FREAKS(13)
毎週水曜日午前0時(火曜深夜24時)に次話投稿します。
13
「ここは……」
暗い廊下を進んでいくと、先が渡り廊下になっていた。
さっきまで雲に隠れていた月が出ていて、青白い月明かりがその渡り廊下を照らす。
屋敷の中はいつの間にか静かになっていた。もしかしたらシスター達の撹乱部隊はもう撤退しているのかもしれない。
その静けさの中、僕は月明かりに照らされながら渡り廊下に慎重に踏み出す。
周りに人影は無く、聞こえてくるのは微かな虫の声だけだった。
そうやって長い渡り廊下を進んでいくと、離れのような部屋にたどり着いた。
「木星……?」
『そうだ。そこに愛子がいる』
「そうか……わかった……」
僕の目の前には、見るからに高価そうな襖がある。
「この向こうに、愛子さんが……」
金箔が貼られた上に、色々な花々が緻密な筆致で描かれている、豪華絢爛な襖に手をかける。
「木星、あとは任せてくれ」
『わかった』
木星はそう答えると、インカムの通信を切った。
「ふう……」
一つ息をついて、僕はゆっくりと襖を開く。
襖を開けると、中は広い空間になっていた。
差し込んでくる月明かり以外、何も明かりの無い部屋。
その青白い光の中に、あの人は――
「あ、いた……」
そう呟いた僕の目の先に、向こうを向いてその人はいた。
「久し振りですね……愛子さん」
僕が声をかけると、愛子さんは振り返る。
「うふふ、まさかあなたがこんな所まで来るとはね、太郎……」
襖と同じように牡丹や椿、梅や菊といった花々が描かれた豪華な着物を着た愛子さんは、まるで時代劇から抜け出てきた昔のお姫様みたいだった。
「あなた、少し背が伸びたんじゃない?太郎のくせに」
愛子さんは微笑みながら僕にそう言う。
「愛子さんこそ、髪が少し伸びましたね」
あの時、焼けてしまい短くなってしまった愛子さんの髪は、少し会わない間に肩ぐらいまで伸びていた。
「そうね……」
愛子さんは俯き加減に、
「なくなった髪は伸びるけどね……」
と呟き、そのまま黙り込んでしまった。
「そう…ですね……」
僕もその雰囲気に飲まれて、黙り込んでしまう。
…………。
って、なんだ?これ?
ものすごく気まずいぞ?
せっかく久し振りに会ったというのに、何でこんなことになってしまうんだ?
「それで?」
愛子さんは兄である幾歳と同じ台詞を吐く。
「は?」
やっぱり兄妹なんだな、なんて感慨もそこそこに僕は問い返す。
「それで、ってどういう意味ですか?」
「いや、きっと大変な思いをしてここまで来たんでしょうから、それはそれは大切な用事があったのかと思って、あたしの方から訊いてあげたんだけど?」
「どんだけ上から目線なんだよ!」
格好がそれだから、自分のことお姫様だとでも思ってんのか?
って、愛子さんはもともとこんな人だったっけ……。
「一体、何の為に来たのかしら?」
「何のためってそりゃ……」
決まっているじゃないか。
「何のためって、愛子さんを連れ戻しに――」
「帰んないわよ」
愛子さんは毅然とした声で僕を遮った。
「え?今なんて……?」
「だから、あたしは帰んない、って言ったのよ。聞こえなかった?」
愛子さんはそう言ったきり、また俯いてしまう。
「そんな……嘘…ですよね……?」
「嘘なんかじゃないわ」
「じゃあ、何で!?」
突っかかるようにして訊いた僕に、愛子さんは静かに話し始める。
「だって……あなただって知っているでしょう?あたしの目の事は……?」
愛子さんは自嘲するように口を歪めて話し出す。
「この呪われた目は、周りの人の心を全て視てしまうのよ。そのためにあたしは周りの人から忌まれ、嫌われ、怖れられて子供の頃から遠ざけられていたわ」
まるで心が自分には無いかのように、淡々とそんなことを語る愛子さんは、とても小さくか細く見えた。
「だから、あたしはこの目を使ってどうにか人の役に立とうとしたの。手始めにあたしは、自分で黒塚家の私設軍隊にこの能力を売り込んで、その一員になった。あたしにとって私設軍隊に入るなんて、とても簡単な事だったわ。そりゃそうよね?だって相手の作戦も、裏切り者も、全て文字通りお見通しだったんだもの。すぐに精鋭部隊に加えられて、さらにそれを率いる立場になるのに、そんなに時間がかからなかったわ」
目を伏せて愛子さんは静かに話し続ける。
「あたしの生まれも手伝って、黒塚家の私設軍隊の中であたしはどんどん用いられるようになったわ。色々と汚い仕事もしたし、とてもじゃないけれど、その頃のあたしをあなたに見せられるものではないわ。でも、どれだけ最悪な仕事であっても、当時の、まだ子供だったあたしには、それだけが存在意義だったし、生きている理由だった」
とても話しいにくい内容なのだろうけれど、愛子さんはそれを何ということもなさそうに静かな穏やかな声で話す。
「あたしの働きもあって、黒塚家はあたしみたいな特別な力を持った子供達を世界中から集めて、その能力をより強力なものへと『開発』して、その子たちだけで軍隊を作ることにしたの」
「それがヴードゥーチャイルド……」
「そう。あたしはそこの最初の被験者になるはずだった」
薄々感ずいてはいたが、やっぱりという感じは否めない。
「やっぱり愛子さん、あなたもヴードゥーチャイルドの出身だったんですね……?それにしても、なるはずだったということは……?」
「そう。あたしはヴードゥーチャイルドで、この左目の能力を分析されて開発されるはずだった。でも、出来なかったのよ」
「出来なかった?」
「ええ、正確に言うなら、出来たけれど使えなかった、とでも言うのかしら……」
「いまいち意味が分からないのですが……?」
「あたしのこの左目は呪いなのよ。だから、あたし以外の被験者にこの力を移植しようとしても、その呪いのせいで良くて発狂、悪ければその命を奪ってしまうものだった。そうやってあたしのこの力はたくさんの子供達の命を奪って、それでも実験は繰り返されて、さらに命を奪い続けて……少し違ったけれど、この力が唯一、移植に成功したのは百夜だけだった」
「そんなことが……」
当時を思い出して、愛子さんは悲しそうに俯く。けれども僕にはかけるべき言葉が思いつかなかった。
「結局、あたしはそれが原因で黒塚家を後にした。ついて来たのは流鏑馬だけだったわ。その後ヴードゥーチャイルドの反乱があって、処分されそうになっていた木星を引き取って、あたしはあの事務所を開いたのよ。あたし達みたいなものでも誰かの役に立つ、誰かを救うことが出来るというのを証明したくってね。その頃にあなたに出会ったのよ、太郎」
僕は愛子さんに出会ったときのことを、自然と思い出していた。
「あなたに出会って、南ちゃんがうちにやってきて、他にも本当に色んな人に出会ったわよね?その人たちとの係わり合いで、こんなあたしでも何かの役に立つんだと思ったわ。それもこれも、あなたに出会ったからなのよ、太郎?」
愛子さんは僕のほうを向いて、優しい笑顔を見せる。
「そ、そんなことは……ないんじゃ……」
面と向かってそんなことを言われてしまうと、僕はどう受け答えていいか分からず、ただ照れてはぐらかす事しかできなかった。
「あたしは……あたしは、そんな日々がずっと続くと思っていた。いえ、違うわね……そんな日々が続くように願ったんだと思うわ。それこそがあたしが手に入れたい唯一つのものだと信じていたから……」
僕から視線を外して、どこか遠くを、つまりは自分の心の深遠を眺めて、愛子さんは続ける。
「でも、やっぱり続かなかった」
悲しそうに、それでも出来るだけ気丈にふるまって、愛子さんは僕に笑顔をまた見せる。しかし、その笑顔は僕の胸をただ軋ませるだけだった。
「ちゃんと上手くやれているはずだと思っていたのに、どうしてもあたしのこの左目の力は、その呪いで周りの人を傷つけるみたい……。それでもあたしは……あなたに……」
俯いた愛子さんの頬に、光の筋が走る。
「あたしは……あなたに甘えて……あなたを傷つけることになっても、それを見ないふりをして、もう随分と悪あがきを繰り返していたのよ……」
涙声で話す愛子さんの言葉の一つ一つが、僕の胸を抉るようだ。
「自分を騙して、あなたを……騙して……何とか必死に続けようとしていたのだけれど、結局そうすることで、あたしはあなたを苦しめていたのね……」
これまでの愛子さんとの思い出が、脳裏によみがえる。
「あたしは、あなたを傷つけたくない……いえ、違うわ……それは嘘ね……あたしはただ単に怖かっただけなのよ。あなたを傷つけることしか出来ないあたしなんか、いずれあなたに嫌われてしまう、その事があたしは何よりも怖かった……」
愛子さんは、涙でグチャグチャな笑顔を僕に見せる
「だから……ここでお別れしましょう。ここまで来てくれたのは嬉しいけれど、あたしはあなたとは帰れないの……お互いの為にも、ここで……だから、『さよなら』しよう……太郎……」
あいこさんはそう言って、一段と明るく微笑んでみせた。
涙を流し続けたまま……。
「愛子さんの言いたいことは、それで終わりですか?」
痛む胸を押さえて、僕は話し始める。
「じゃあ、今度は僕の言いたいことを言わせて貰います」
えっ?と愛子さんは何か言いたげだったが、それに構わず僕は続ける。
「この屋敷にやってきて……いや、もっと前からかな?僕は、ずっと考えていた事がありました」
泣き顔の愛子さんを見つめて、僕は話す。
「僕はどうしてこんな事をしているんだろう?僕は愛子さんに戻ってきてほしいけれど、それは一体なぜだろう?と」
涙を拭いながら、愛子さんは僕の話を聞いてくれている。
「愛子さんと離れてみて、色々とわかったことがありました。随分と振り回されたり、迷惑もかけられましてけれど……一番感じたのは……寂しかった」
自分の言葉に僕は思わず少し笑ってしまう。
「フフ、まさか、こんな事を思うなんて……だけど、やっぱり愛子さんがいなくなったら寂しかったんですよ……」
僕とは対照的に、愛子さんは真剣な面持ちで話を聞いている。
「なんでこんな事を思うのか?僕は理由を色々と考えてみました。僕自身も愛子さんたちと一緒に事件を解決したり、誰かの悩みを解決したり、悪い奴らと対決したりする日々が面白かったんだと思います。でも……」
手が汗ばんでくる。
「それもあるでしょうけれど、でもそれだけじゃなかった」
鼓動が少しずつ早くなっていく。
「自分の中でもはっきりしない感情があったんですが、愛子さんと離れた事でそれが少し見えてきて、今、こうやって久し振りに会って、僕はようやくその感情がはっきりとわかりました」
頬が紅潮していくのを実感する。
「わかってしまえば簡単なことだったんですよ。その感情だけで僕の疑問は全て答えられる。何でこんな事がわからなかったんだろう?もしかしたら、自分でその感情を見ないようにしていたのかもしれない……」
何でこんな事をしているのか?
何で愛子さんに戻ってきてほしいのか?
「僕はもしかしたら、このことをずっとあなたに言いたかったのかもしれない」
怖気づきそうになる心を奮い立たせる。
震える心を抑えて、愛子さんを見つめる。
潤んだ瞳で愛子さんは僕を見つめ返していた。
「愛子さん――」
僕は手を伸ばして、愛子さんの眼帯を外す。
「愛子さん、好きです…大好きです…心から愛してます……」
愛子さんのその琥珀色の美しい瞳に、僕の姿が映っている。
「太郎……」
「だから、一緒に帰りましょう。みんなも待っています。木星だって、南だって……そして、ずっと一緒にいましょう。僕は何があったってあなたと一緒にいますから……」
人と人は傷つけあうもの。
そんなことは百も承知だ。
誰もがそんなことはわかりきっていて、それでも誰かと共に過ごしていくものなのだ。
傷ついた自分、傷つけた相手、それを良くも悪くも見ないふりをして、生きているものなのだ。
でも、もしもそれがはっきりと視えてしまうのだとしたら?
「愛子さんといる事で、きっとこれからも僕は傷ついて、そのたびに愛子さんを傷つけるかもしれない」
人の心が視えるということは、つまりは相手の心の傷が視えてしまうということだ。
そのことで自分自身をも傷つけてしまう。
「でも、それでいいじゃないですか」
僕は愛子さんに微笑んで見せる。
「人は互いに傷つけあわなければ生きていけないんです。傷つけあって、慰めあって、それでもまた傷つけあって、近づけば近づくほど、お互いに傷つけあってしまう」
僕はまるで自分にも言い聞かせるようだ。
「傷つくのは誰だって怖い、大事な人を傷つけるのは、誰だって嫌なのもの。だけど、だからといって離れてしまったら、何にもならないじゃないですか」
愛子さんは黙って僕の言う事を聞いてくれている。
「これから先、僕は傷つかないなんて言いません。愛子さんの前ではどれだけ嘘をついても無駄ですしね……だけど、これだけは約束します」
ありったけの気持ちを込めて僕は伝える。
「僕は死ぬまで、愛子さんから離れるような事はありません!」
愛子さんの肩が小さく震えている。
僕は抱きしめたい衝動をグッと我慢して、その肩に手を置く。
「もしも神様がいるのだとしたら、それに誓ったっていい。僕はこの先ずっと愛子さんと共に歩む事を誓います。だから……」
俯く愛子さんに、僕は言う。
「だから、一緒に帰ってくれますよね?いや、帰りましょう!愛子さん!」
愛子さんの肩がさっきよりも激しく震えだす。
愛子さんは俯いたまま何も答えなかった。
「愛子さん……?」
やっぱりダメなのか?
「ぶうーーーーーっ!あーっはははははっ!」
「爆笑!?」
顔を上げた愛子さんはさっきまでの表情が嘘みたいに、大爆笑だった。
「な、何で笑っているんですか!?」
「あははははっ、だ、だって、あなた、さっきの自分の台詞を思い返して見なさいよ?」
「僕の台詞……?」
『愛子さんから離れるような事はありません!」
とか、
『愛子さんと共に歩む事を誓います』
とか。
思い返してみると、何て恥ずかしい台詞の数々なんだ。
これがもしも小説なのだとしたら、この作者はセンスが無いにもほどがあるだろう。
もっとマシな台詞があっただろうが!
僕は顔が熱くてたまらなくなる。
「だ、だからって笑うことは無いじゃないですか!」
精一杯強がって、僕は愛子さんに抗議する。
「だ、だって、あなた、いきなりあたしにプロポーズするんだもん」
あはははは、と愛子さんは笑いが止まらない様子。
「そ、それは……」
確かに台詞だけを聞くと、どう見てもプロポーズだよな……。
「で、でも、何でそれで笑うんですか?笑うようなことじゃないでしょう?」
とは言ったものの、僕は自分でも笑ってしまいそうなのだった。
そりゃそうだろ?
何言ってんだよ?って話。
「あはははははっ」
愛子さんはまだ笑い止まない。
「フフッ、そんなに笑わなくても……ははっ」
僕もこらえきれずに笑い出す。
「はははは……でも――」
愛子さんは笑いすぎて出てきた涙を拭って、
「あなたの気持ちはよくわかったわ」
と、僕に微笑んでみせる。
その微笑みは、今まで見た愛子さんのどの表情よりも魅力的だった。
「じゃ、じゃあ一緒に帰ってくれるんですね!?」
「そうね、いいわよ。だけど――」
愛子さんはいつも通りの不適な笑みを浮かべ、
「条件があるわ」
と言った。
「じょ、条件?」
「ええ、そうよ」
愛子さんは子供みたいに無邪気に頷く。
それはとても可愛い仕草なのだけれど、こういった時の愛子さんは決まって何か悪い事を考えているものなのだ。
「そ、それで、条件っていうのは……?」
僕は恐る恐る訊ねる。
「ウフフ、それはね……」
愛子さんは僕によく見せた蠱惑的な笑みを浮かべて、まるで僕を挑発するように、
「あたしにキスしなさい」
と、いつも通り命令したのだった。
「は、は、はいっ!?」
………………。
あまりの出来事に、思わず思考停止してしまっていたようだ。
「そ、それが条件…ですか……」
呆れ半分、僕は愛子さんに確認する。それに対して、愛子さんは、
「うん!」
と、まるで幼稚園児のようないいお返事で答えるのだった。
……ていうか、絶対楽しんでますよね?愛子さん?
「そ、それは……」
「何よ?嫌なの?」
愛子さんは拗ねたように唇を尖らせる。
「いや…嫌じゃないですけど……急すぎるというか、何というか……」
「何?あたしのいうことがきけないっていうの?」
どうやら愛子さんはすっかり元気を取り戻したようだ。
「だ、だけど、何でそれが条件なんですか?」
「いや、それは……」
愛子さんは明らかに動揺したようで、目がバタフライで泳ぎまくっている。
「それは……既成事実を作っておいたほうが、帰ってからあまり揉めないかなと……」
「はい?既成事実?帰ってから?」
「もう!なんでもないわよ!それはそうと、するの!?しないの!?」
まるで脅迫するかのように、愛子さんは僕に詰め寄る。
「そりゃ、まあ……」
「ど、どうするのよ……?」
「し、しますよ……」
「そ、そう……それは、よ、よかった……」
愛子さんは顔を真っ赤にしてそう言うと、そっと目を閉じる。
「あ、愛子さん……?」
「な、何をしているのよ……早くしなさいよ……」
僕は愛子さんの肩に手を置く。
愛子さんの細い肩は少し熱を持っていて、微かに震えていた。
「じゃ、じゃあ……いただきます……」
「もう、何言っているのよ……さ、さっさとしなさいよね」
少しだけ顔を上げた愛子さんに、僕は顔を近づけていく。
愛子さんの薄桃色の唇が、僕を誘うように少しだけ開く。
僕は目を閉じて自分の唇を重ねようとした。
その時――
「そこまでだよ。太郎くん」
誰もいなかったはずの、部屋の入り口の方から急に声がして、僕はあわててそちらを見る。
「お、お前……」
「いや~、とんだ茶番だよ。てっきり君が振られてすごすごと帰っていくと思っていたのに、まさかのラブコメ的展開なんだもんな~参っちゃったよ」
「お前こそ、このまま出てこないのかと思ってたよ、噤くん」
噤くんは初めて会った時と同じような白いシャツと黒いズボンというシンプルな出で立ちで、部屋の入り口に立っていた。
「もしかして、このままハッピーエンドなんて考えていたんじゃないだろうね?そんなこと、ぼくが許す訳ないだろう?」
「ああ、僕もこのまま終わるだなんて思っちゃいないさ」
愛子さんを守るように、僕は前に進み出る。
「太郎……」
愛子さんが心配そうな声を出す。
「愛子さん、僕はこいつとだけはきちんと決着をつけないといけないんです」
「そう…わかったわ……」
愛子さんはそう言って、僕の後ろから前に進み出る。
「愛子さん?」
「あたしもその子に貸しがあるのよ。あたしもあなたと一緒に戦うわ」
「……その顔だと、ダメっていっても無駄でしょうね」
僕は肩をすくめる。
「まったく困ったお姫様だ」
「ウフフ、続きはそのあとで、ね?」
愛子さんは僕にウインクしてみせる。
「そうと決まれば、さっさとやっつけちゃいますか」
僕は噤くんを睨んで、
「さあ、決着をつけようか」
と言い、愛子さんを真似て不適に笑う。