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 セキの里はロシェから車を西に二時間ほど走らせた所にある。東西に河川が流れていて、途中から道沿いに流れているので、川沿いに走れば着く。半円を描いた橋が掛かっていて橋を渡るとセキの里がある島に入れるようになっている。橋の前に見上げる高さほどの門が立っていて、左右に門番がいた。しかも同じ顔。見分けは未だに分からない。

 セキは車を横につけた。車を降りて、サングラスを外す。

「いつもご苦労様。通してもらえる?」

「あぁ、セキか。久しく見ないから誰かと思ったよ」

 里を出たっきり一度も帰ってないのでそれもそのはずだ。

「ちょっと長に会いたくてね」

「そうかい。すぐ帰るのか?」

「内容による」

 セキの簡潔な答えに鼻で笑って、左側の門番が手を出す。

「車の鍵出しな。隠しとくから」

 と、左側の門番。

「飛んでくれば早いじゃねぇか」

  と、右側の門番。

 セキは車の鍵を渡した。

「一々、めんどいし」

 鼻で笑われた。笑い方も同じだ。さらに区別がつかない。

「誰か入口でいるから、道案内してもらってくれ」

「ありがとう」

 そう言って、セキは門を通って、島に一歩踏み入れた。

 途端に景色が変わる。前には一本の道。後ろにあったはずの門や川がすでに見当たらない。完全に林の中だ。無理に進めば迷う。そういう仕組みだ。余計な者が入らぬように惑わす。

 久しぶりに帰ってみればこの歓迎ぶり。道など知らない。入口に誰かいると言っていたので、少し待つ。

 木々が揺れ、背後から何か来る。知らない者なら警戒するが、知ってる懐かしい気配がしたのでほっておいた。背中に飛び付いて来るのはいつものパターンで分かっていたので、少し前屈みで構える。途端に前に重心がかかり、重さで一気に後ろに倒れかけたのを、足で踏ん張る。

「セっちゃんだー」

 背中からまだユズよりは少し大人の若いはしゃいだ声が聞こえた。

「はいはい」

「セっちゃんだー」

「しつこい。……てか、重い!」

「乙女にそんな事言っちゃダメなの!」

「誰が乙女だ。早く降りなさい」

「はーい」

 セキが素直な子は好きなのを知っているので、背中から降りる。セキの前に出て、言った。

「おかえり。セっちゃん」

「ただいま、ココ。もっと普通の歓迎は出来ないの」

「セっちゃんは特別」

「そりゃどうも。迎えってココ?」

「うん。じじから頼まれた」

「そう」

 じじというのは長の事だ。ココは長の孫。セキとは近所のお付き合いだ。里にいた時はよく面倒をみた。うぐいす色のショートボブ。目がぱっちりしていて、白い絹の肌と薄く赤く染まった唇でまだあどけなさが残る子である。

「昔はおぶってくれたのに」

「昔って、六年も経てば違うの」

「えー」

 不服の声と仏頂面がココの顔に合わない。

「妥協して手、だけね」

 セキはココに左手を差し出した。

「やった!」

 差し出された手を嬉しそうに自分の手を重ねた。

「あ、セっちゃん。あまり周り見ないように進んでくれると助かる」

「りょうかい」

 惑わされたら、一切周りの声などが遮断されるため、ココではセキを止められない。

 話に集中して周りを見ないようにして、セキはココについていく。

「もしかして、セっちゃん。里からの手紙見てない?」

「まったく読んでない」

「手紙にいつも道案内付いてるのに。だから、私が案内しなきゃならないんだよ」

「来る予定がないからね。ていうか、六年で何回変えてるの……?」

「んー、二十回ぐらい?」

「物好きだね、長は。わざわざ出さなくていいのに。手紙なんて、すべて読まずに燃やしたよ」

「セっちゃん、作った火はダメなんだよ」

 里の者以外に分からないように手紙は暗号化されているが解析されても困る。人間の手で作られた火や自然の火では完全消化とはいえず、復刻されやすいのでココは心配したのだ。

「知ってる。狐がいるから」

 ただし、特殊の火ならば問題ない。完全消滅してしまうからだ。

「さすが、セっちゃん。てか、狐といるの?」

「そう。あと竜と猫」

「物好き」

「偶然の産物よ」

「んじゃあ、その中セっちゃんに血くれる奴いるの?」

「狐」

「そっかぁ。よかったね。見つかって。――てことは、強いの?」

「まあね。この事は他言無用ね」

「うん。分かってる」

トーリが死ねば、セキも死ぬ。そういう原理でセキは今を生きている。この世界で。

「さあ、着いたよ。セっちゃん」

 セキはそう言われて前方を見る。太陽が眩しくて、手をかざし、自分の里を見た。





「相変わらずだね、この里は」

 約六年ぶりに訪れた自分の里は昔と変わらずのどかな里だった。よく言う田舎の村の風景。田んぼが広がり、その所々に家が二、三軒ずつある。小川が流れ、家の屋根には雪が積っていた。

「直接じじの家行く?」

「うん」

「セっちゃんが帰って来るって楽しみにしてたよ。じじ」

「孫じゃあるまいし。たまたま聞く人が長しかいなかったに過ぎないだけなのに」

「だけど、私もセっちゃんに会えてうれしいよ」

「そりゃ、どうも」

「素直じゃないんだから、セっちゃんってば」

 久しぶりに会ったココも成長していたが、まだ子供の無邪気さは変らなかった。そこがなんだか懐かしく、里に帰ってきた実感が湧いた。

 手を繋いだまま、長のいる家まで着いた。

 里の一番奥に建っている長の家は平屋の木造建築で正面に玄関。左右に4つずつ窓がある。これが一般的に見える外観だった。

「セっちゃん。扉は左を開けてね」

「左ね。了解」

 玄関の扉は左側から横に引くのと右に引くのがある。左と右では家の構造が違い間違って入ると目的の場所に着けなくなるようになっている。

 セキはココに言われて通り、左の扉を横に引いた。

 だだっ広い広間の真ん中に囲炉裏とその奥に胡座をかいだ老人。その者がこの里の長であるダンニューム・ゴーン。老人らしからぬ恰幅のいい体付き。白い髪を後ろに撫付け、程よく黒く焼けた肌と目尻のしわが合い似つかない。

「来よったな。じゃじゃ馬娘」

 目が合った途端、これだ。入口を閉め、正座をして座る。

「その言葉。そのままあなたの孫娘にお返しします」

「ハハっ。そうかのう」

 囲炉裏の炭をいじりながら笑う姿は一族の長とは思えないぐらいに優しい。そもそも、長に対して、淡々と言い返すセキの言葉を受ける長も長だが。

「お久し振りです」

「あぁ。外は寒かったじゃろ。ここで暖まりなさい」

 許可を得てからそばに寄る。

どんな親しい関係でも立場はわきまえる。そういうセキが長は好きだった。だから里を出る事も許した。

「ここも変わりませんね」

「まぁな。何か用事で戻ってきたんじゃろ。ただ里が懐かしくて戻ってきたわけではないじゃろうて」

「まあ確かに。知ってたらでいいんです。情報が欲しくて」

 里を出たら帰って来るつもりはなかった。ここはぬるく安全な世界。だけど、平坦で変化のない日常。こんな世界はセキには苦手でつまらない。

 不本意ながら帰ざる終えない状況に苦笑いした。

「珍しいの。セキがわしに教えて欲しいとは」

「あちらの世界にもいろいろあるんですよ」

「では。聞こうかの」

 セキは鞄から一枚の写真を取り出した。

「たぶん血で作られた痣のような物だと思うんですが」

 写真を受け取り、凝視した後、長は溜め息をついた。

 諦めの少し悲しげな。

「アラウド族じゃな。傷を付けて、そこから自分の血を混ざり合わせて支配する。その証拠に痣のような花が咲くという。しかし、これは禁止された力。これが事実ならば事を急がねばならない」

「今それをやろうとしているんです。じゃなきゃ、また世界が崩れる」

「必要な情報は話そう」

「ありがとうございます」

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