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「今回は二人だけだとよ」

「大丈夫なの?」

「ロシェで一番有名な会社を選んだらしい」

「この人も女性?」

「門番に聞いた話ではな」

「普通、頭から布団被るか?」


『怪しまれてるじゃん……』


「声少し抑えて」

「寝てるんだから、聞こえやしないよ」


『おもいっきり聞こえてるんだけど』


「今回で収まればいいけど」

「いつまでも、犠牲を出すわけにはいかないからな」


『犠牲?』


「全部倒してくれればいいんだが」


『竜だけじゃないのか?』


「まあ、ここで話しててもしょうがないわ。あの方に任せていれば大丈夫でしょう」

「そうだな」


 ゆっくりと足音が遠ざかって行く。


『面倒な事に巻き込まれなきゃいいけど』



「お待たせしました」

 先ほど出て行った女の人が帰ってきた。後ろには背の高い男性が立っていた。

「お待たせしました。初めまして、当主代行のラオ・カフスと申します」

 セキの前に座って、名刺を出した。

 薄水色髪で美形な顔立ちをした青年だった。スラリと伸びた長身が印象的で、ゆっくりとした身のこなし方は村の次の当主となる威厳も持ち備えていた。

「アシュ・レイ社のセキ・アテニティです。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 ラオはセキから名刺を受け取って、笑顔で応えた。

「失礼ですが、ご当主は?」

 セキからの質問に少し間をあけて、ラオは慎重な面持ちで言った。

「今、当主は床に伏せっていて。代わりにわたくしが代行として表に出ています」

 当主が床に伏せっているなど初めて聞いた。依頼状が届いてからここに来るまでそんな情報は一切無かった。確かに依頼状は当主からだった。なら、なぜここに来るまで隠さなければならなかったのか。

「そうですか。あの依頼状はご当主が?」

「いえ、わたくしが当主から伺って、出しました」

 ニコリと笑う顔がますます、怪しい。

「分かりました。では、依頼内容を詳しく聞かせて下さい」

 セキは用意しておいた手帳を開けた。

「はい。わたくし共の村の裏手に山があります。そこにいる竜を討伐して頂きたいのです」

「竜の詳しい事は分かりますか?」

「いいえ。何分、村の人達の事でいっぱいで姿や大きさなどはあまり把握出来ていないのです。あの山にいる事は分かっているのですが…」

「山の何処にいるかとかもですか?」

「はい。……未だ帰ってきた者がいませんので」

 調査隊や討伐隊。有りとあらゆる人物を派遣したものの、誰も帰って来なかったという事を聞いた事がある。どんな生き物がいるのか、完璧に把握が出来ていない山だそうだ。そんな山にいるだろう竜を討伐してくれと言われて来る私らは特殊なのだろうか。

 まあ、それが仕事だから来たわけなのだが。

「そうですか。では、情報はこちらで集めましょう。怪我人とかも出ているのでしょう?」

「はい。残念ながら、亡くなっている民もいます。いち早く退治して頂きたいのです」

 真剣な顔でラオは言った。

「分かりました。では、このような話の後ではあるのですが、報酬について」

「はい。ご希望がございましたら」

「そうですか。こちらとしては希望というより、確定的な条件です。呑まれない様でしたら、手を引かせて頂きます」

 圧倒的な口調でセキはラオに言った。何かを企んでいるかもしれないという状況以前に、命を張るというのは変わらない。どんな依頼であれ、実行する。そのための条件である。

「分かりました。その様にさせて頂きます」

「ありがとうございます。では、この提示額の半分を先払い、残りは帰って来てから頂きますので」

「……先払いですか?」

「こちらも身体を張っていますので」

「分りました。そのようにさせて頂きます」

「話が分かる方でよかった。お金はこちらに振り込んで下さい」

 セキはラオに小さなメモ用紙を裏返しで渡した。

「無事にお戻りになることを祈っております」

「ありがとうございます」

「よろしかったら、宿を用意させて頂いていますので、お泊まり下さい」

「分かりました。一つお聞きしてもいいですか?」

「何でしょうか?」

「なぜ、女性だけの依頼なのでしょうか」

 突然、直球で聞いたセキ。

 ラオは、どう答えてくるか。

「いえ、セキ様は勘違いされているみたいですが、依頼状には『できるだけ』、と書かせて頂いておりますので」

 そうきたか。

「そうですか。安心しました」

 無理にトーリを隠す必要が無くなった。

「では、後は自由にさせてもらいますので」

 セキはそう言って立ち上がり、部屋を出る前に後ろを振り返った。

「ラオさん。あまりおしゃべりなさらない方がいいですよ。――では、失礼します」

 セキは部屋を出て行った。



「どういう意味でしょうか」

 隣の部屋から、先ほどの女性が出てきた。女性は、ラオの横に座り、飲み物をそっと机の上に置いた。

「さあね」

 ラオは顔を軽く横に傾け、飲み物に口をつけた。

「二人を追いかけます」

「いいよ、セシル」

「よろしいのですか」

「わたしは喋り過ぎたのだろうか。セシル」

「私には分かりません。ただ、あの方達には何かを感じるんです。うまくは言えないのですか」

「そうか」

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