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「アシュ・レイ社の者ですが」

「はい、伺っております」

 指定された宿に着いたセキとトーリ。

 トーリはすでに討伐メンバーが女性限定ではないというラオの言葉で堂々と宿に姿を現した。

 受付の女性がセキとトーリを見る。一瞬目を見開いて、平然を装う。

 一息おいて言った。

「女性一名様、男性一名様でよろしいですか?」

「えぇ」

「お部屋はどうしましょうか?」

「二人部屋は空いてる?」

「はい。ご用意できます」

「それで、お願い」

「では、お部屋の鍵を取ってきますので、少々お待ち下さい」

 少し慌てるように裏に入って行った。

 セキとトーリが入った宿は木造造りの宿だった。古びた感じに味があった。受付を見ているのも、何なので、周りを見てみる。

 左に階段があり、上に上がると部屋に行けるようだ。その奥にお風呂。右に食堂がある。

 受付の人はまだ、裏から出て来ない。

「遅いな」

「もめてるんじゃない?」

「下準備不足か。只でさえ、ずっと車の中で疲れてるっていうのに」

 トーリは腕を上にあげて、背伸びをする。

「お疲れ様。すぐ来るわよ」

「お待たせしました」

 本当にすぐ来た。受付の人とは別の女性が鍵を持って出てきた。

「お部屋へご案内します。お荷物をお預かりしますね」

 部屋へ案内すると同時に、荷物を持ってくれるというのだが、セキはやんわりと断った。

「大丈夫よ。そんなに重くないから」

 また、何かされても面倒だ。

「かしこまりました。では、二階へどうぞ」

 セキとトーリは案内の人が階段を登って行くのを後ろから付いて行った。

「お風呂と食堂は一階にありますので、お使い下さい。夕ご飯は午後六時からで、都合のよい時間にお越し下さい。では、失礼します」

 部屋に着いて、案内の人は部屋の中と宿の説明をして、出て行った。

 セキとトーリは荷物を部屋の隅に置いて、部屋を見渡した。

 玄関からすぐに居間になっていて、隣の部屋がベッドルームになっていた。隅にベッドがそれぞれあり、間に棚。その上にスタンドが置いてあった。居間の真ん中には大きな木の机があり、周りに置いてある座布団に向かい合って座った。

「どうだった?」

 トーリはセキに聞いた。

「竜退治っていうのは確かね。ただ、」

「ただ?」

「女性だけ来て欲しかった。だけど、本人達にはそれを知られたくなかったってのはあるでしょうね」

「隠す理由があった?」

「そうでしょうね」

「犠牲……」

 トーリは何かを思い出すように呟いた。

「犠牲?」

「車で寝てる時、村人が周りで話してた。本人達は小声で話してるつもりでも、オレにははっきり聞こえてたから、この言葉が全部の本性かもね」

「何話してた?」

「これ以上犠牲を出したくない。全部倒してくれればいいってね」

「全部ねぇ。竜が多くいるのか、それとも、他に倒してもらいたいモノがいるのか」

「後半に一票だな。女性限定っていうのも、それに関係しているだろうしさ」

「まあ、そう考えるのが妥当でしょうね」

 そう言って、セキは立ち上がり、音を立てず襖まで歩いていく。その間、トーリも黙ってその様子を見守っていた。

 襖に手を掛けたセキは勢いよく横に引いた。そこには、お茶を運んで来たのであろう少女がお盆を持って座っていた。

 急に開いた襖の音にビクリと体が動いた。

「あ、あの、お茶をお持ちしました」

「あらー、ありがとう。何か、聞こえた? 」

「い、いえ、今来たばかりなので!」

 少し早口で少女は言った。

「そう」

 セキは少女からお盆を受け取る。

「気配消すなら、もう少し上手にすることね」

 セキは少女を見つめる。

「失礼します!」

 そう言って、少女は部屋から出て行った。

「セキ、顔が怖い。逃げちゃったじゃんか」

「あれぐらい言っとかないと。答え方が下手」

「何も聞いていませんって、簡単に言えばいいのにね。今来たなんて、最初からいましたって言ってるようなものだからねー」

 セキは元の所に座って、お茶を飲んだ。

「……ぬるい」

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