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 朝、いつものようにユズに起こしてもらい、クロエの作った朝食を食べる。

 仕事は事件の調査の継続と猫探し。

 夕方暗くなる前にユズが事務所に帰ってきた。

「どう?」

 セキはユズに聞いた。

「マンション周辺を探してはみたんですけど、遠くに行ったようではないので明日も少し範囲を広げて探してみます」

「そう。ご苦労様。明日もよろしくね」

「はい」

 事務所のチャイムが鳴った。

「私、出ますね」

 ユズが玄関を開けると、昨日来たアヤカだった。

 見つかり次第、連絡するとアヤカに言ってあるので、昨日今日で来たというのは何かあったのかとセキは心配になった。

「どうかしましたか?」

「すいません。すぐに連絡しようと思ったのですが、連絡先を無くしてしまって、学校の帰りに寄ることになってしまって」

 走ってきたのだろうか、少し息が上がっている。一気にしゃべって余計に疲れを増している。

「一旦、落ち着きましょ。中に入って」

「はい」

 ユズが昨日と同じ席に案内してる間に階段からトーリとクロエが下りてきた。すでに二人は戻ってきていたので、チャイムの音で気がついたようだ。

 二人にも待機してもらって、セキはアヤカの前に座った。

「今日朝起きたら、猫が戻ってたので、連絡しようと思ったのですが連絡先のメモが無くなってて、連絡が遅れました」

「それは大丈夫よ。無事に見つかってよかったわ」

「はい。お世話になりました」

 セキにお辞儀をしてアヤカは立ち上がり、ソファに座っているトーリ達の前を通りすぎようとしたら声をかけられた。

「ちょっといいか?」

 トーリだった。

「……はい」

「最近、怪我したりとかしてないか?かすり傷とか」

「怪我ですか?してないです、けどそれが何か?」

「いや、してないならいい」

「気にしないで」

 後ろから付いて来たセキに声を掛けられた。

「はい。では、失礼します」

 アヤカは若干トーリの発言を気にしながらも、帰っていった。

「どうしたの?」

 セキもトーリの行動が気になった。

「あの事件の現場には少し血とは違う匂いが少し残ってた。あの日、雨と雪で消そうと思えば消せたんだ。それをわざわざ残してる。で、今回あの子が後ろを通った時に同じ匂いが微かに付いてた。たぶん、セキの距離じゃ気づかないぐらいの」

「なるほどね。さっきあの子、朝起きたらって言ったでしょ。普通私たちに依頼までした子よ。猫が帰ってきたら気づくでしょ。例えばよ。事務所から朝までの記憶が曖昧になっているとしたらって考えれるんだけど」

「可能性はあるな」

「で、血の匂いでしょ。――次はあの子かもしれない。トーリ、すぐあの子を追跡。気づかれないように。ユズはもう一度マンション辺り探ってみて。目撃者がいるかもしれない。クロエは私と準備ね。では、解散!」





 アヤカの尾行を始めてから三日目。

 学校や友達と遊びに行ったりとごく普通の学生生活。この中にほんの少し違いが出れば、血を吸われに行くだろう。

 トーリはターゲットのマンションの向かい側にあるマンションの空室を借りて待機していた。

 玄関が開き、鉄の扉がガチャンと音をたてて閉まる。

「お疲れ様です」

 コーヒーとジュースの缶を持ったユズが入ってきた。 礼を言って、コーヒーの缶を受け取る。

「どうですか?」

「今のところは以上なし」

 コーヒーを飲んで一息つく。ブラックコーヒーのチョイスはセキだろう。お昼を食べた後の眠気覚ましにちょうどいい。

 また、扉が開く。

「ユズも帰ってきてたのね」

 セキはブーツを脱いで部屋に上がってきているところだった。

「はい。情報が一つあって」

「どんな?」

「最近、あのマンションの近くで猫を抱いている男の人を見かけたって言う子供がいて。写真見せたら、この猫っぽいという話なんです。近所の公園に行く途中で、はっきりとは見てないようですが」

 アヤカが飼っていた猫を抱く男の人。もしそれが事実ならば、その人が何か関係してるかもしれない。

 思考を巡らせていると、トーリが何かに気づいた。

「出てきたな。――なあ、セキ。あの子手ぶらで出掛けてる」

 マンションのエントランスから出てきたアヤカを部屋のカーテンの隙間から見る。

「あの子、いつも出掛ける時は鞄を持ってたわね。今回は、外れじゃなさそうよ。トーリは追跡」

「了解」

「ユズはクロエを呼んで、私たちに追い付いてきて」

「分かりました」

 飲みかけのコーヒーをそのままに、見失わないように、急ぐ。

 階段を駆け降り、アヤカが歩いていった方向を見る。どこか曲がったのか姿がない。直ぐ様携帯が鳴った。セキからの着信。まだ部屋に待機しているセキならば分かる。

「どっち行った?」

「二つ目の十字路を右よ」

「私もすぐ行くわ」

 携帯を閉じ、道を進む。 町は昼過ぎの賑やかな雰囲気でただ人々は変わらない日常を送っていた。

 一つ違うのは、アヤカがどこかに向かっていること。それも行く場所がはっきりとわかっているような足並みで。

 後ろの気配に振り替えることもなく、すんなり歩いているので、トーリの追跡もしやすかった。もちろん、周りの人に気づかれないように。すぐセキも追いつき、アヤカの後ろを追う。





 尾行を続けて十数分後、廃れた倉庫にたどり着いた。

 窓は割れ、黒く汚れた壁。塀に囲まれていて外から倉庫の中を見るのは難しい。絶好の場所と言っていい。

 アヤカが迷うことなくこの場所に来た。今や廃屋化した倉庫を知っていたとは思えない。もうすでに誘導されているのかもしれない。

 塀の門を越え、左側に曲がり、倉庫の入口へと入っていく。

 トーリは銃を手にし、セキも剣の柄に手をかける。

 倉庫の入口は解放されたまま、アヤカはすんなりと入っていく。入る前に垣間見た表情は虚ろでただ何かに導かれたように歩いていた。

 窓から見えないように背を低く、入口に近づく。

 壁に背を預け、トーリは少し覗く。

 窓から日差しが入り込み、所々明るい。ダンボールや廃材、木のケースなどが散らばっている。

 中央付近に一人。奥に一人、木のケースに座って足を組んでいるのが見える。武器を持っているようには見えない。二人とも男性。

 振り返り、小声で話す。

「とりあえず、男二人。手前に一人で、奥に一人。武器は確認できない。――どうする?」

 他に仲間がいるかもしれないが、見えるのはここまでだ。後はセキの判断を聞くしかない。

「人がいるなら観察してる場合じゃないわね。まずは動きを止めてから、ね」

 急に向こうも攻撃はしてこないだろう。もし、されても対処は出来るように突入だ。

「動くな!!」

 アヤカに近づこうとしている男に銃を突きつけながら、トーリが叫ぶ。

 肩に触れようとした手がピタリと止まり、きょとんとする。 あまりにも驚かなすぎて、逆にこちらが困るほどに。

「何?邪魔しないでくれるかな……」

「そういうわけにはいかないのよ。吸血族長ダンニューム・ゴーンの依頼により、あなた達を確保します」

 鞘より剣を抜きながら、セキはトーリの右側に進む。

「だから?」

「その子の解放、及び里の裁きを受けてもらいます」

「なるほど。生け捕りにしたいわけね。どうする?キリィ」

 座っている男に振り返り、キリィと呼ばれた人物はゆっくりと立ち上がり、近づいてくる。

 そして、二人の姿がはっきり見えたとき、瓜二つの双子であるのが分かった。金髪で肌は白く、すらりとした細身で、目鼻立ちが整っている。 ただ一つの違い。手前が碧眼でキリィがガーネットのような深い紅色だった。

「その前に武器を下ろしてくれないかな?話をしよう」

 セキとトーリは相手が武器を手にしてないため、剣を収め、銃を下ろした。

「ありがとう。僕はキリィ・アラウド。弟のイアン・アラウド。君たちの名前、教えてくれるかな?」

「セキ・アテニティよ」

「オレはトーリ・グラン」

「そう。あと、後ろの二人も出てきたら?」

 まさか、追い付いてきていたクロエとユズにも気づいてるとは思わなかった。という事はセキとトーリがいた事も気づいていた事になる。それで、あの反応だったのかとセキは納得した。しかも、長の言う通りアラウド家に間違いなさそうだ。

「クロエ・ロマオです」

「私はユズ・ネスカです」

 それぞれの名前を名乗る羽目になってしまった。

「じゃあ、この子を解放する条件は知ってる?」

 セキが答える。

「印を付けた本人が死ぬか、本人の血を一週間印の場所に刷り込む」

「正解。という事は尚更、君たちをここから帰すわけにはいかなくなった訳だね」

 口角を上げ、不敵な笑みを浮かべるキリィ。

 それを見て、セキはため息をついた。交渉決裂だ。

「素直に降参してくれればよかったんだけど。――やるしか、ないようね」


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