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セキはゆっくりと朝食を食べた後、ユズと一緒に事務所に行った。
事務所にはクロエがいた。
「おかえりなさい。お疲れ様です」
「ただいま」
「トーリさんと一緒じゃないんですか?」
「警察に行ってる。もう戻ってくるでしょ」
ちょうど玄関が開いて、トーリが帰ってきた。
「ほらね」
「何が?」
「トーリがもうすぐ戻ってくるって、さっきクロエに言ったの」
「あぁ。歩く音で分かったんだろ」
「まあね」
さすが、長年一緒にいる事だけはあるなとクロエは思った。
「そうそう、セキさん。写真来てますよ」
「ありがとう。――あの人は仕事が早いわね」
あの人というのは警察の写真を撮っていた人だ。正直、名前は知らない。
「仕事になりそうですか?」
クロエに聞かれて、セキは応えた。
「仕事になるか、まずは調査してからね。そうそう、クロエって、チューベローズっていう花知ってる?」
「チューベローズですか?知らないですね。ちょっと調べてみますね」
机はセキとトーリの分しかないので、お客が座る所にセキの机からノートパソコンを持ち出し、画面を開けて休止状態から起動させた。インターネットで検索をかける。
「チューベローズ。6月16日の誕生花。リュウゼツラン科。メキシコ産。花期は7~九月。花言葉は『危険な楽しみ』」
「危険な楽しみ?」
「はい。そう書いてありますね」
「ありがとう。参考になったわ。……まあ、一度、里に戻るしかないか」
何だか嫌そうにセキは息を吐いた。
「被害者の腕にはタトゥーではない内側から浮き上がった花があった」
「そんな事ってあるんですか?」
「聞いたことがないから、里の長老にでも聞きに行こうかと。知ってたら、確実にこの仕事請け負う事になるからね」
「分かりました」
「んじゃあ、クロエはトーリから警察にもらった事件内容を詳しく調べて。後、トーリとユズは被害者の近辺調査ね」
「でも、そういうのって警察教えてくれないんですか?」
「そんなわけない」
さも当たり前かのようにトーリは答え、クロエの前に座り、足を組む。
「警察は事件の事実しか伝えない。依頼してこようと解決するのは警察だ。私らに手伝ってもらってるなんて事実は消されるんだよ。だから、自分達で調べて事件解決すれば、依頼料ふんだくればいい。関係なければ手を引く。そういうシステムだよ」
「……シビア」
「そういう世界って事だ。ってか、ユズとオレでどう近辺調査するっていうんだ?」
「あぁ」
二人を交互に眺めてセキは言った。
「親戚でいいんじゃない?兄妹だと無理あるし、親戚なら顔似てなくても問題ないでしょ」
「そういう設定、ね。真相が知りたくて、聞き回ってるって事で」
「って事で。あくまで警察は関係ないと。ついでに警察には情報一切流さない方向で」
「了解」
「後は私が戻るまで各自で仕事に励むって事で、よろしくね」
そう言ってセキは一階に降りて行った。