


 額を小突かれた。しかもばれてる。少し恥ずかしい。


「フフッ。そんな、あなたに私からの提案。この後一緒にどう?」


 微笑まれて、なおさら恥ずかしい。


「デートのお誘いですか?でも私お金ないですよ?」

「半分正解、半分見当違い」


 おかしいという風ににこやかにそう返された。そして視線をチラッと――――。ああ。


「いや、私、別に――――」

「でも、嫌いじゃないでしょ?」

「…………う」


 確かにソレは現状一番私が渇望しているものかもしれない。

 何もかも見透かされている。相変わらず観察眼が凄い。


「……はぁ。喜んでご一緒させていただきます」


「じゃぁ、いきましょうか」


 言うや否や、早々に彼女は席を立ち、外へと向かう。私も置いてきぼりを食らわないように、トレイを手に取り、彼女の視線の先にあった――――仕事道具バッグを肩にかけ、後を追う。




 外に出たすぐの所で彼女は待っていた。少し遅れて出てきた私に文句を言うでもなく、彼女は笑顔で手を差し伸べながら、こう言った。




「さぁ、早く逝きましょう」







 彼女も同業者だ。







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