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朝のニュースを横目で見つつ、クロエが作った朝ご飯を味わう。
一階の事務所から電話が鳴る。時間外もしくは、事務所にいない時は二階の電話に転送が掛かるようにしている。すぐに一階の電話が鳴り止み、居間の電話が鳴り出す。普通の電話なら空いている者が出るのだが、事務所の電話から転送なので、立ち上がろうとしたセキを手で止めて、先に食べ終えていたトーリが受話器を取る。
「はい。アシュ・レイ社です。――どうも。――いますけど。変わりましょうか?――はい」
保留にしてから、食べている三人を見た。
「セキ、ウエル警部から。至急の用事だって」
「朝っぱらから。時間外に掛けて来るなんていい度胸ね」
警察にこんな発言ができるのはこの中でセキぐらいである。それほど警察の手伝いをしている意味になる。
「もしもし。今、何時かご存じですか?」
『時間外なのは承知だ。協力してほしいんだ』
「知っているなら結構。――こっち関連?」
『可能性がある。すぐ来れるか?』
「場所は?――はい。……あぁ、了解。じゃ」
ゆっくり受話器を置く。
「トーリ、メモの場所行くから、準備してから追いついて来て。先に状況見て来るから」
「了解」
「あ、クロエ。後で残り食べるから置いといて」
「分かりました」
セキはすぐに仕事モードの服装に着替えて、外を出る前に振り返る。
「じゃ後はよろしくね。ユズ」
「はい。いってらっしゃい。セキねぇさま」
「いってきまぁす」
ウエル警部が言っていた現場に着くと、人が群がっていた。自分たちの近所で事件が誰でも心配で見に来るのかもしれない。中には野次馬も紛れているようだが。
町中のしかも住宅街の路地裏が現場だった。
道の入口に黄色いテープが張っていて、警察官が仁王立ちしている。
警察もしくは関係者のみしか入れない現場である。セキも関係者と言えば関係者である。警部に呼ばれているから。警察官と話すのが面倒なので、無視して入ろうとしたら、止められた。
「関係者以外立ち入り禁止です」
機械的な言葉も聞き飽きた。
「いい加減、覚えて頂けます?新人を置くからこういう事になるのよ。ウエル警部呼んで」
なぜ、自分たちの上司の名前を知っているのだと驚いた顔と怪しむ顔でセキを見る。ただし、セキの背が高いのか、威厳が感じられない。
「だから、」
「すまん。通してやってくれ」
やっと、手を上げながら小走りで駆けてくる当事者が現れ、警察官は素早く敬礼をする。そして、テープを上にあげた。
通してくれるらしい。
セキは屈んで、テープをくぐる。
「ありがとう。協力者の顔ぐらい覚えておいたほうが身のためよ」
警察官はセキの言葉にぽかんとしていた。まさか、一般人にこんな事を言われるとは想像出来なかったのであろう。
警察官は警部についていくセキを見送るので精一杯だった。
「後からトーリも来るので」
「すぐ入れるように話通しておくよ」
「頼みますよ。これで何度目だと思ってるんですか?事件の度に止められてるの分かってますよね?」
「次からは気をつける」
胸を張って言われても、あまり説得力がない。
家と家の間の細い道。抜け道のような人があまり通らないような道だった。一方は家の裏側。一方は柵の向こうに駐車場と広い道が見える。
「犬の散歩をしていて見つけたそうだ」
周りの警察官たちに手を上げ、警察官たちは頭を下げた。被害者がいた場所はロープで形を作り、所々数字の書いた物が置かれていた。
「写真、焼回してもらえます?」
セキは写真を撮っている警察官に話しかけた。
「ん?あぁ、セキか。また、頼むよ」
「もちろん。任せて下さい」
「写真は事務所に送っておくよ」
「ありがとうございます」
警部に呼ばれる度に写真の焼き回しを頼んでいるので、すぐに対応してくれるようになった。
「セキ、遅くなった」
トーリが遅れて、来た。
「すぐ通してくれた?」
「なんか会社の名前言ったら、通してくれた」
「そ。ならいいけど」
「なんかあった?」
「いつものことよ」
「あぁ、いつものね」
毎回呼ばれるたびに現場に入る前は止められる。入口に立つ警察官が違うため、認識されないのである。というよりも部下に伝達が行われてないためだろうけれども。その度に、警部に伝達をちゃんとしろと言っているのだがなかなか実行されずにいる。
コホンと咳をして警部は空気を変えた。
「話していいか?」
「どうぞ」
「今回呼んだのは、被害者の血がすべて無くなっているからなんだが。しかも、首筋に二つの小さい穴があった」
「吸血の痕?」
「の、可能性が高い」
「なるほど。私らの出番なわけね。いいですよ。こちらでも調べてみます」
「頼むよ」
「怪しい人は?」
「事件当初は雪が降っていて、目撃者が見つからない。今周囲に聞き込みをしている」
「天気が悪い日を選んだとしたら計画性もありだけど。たまたまか」
「後、右の肩にタトゥーのような痣がある。見た目はタトゥーなんだが、専門家が見ると、タトゥーのように外側からじゃなく内側から浮き出たみたいらしい。くっきりと花の形を形成していて、事件となんらかの関係があるとみている」
「花の形、何の花か分かります?」
「あぁ」
警部は手帳を懐からだし、紙をめくる。
「チューベローズという花だ」
「こういう事件は初めて?」
「同じような事件は報告がない」
「なら、まだ続くかもしれませんね。こちらもいろいろあたってみます」
「情報はそちらにもいくように手配しておくよ」
「お願いします。でも、邪魔はしないでくださいね?こちらにも領域がありますから。管轄外なら手を引きます」
「分かってるよ。君の仕事のやり方は理解している。だから、呼んだんだ」