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 一面に漂う、死の香り。

 生から死へと移り行く様は、ここに存在していたという証。今だに鳴り止まぬ耳鳴りと右手に持った銃のみが自らの罪。どう足掻こうとも、もう戻れはしない。

 そして、この道から逃れることも敵わない。



 血の匂いだ。鼻をつまみたくなるほどの匂いだった。目を反らす事は出来なかった。

 この現状は自分で行った事。何も考えてはいけなかった。無心、無欲で行わなければならない。

 すべてが死に包まれていた。

 一つの村がこの瞬間、存在を消された。

 一人の男によって。

 男はねこっ毛の黒髪で緑色の目、鼻筋の通ったきれいな顔立ちをしていた。黒ジャケットに黒のズボン。白シャツを第二ボタンまで外し、黒の細めのネクタイをゆるく結んでいる。



 ここにいるすべての人を殺す。それが男の使命。

 右手にはリボルバー式の銃。生きている者はいないはずだった。



 後ろで瓦礫が落ちる音がした。

 瞬間に銃口を音のした所に向けた。

 そこには、小さな男の子が一人。顔が汚れ、服も所々破れ、膝から血が滲んでいる。恐怖に怯え、自分に何が起こっているか理解できてないようだ。傍らには母親らしき者が頭から血を垂れ流して、根絶していた。自分の子供を守るために、自らを盾にしたのだ。しかし、その守られた命さえも、消さなくてはならない。それが与えられた仕事。情など持ってはいけない。

「悪いな。お前を殺さなければ、俺が殺される。――――さあ、……さよならだ」

 一ミリの狂いもなく、子供の頭に標準を決める。

 刹那、殺気を感じた。

 男は素早く銃口を右側に向け、銃弾を一発放った。すると、左から銀色に輝く何かが見えた。それが剣先だと気付いた時には、首筋に剣がそえられていた。

 まったく動けなかった。

 男が放った銃弾は近かったにも関わらず、避けられ、しかも、相手の剣が首ぎりぎりで捕われているのである。

 男は素直に驚いた。仕事においては、無心、無欲であり、自分の心は見せてはいけない。ただ、この時だけは出来なかった。相手が寸止めをしなければ、確実に殺されていた。それほどまでに相手の速さは訓練をしている男でさえ、素晴らしいと思った。素人ではない。しかし、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。

 相手が女であっても。

 女は腰まで届きそうなぐらいの長さの黒紫色髪で紫色の目、白のロングジャケットに革のズボン。ブーツを履いていた。

「追いかけなくても、いいの?」

 女は言った。さっきまで目の前にいた男の子は女が出て来てから、男が自分を見てない事に気付いたのか、立ち上がって何処かへ走り去っていた。

「俺がやらなくても、他の奴に見つかる」

「でしょうね」

「それに、動こうにも、動けないものでね」

「明確な判断ね」

 女は男の首に添えてあった、剣を鞘に収めた。

「あなたも」

 そう言われて、男は仕方なく銃をホルダーに戻した。

「子供の助けに入ったんじゃないのか?」

 男は聞いた。

「私はここの人達とは関係ないわ」

「なら、何者だ?」

「私に貴方のすべてを委ねてくれるなら、言ってもいいけど?」

 男は初対面の女に上から言われているのが、気に食わなかった。返事の代わりに、戻した銃を再び取り出そうとした。しかし、出来なかった。

 銃を取ろうとした右手を捕まれ、視界を無くされた。

 女は一瞬で距離を縮めて、右手で男が銃を取る前にホルダーから銃を放り出し、すぐに後ろに回り、背後から左手で視界を無くした。そのまま、右手で首を固定しようとした所で、女の額に銃口が当てられていた。

「触るな」

「……いい反応ね。他にも銃を持っていたのね」

 そう言って、すぐに男から離れた。

 女の額に突き当てられていたのは、小型の銃だった。

「丸腰だから、銃下ろしてくれる?」

 今も、女の額に標準を当てていた銃を元の袖口の中に隠した。

「あんた、吸血族か」

「そう言うあなたは、狐族ね。……黒で合ってる?」

「……あぁ」

「そう。あなたが言うなら、それでいいけど」

「血が欲しいなら、俺じゃなくても、周りにゴロゴロいるじゃないか」

「血は二の次よ。重要なのは、これから。……あなたに聞きたい事があるの」

「聞きたい事?」

「そう」



「この世界から、抜け出したいとは、……思わない?」

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