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FREAKS(2)

毎週水曜日午前0時(火曜深夜24時)に次話投稿します。

                         2

 

 

 退屈な授業の間、今晩の献立を考えているうちに一日が過ぎ、下校時間になった。

 牛肉を使った料理というものは意外に少なく、ここ最近の僕の頭を悩ませる種になっている。大まかに分けると結局、焼くか煮るかぐらいしかないのだから、それにバリエーションを求めるには少し無理があるというものだろう。

 しかも作るのはこの僕だ。

 作れるものにも限りがある。

 それでも精一杯考えて工夫を凝らし、なるべく飽きないようにさらに出来るだけ美味しく作っているというのに、木星ときたら何のありがたみも無くパクパクと食べやがって……。まったく少しは味わって食べろよな……。

 まあ。

 少々愚痴っぽくなってしまったが、つまりは今晩の献立はとりあえず決まったという事。

 

 ホームルームも終わり生徒達がそれぞれぞろぞろと校舎から出てくる。僕もその中に混じってわがまま金髪娘の待つ我が家への帰路につく。

 靴を履き中庭へと出る。ここを通って校門から出て行くのがこの学校の下校ルートなのだ。

 中庭を通る時に、ふと気になって校舎を見上げる。

 去年の秋はここから見上げると、校舎の屋上から睦月先輩が手を振っていたな……。

 なんて感傷に浸っている事なんて、まったくおくびにも出さずに校門へと向か……おうとしたのだけれど、その屋上に人影が見える。

 あんなところに人がいるなんて珍しい。というよりもありえない。

 あの場所はめったに人が来ないからこそ僕と睦月先輩との思い出の場所になっているのだ。それなのにそこに誰かがいるなんて、何となく思い出に土足で踏み込まれたようで、あまりいい気はしない。

 だからだろうか。

 僕は自分の意思と関係なく、屋上へと足が向いてしまったのだった。

 

 屋上への階段を上りながら久し振りだな、なんて暢気に思う。

 薄暗い階段から、扉を開けてまだ明るい日差しの残る屋上へと出る。

「ここにいれば手前てめえに会えるんじゃねえかと思ったよ」

 振り返りざま口の端を持ち上げて、その人影は言った。

 その人影はなんとなく予想できた。だから、驚く事も無く僕はこんな風に気取って返すのだった。

「お久し振りですね。相変わらず元気そうで……鏨先輩」

「少し見ない間に随分と他人行儀じゃねえか、田中よお」

 鏨先輩は変わらず真っ赤に染めた長髪をかきあげて笑う。

「そうですか?まあ、一応先輩なんで……」

 僕もそれに合わせて笑うことにする。が、気になることが一つある。

「それで、何でこんなところにいるんですか?」

 鏨先輩は在学中でさえ学校にほとんど来ていないほどに、この学校に対していい感情は抱いていないはずだ。

 最強の不良なんて呼ばれて、みんなから怖れられ疎まれ避けられていたのだから、いい思い出なんてあるはずが無い。その鏨先輩が何の理由もなく、まして懐かしいからだとか、ふと立ち寄ってみたくてなんて理由でこの場所に来るはずが無い。

 しかもよりにもよって屋上だ。

 この場所は僕にとっても睦月先輩との思い出の場所なのだけれど、それ以上に鏨先輩にとっても大切な場所なのだ。

 それなのにこんなところにくるということは、何か特別な理由があるはずなのだ。

「ああ、それは……」

 鏨先輩はごそごそとポケットを探って携帯電話を取り出す。

「変なメールが届いてよお。それで手前に会いにきたんだよ」

 そう言うと、鏨先輩は携帯電話を振る。

「何ですか?その変なメールって?」

「それが、差出人不明のメールだったから最初は無視しようかと思ったんだけどよお、何となく気になったから読んでみたら、手前のことが書いてあったんだよ」

「僕のこと?」

 何のことだかまったくわからない。

「……まったく思い当たる節も無いんですが……」

「そうなのか?俺はてっきり手前が送ってきたのかと思ったぞ」

「いや…全然……それで一体どんな内容のメールだったんですか?」

 そのあとに鏨先輩がメールの内容を説明してくれたのだけれど、聞けば聞くほど身におぼえがまったく無いものだった。

「――というメールが送られてきたんだけどよ」

「いや……やっぱり、まったく覚えがないです……」

「そうか……それで手前は――」

 鏨先輩の顔が親しげなものから、まるで敵を睨むような顔つきへと変化する。

「――手前は、愛子さんをどうするつもりなんだ?」

「……どうするつもりとは?」

 僕は分かりきっていることなのだけれど、思わずとぼける。

 そんなことを訊かれたくなかったから。

 だけど――

「手前、とぼけられるとでも思ってんのかよ?」

 鏨先輩は追及の手を緩める事はなかった。

「とぼけてなんかいないですよ……」

「ふざけんな!ちゃんと答えろよ!愛子さん、いなくなっちまったんだろが!」

 鏨先輩は口調も荒く、僕を問い詰める。

「それは……まあ……」

 あの日以来、愛子さんは僕の前から姿を消した。

「それが……?それがどうしたんです?」

「ああん?手前、それ本気か?」

「僕にはもう……もう関係の無い事ですよ……」

 僕は噛みしめるように言葉を吐き出す。

「関係ないって……手前の口からそんな言葉が出てくるとはな……」

 鏨先輩は呆れたように、もしくは諦めたようにそう呟いた。

「出会った頃はそんなこというやつじゃなかったのにな……一体、何があったてんだよ?」

「何があったって……そりゃあ……」

 色々あったよな……。

「一言では言い表せないんですけれど、僕なんかじゃどうにも出来ないんですよ……何ていうか……無理なんです……」

「無理?」

 鏨先輩の雰囲気が少し変わった。

 ちょっとまずいかも……。

「何が無理なんだよ?」

 鏨先輩は肩を震わせて怒りを抑えようとしてくれているようだけれど、僕は僕の言葉を止める事が出来なかった。

「僕の力じゃ……無理なんです……こんな事言いたくないけれど、僕じゃ愛子さんの隣にはいられないんですよ……僕じゃダメなんです」

「ああん?それ、愛子さんがそう言ったのかよ?」

「それは……」

 確かにそんなこと言われてはないけれども……。

「どっちにしろもう遅いんです!愛子さんはもういないんですから!」

「手前……」

 鏨先輩がずいっと距離をつめてくる。

「手前が勝手に決めてるだけだろうが!何が無理なんだよ!何が僕じゃダメなんだよ!なんも決まってねえじゃねえか!」

「決まってますよ!鏨先輩は何も知らないからそんなことが無責任に言えるんですよ!」

「手前!」

 鏨先輩の腕が見えないぐらいの速さで僕の襟元に伸びる。

「何言ってんのか、わかってんのか!?ああん!?」

 襟を掴まれて締め上げられる。

「わかってますよ!よくわかったんですよ!もう!」

 睨み付けて凄む鏨先輩を睨み返して、僕は吼える。

「僕じゃ……僕なんかじゃ愛子さんとは一緒にいられなかった……僕みたいな普通の高校生とは生きてる世界が違いすぎるんですよ!」

「んだあ?そりゃ!?手前、そりゃあ逃げてるだけじゃねえか!」

「鏨先輩にはわかんないんですよ!あの場所に……あそこにいたら僕の気持ちも分かりますよ!」

 

 確かに僕は逃げた。

 それは隠しようもない事実。

 紛れもない結果。

 だけど、それを誰が責められる?

 一体、誰があのときの僕を責める事ができるというのだろうか?

 それが出来るのはおそらくあの人だけだ。

 だけど、あの人は責める事も許すことも無く、僕の前からいなくなってしまったんだ。

 それを今さらどうするというんだ?

 それを今さら何が出来るというんだ?

 

「ちっ!」

 鏨先輩は舌打ちをして僕の襟を放す。

「そんな顔見せてんじゃねえ、くそっ……手前なんて殴る価値もねえ……」

「………………」

 何も言葉が出てこない。

「こんなこと言われても、なんも言わねえんだな」

 ちっ、ともう一度舌打ちをし鏨先輩は僕に背を向け、屋上の出入り口へと向かう。

 屋上の扉に手をかけて、鏨先輩は振り返る。

「手前がそれでいいなら俺はもうなんも言わねえけどよ……まあ、後悔だけはすんなよ。手前は俺みたいになんじゃねえ……」

 最後の方は僕のほうを見ずに、まるで自分に言うみたいに小さく呟いて、鏨先輩は屋上から出て行った。

 

 夕暮れの淡い光が差し出した屋上には強く風が吹いていた。

 まるで睦月先輩がいたあの頃のように。


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