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ラクセは、山の中を開拓して作られた町。ロシェから、二時間ほど車を走らせば着く。だが、その山道は厳しい。砂利道が多く、たまに舗装された道もあるのだが、ほとんどが砂利道である。周りは木で囲まれていて、景色を楽しんでとか思いながら、ドライブが出来るでもなく。なぜ、こんな道を好んでまでも、ラクセに行こうと考える観光客が分からないとセキは思いながら、運転をしていた。
助手席には、砂利道を通る度に体が踊っているトーリが座っていた。窓に肘を置き、ずっと外を見ていた。
「外ばっかり見てて、楽しい?」
セキはちらっとトーリを見て、言った。
「……気持ちわるー」
「はっ?」
ゆっくりと繰り出された言葉が気持ち悪いでは意味が分からない。
「……酔った。吐きそう」
「ちょっ、それなら早く言いなさいよ!止めるから、外に出て」
セキは指示器を出して、車を端に寄せた。
車が止まった事で、少し楽になったのか、トーリは後ろに体重を預けた。
「ふう……」
「吐き気は?」
「車止まったら、マシになった」
セキはそれを聞いて、軽く溜め息をついた。
「道がデコボコだからかしら。後ろで寝ていた方がいいわ。ついでに、毛布被って、隠れてて」
「りょーかい」
軽くあしらうように言って、トーリは後ろに行って、置いてあった毛布を被った。
それを見たセキは、車走らせた。
「狐が山で酔うなんてねー」
セキはトーリの言い方に反発するかのように言った。
「自分で登るのと、車で登るのとは違う」
「まぁ、確かに。依頼の内容は私が聞いて来るから、トーリは車で待機」
「了解。あまり無茶はしないように」
「はぁい」
「信用ない返事。まあ、好きにすればいいよ。表舞台はセキに任せてる。ちゃんと仕事が出来ればいい」
「それは保証するわよ。怪しくても、依頼は依頼ですから」
バックミラーから見えるセキは不敵な笑みを浮かべていた。
まず、ラクセに入るには、門を通らなくてはならない。セキは門番の前に車を止めて、窓を開けた。
「ラクセにようこそ。観光ですか?仕事ですか?」
「依頼状を頂いて来た者ですが」
「はい。伺っております。アシュ・レイ探偵事務所の方ですね。お手数ですが、依頼状見せて頂けますか?」
「依頼状?」
「はい。見せて頂けますか?」
門番は決められた笑顔で、両手を差し出してきた。
「ちょっと待って」
そう言って、セキはダッシュボードから、依頼状を取り出した。
「ここまでの道、あまり舗装されてないようですけど?」
「はい。申し訳ございません。竜の到来以降壊されては直していたのですが、埒が明かないので、こちらに来て頂いて下さる方々には申し訳ないのですが、舗装を実施しておりません」
「だそうよ」
セキは誰に言うまでもなく、言った。
「何か言われましたか?」
門番はセキが何を言ったのが分からず、聞いた。
「気にしないで、独り言だから。これでいいかしら」
そう言いながら、門番に依頼状を渡した。
「はい。ありがとうございます。少しお待ち頂けますか?」
「分かったわ」
五分も待たず、門番は戻ってきた。
「お待たせ致しました。確認が取れました。人数は一名様でよろしいですか?」
「ん?あぁ、女性二名よ。後ろにもいるから」
「かしこまりました。では、そのまま道沿いで行かれますと、村長の家がありますので、そちらへどうぞ」
右手で道を示して、門番は笑顔で言った。
「ありがとう」
セキは窓を閉めて、車を走らした。
門番の言う通り、道沿いに車を走らせると、所々の家が建て直しをしている。壁を塗り直したり、屋根を直したりしている。竜が通る村としては、毎回家の建て直しをしているらしい。
そのまま車を走らせると、目の前に大きな家が見えて来た。この家が当主の家なのだろう。他の家より豪華である。民の家と違い、壊れている所などない。木造建築の二階建てだった。
「行って来るから」
後部座席に向かってそう言うと、車から降りた。
セキは長い黒髪を高い所で結び、黒のフレームの眼鏡を掛けていた。普段は腰ほどまである黒髪を下ろして、眼鏡も掛けていない。目はいい方なので、伊達眼鏡を掛けている。依頼人に会う時はいつもこの格好である。依頼を円滑に進めるためだとか。いわゆる戦闘体勢だ。
玄関を横に開けると、まっすぐに伸びた道があり、奥にさらに扉があった。左側に数個の部屋。右側に二階に登る階段があった。
「アシュ・レイ社の者ですが」
「はーい」
すぐに手前の部屋から、女性の声が聞こえた。
部屋から出てきたのは、長袖の白のワンピースを着た女性だった。
「お待ちしておりました。こちらのお部屋でお待ち頂けますか」
出てきた部屋を手で示した。
「ありがとう」
そう言って、セキは部屋の入口でブーツを脱いだ。
真ん中に木で出来た大きな机と座布団があった。右側には一面のガラス窓。外には広々とした庭が見えた。自分の車は玄関側に置いて居るので、見えなかった。左右に座布団があったので、右側に座って、 鞄から手帳とペンを出した。
「主を呼んできますので、少々お待ち頂けますか」
「はい」




