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FREAKS(9)

毎週水曜日午前0時(火曜深夜24時)に次話投稿します。

 

                        9

 

 

 ……何故、こうなってしまったんだろう?

 僕たちはどこで間違ってしまったのだろうか?

 

 吹き込んでくる風に、戦場の臭いが混じっている。

 けたたましいプロペラ音が鳴り響く機内で、僕は考える。

 何故、こうなってしまったんだろう?

 何故、僕はこうしているんだろう?

 何故、背中にひまわりちゃんを背負っているんだろう?

 何故、ぶっつけ本番で降下作戦をさせられているんだろう?

 ……って

「無理―――っ!」

 いきなりこんなの無理だろ!

「何言ってるんだ?今さらそんなことを言って、わがままなヤツめ」

 体を半分ヘリから外に出して、シスターは冷たくそう言い放つ。

「お前が愛子に会いたいというから、こうやって我々が力を貸してやっているんじゃないか?」

「だ、だとしても、いきなりパラシュートで降下するだなんて無茶苦茶ですよ!」

「わはははは!だからこそ敵も気付かないんじゃないか!じゃあ、先に行くぞ!」

 シスターはそう言うと、ドアの端を掴んでいた手を離して、夜空に消えていった。

「行っちゃったよ……」

「大丈夫だよ!おにいちゃん!」

 戸惑う僕の背後で、というか背中でひまわりちゃんが元気に言う。目の前ではシスターに続いて瞑路ちゃんが降下していった。こちらに手を振る余裕だってあるみたいだ。

「大丈夫って、ひまわりちゃん……」

 振り向いてみると、ひまわりちゃんはキラキラと目を輝かせて、

「ボクに任せればいいんだよ!ちゃんと訓練したからね!」

 と、得意気だ。

「いやいやいや、そんなこと言ったってね……」

「もう!おにいちゃんは弱虫なんだから!この期に及んで四の五の言ったって始まんないでしょ!」

 ズルズルと座り込んだ僕を引きずりながら、ひまわりちゃんはそんなことを言う。

 なんか、最後の方に本当の年齢が出てないか?

「そうは言ってもね、ひまわりちゃん。物事には順序というものがあってだね、さすがにぶっつけ本番でやるものじゃないと思うんだな、パラシュート降下なんてものは」

「大丈夫、大丈夫~」

 ひまわりちゃんの力は強い。体は小さく、一見すると華奢に見えるのだけれど、力の入れ方を知っているというか、効果的な力の使い方が体に染み付いているのだ。僕なんかでは到底、太刀打ちできない。

 だから、

「じゃあ、行くよ、おにいちゃん!」

 あっという間に僕の体はヘリから乗り出していた。

 下を見ると真っ黒い夜が大きな口を開けて、か弱き僕という獲物を待ち構えている。

「ちょ、ちょ、待ってひまわりちゃん!まだ、心の準備が!」

「せーの!」

「ちょっと、待ってええええぇぇえぇぇえぇぇえぇぇえぇぇええーーーーーーっ!」

 僕の叫び声は夜空に吸い込まれていったのだった。

 風を切り裂く、ものすごい音が鼓膜を震わせる。

 薄れていきそうな意識の中、僕は再度考えた。

 何故こうなったのか?

 何でいつもこうなるの?と。

 

 僕の心配はちゃんと外れて、一応、降下作戦は成功した。

 とは言っても、僕はそのほとんどを意識を失っていたのだから、その成功を知ったのは降下地点である、黒塚家の屋敷の近くの山の中腹の森の中に着陸して、随分経った後だったのだけれど。

「起きろ!」

 冷たい水と一緒に、そんな声をぶっかけられて、僕は意識を取り戻す。

 目を開けると、目の前に仁王様のように仁王立ちした仁王様、もといシスターがいたので、僕は自分が死んで地獄に落ちてしまったのだと思い落胆したのだった。

「何を泣いている?まったく不甲斐ないにもほどがあるぞ、太郎隊員。しっかりしろ!」

「これはうれし涙です!」

 ああ!生きててよかった!

 それに、いつから僕は隊員になってたんだ?

「ふん!まあいい。それではもう一度作戦を確認しておくぞ」

 シスターはそう言ってみんなを見回す。

 その場にいた、僕、ひまわりちゃん、瞑路ちゃん、麻玄ちゃん、恋瑠ちゃん、木星は順番にシスターに頷いてみせる。

「今回の作戦は一点突破だ。まず木星のクラッキングで黒塚家の屋敷の警備システムを全てダウンさせる。その混乱に乗じて、我々シスター部隊と別働隊として太郎とひまわりがそれぞれ侵入する。侵入後、我々は出来るだけ派手に暴れて向こうの目をこちらに向けるようにする。その隙に太郎とひまわりは愛子のもとへ向かえ」

 シスターの作戦はとてもシンプルなものだった。

「なるべくこちらで戦力を引き受けるつもりだが、万が一そちらに刺客が現れるかも知れん。そのときはひまわり、お前の出番だ」

「わかった!ボクが全力でおにいちゃんを守ればいいんだね!」

 ひまわりちゃんは僕に向かってウインクして見せる。

「なんとも心強い限りだよ、ひまわりちゃん。でも、愛子さんのところまではどうやって行けばいいんですか?」

 僕の質問も想定内だったようで、ふふんと鼻で笑ってシスターは木星を見遣る。

「それは木星が導いてくれるはずだ。いくら黒塚家の警備が完璧に愛子を隠せたとしても、木星の前では私が身につけているセクスィーランジェリーよりもスケスケだ」

「それはまあ木星なら……って今なんか変なことが聞こえたような……」

 確かセクスィーランジェリーがどうとか……。

「し、シスター……まさかその下って……?」

「ん?ああ、スケスケの下着を着けているぞ。しかもTバックだ。淑女のたしなみだろう?当たり前ではないか」

 わははははは、とシスターは豪快に笑う。

「何というかキャラと合っていないというか……」

 確かに見た目はちょっとごついけれど、綺麗だしナイスバディなんだよな……キャラが残念なだけで、本当は美人シスターなのだろうけど……。

「なんだ?見たいのか?それならそうと……」

 シスターはそう言うと、ゴソゴソと修道服を脱ごうとする。

「ちょ、何やってんですか!?やめて下さい!」

 僕はあわてて両手で目を隠す。

「脱ぐと思ったか?冗談だ、馬鹿め!わははははは!」

 シスターはそう言ってイタズラそうに笑う。

「おにいちゃんのエッチ!」

 と、ひまわりちゃん。

「ちょっと変態すぎるよ、君!」

 と、瞑路ちゃん。

「……最低」

 と、麻玄ちゃん。

 と、無言でニコニコする恋瑠ちゃん。

 と、凍てつく波動を浴びせかける木星が一言。

「潰れて死ね」

「……はいはい、僕が悪かったですよ」

 僕が悪いのか?

「さあ!」

 シスターが悠然と屋敷の方を向く。

「リラックスもしたことだし、愛子奪還作戦、第2フェイズ開始だ!」

 その声に僕たちは一斉に山を駆け下り始める。

 

 木星からの指示は装着したインカムから聞こえてくる。もちろんシスター達との交信もこれで行うのだった。

 ……おお、何か作戦ぽくなってきたな。

 僕たちは二手に分かれ、シスター達は屋敷の東側、つまり正門側から強行突破を仕掛け、僕たちは北側にある屋敷の使用人たちの通用門から侵入する。

『全員、配置に付いたか?』

 インカムから聞こえてきたシスターのその声に

『はい』

『付いてます』

『は~い』

 とそれぞれが返事するのが続く。

「はい、僕も大丈夫です」

 僕もそれに応答する。

『よし。木星が警備を解除したら我々がまず仕掛ける。その後、60秒後に太郎たちが突入だ。わかったか?』

「……わかりました」

 僕は緊張のあまり思わず震える手をギュッと握り締める。

『ん?大丈夫か、太郎?』

 その緊張が伝わってしまったのか、シスターが心配そうに訊いてくる。

「だ、大丈夫です。ちょっと緊張してしまってるだけです」

『そうか、緊張するのは仕方ないが……もし止めたいのなら今ならまだ間に合うぞ?どうする?』

 シスターは思わず僕の心が揺らいでしまいそうなぐらい、優しくそう訊ねる。

『何も愛子と一緒にいることだけが、お前の生きる道じゃないぞ?それは一時の心の迷いかもしれないんだぞ?』

 揺さぶりをかけるようにシスターは続ける。

「僕は……」

 ざわつく心を押し殺して、僕は答える。

「僕は愛子さんにどうしても会いたいんです。それは何があったって変わりません。それから先のことは今は分かりません。そんなこと会ってから考えます」

 僕の心はもう決まったんだ。

 前に進むと決めたんだ。

 僕のそんな答えにシスターはふふん、と軽く笑って

『お前は本当に馬鹿だな。だが、嫌いじゃないぞ、そういうの』

 と言った。

『よし!木星、やってくれ!』

 シスターのその声とほぼ同時に屋敷の明かりが全て消えてけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

 もう後戻りは出来ない。

 

 広い屋敷の向こう側、正門の方で火の手が上がった。

 どうやらシスター達が作戦行動を開始したようだ。

 ひまわりちゃんと僕は通用門横の茂みに、身を隠して息を潜めている。

 60秒がこんなに長いとは思わなかった。

 その間に色々な事が思い出される。

「なあ、木星?」

 僕は何となくインカムに話しかける。

『…………』

 インカムからは何の応答も帰ってこない。もしかしたら屋敷の警備コンピュータのクラッキングに忙しいのかもしれない。

 それにかまわずに僕は話し続ける。

「あの、こんなときに変な話だけど、ありがとな。なんだかんだでいつもお前に世話になってばっかりで、悪いと思ってんだよ」

『…………』

 木星はまだ無言だけれど、僕は続けた。

「それに愛子さんがいなくなってからも、僕のところにいてくれたじゃないか。あれ、実はちょっと嬉しかったっていうか、今になってみれば、あれで少し救われたと思う」

 感謝してる、と僕は少し恥ずかしいけれど素直に木星に伝えた。

『……お前のためじゃない』

「えっ?」

 返事はないと思っていたから、面食らってしまう。

『あれは……私のためだ……』

「それって、どういう……?」

 その言葉の真意を確かめようとしたのだけれど、

「おにいちゃん!60秒だよ!」

 ひまわりちゃんのその言葉に断念する事にする。

 それにしても私のためってどういう意味だ……?

 

 そっと扉を開け、中を確認する。

 見える範囲には誰もいないようだ。

「よし、ひまわりちゃん、誰もいないみたいだし、行くよ」

「オーケーだよ、おにいちゃん」

 僕たち静かに開けた扉の隙間からすばやく中に侵入する。

「中に入ったぞ、木星。どこに行けばいい?」

 僕の言葉にすぐに返信があった。

『右の扉を開けて中に入れ』

 僕はその通りにする。

『そのまま真っ直ぐ』

 中は薄暗いけれど、まったく見えないほどの暗闇でもない。

『そこを左、その次の扉を――』

 と言った具合に僕は木星の誘導に通りに進んでいく。

 その後、どれぐらい経っただろうか。

 まだ、正門の方では激しい戦いの音が響いているので、もしかしたらそんなに時間は経っていないのかもしれないが、僕たちは屋敷の奥まで入り込んでいた。

 黒塚家の屋敷は迷路のようになっていて、木星のナビがなければ、とっくに迷っていただろう。

 それでも感覚的には大分奥までやってこれたような気がする。

『止まれ』

 そんな時に木星からこんな指示が出た。

 もちろん僕とひまわりちゃんはそれに従う。

「どうしたんだよ、急に?」

 少し開けたような、畳敷きの広間で僕たちは立ち止まる。

『前方から何か来る』

「何か……?」

 僕は背筋を寒いものが駆け上るのを覚える。

 この感覚は以前に感じた事がある気がする。

「これは……まさか……」

 こみ上げる不吉な予感を僕は抑える事ができない。

 広間の向こう側にソレは姿を現した。

 不吉を具現化したようなソレは以前見たときと同じようにユラユラと揺れながら、おどろおどろしくこちらにやってくる。

「やっぱり、あれは……」

「おにいちゃん、下がっていて。これはボクの出番なんだよ」

 ひまわりちゃんが一歩前に進み出る。

「久し振り!ボックスくん!元気だった?」

 ひまわりちゃんの声に、四角ボックスこと四屍しかばねひつぎはまったく反応を示さない。その代わりにかすれた声でこう言った。

「侵入者発見……排除する……」


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