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守るものと、守られるべきものと(4)

毎週水曜日午前0時(火曜深夜24時)に次話投稿します。

祝!!連載1周年!!!(ジャンプみたい)

                       4

 

 

 ご存知の方も多いとは思うが、天苑とは並々ならない関係なのだ。

 僕たちが佐々咲糸くんを奪還する為に、入り込んだのが《こころのみちしるべ》という自己啓発セミナーを模した信仰宗教団体だった。表向きはどこにでもあるような進行宗教団体だったけれど、しかしその実態は集まった信者に集団催眠をかけて操り、お布施と言う名目で財産をすべて吸い取り、最後には自分に生命保険をかけさせて自殺させるというとんでもない集団だったのだ。そこの№2、実際にはそのトップをも操っていたのが、この今テレビに映っている男、天苑白なのだ。こいつは口先だけで相手をたぶらかし、操る事ができるという最凶で最悪、最強な災厄の詐欺師。今回もきっと何かを企んでいるのだと思うのだけど……。

「こいつ……」

 愛子さんもその企みを見極めようと、テレビの画面を目を皿のようにして見つめる。そして、唸るようにこういった。

「どこかで見たことあるのよね~……」

「って、気付いてなかったんですかっ!?」

 さっき、なんでこいつが……とか言って無かったっけ?

「天苑ですよ!ほら、こころのみちしるべの時に、なんか最後に全部持ってかれたっていうか……」

「ああ~。あいつか」

 愛子さんは思い出せてすっきりといった風だけれど(本当に思い出したのか?)、僕はあの事件の結末を思い出して何となく面白くない気持ちに。

 あの事件、教祖は捕まったんだけれど、その教祖までも操っていた天苑は、表向きあくまでも教祖に操られていたという事になっているから(ややこしい)、まんまと逃げられてしまったんだよな。しかも、その後このドクロ事務所に現れて嫌味を言われ、またしてもまんまと逃げられたという結末になっているのだ。

 まったく、腹が立つ。

 まあ、立てても仕方ない腹なのだけれども。

 もう、終わったことだしね。

 ただ、

「問題は、なんで天苑がテレビに出て、こんな事を訴えているかだよな」

 テレビ画面では天苑が声高にレポーターの問いかけに対して答えている。

『我々も非常に困っているのですよ』

 白々しくも、温厚な小市民を装って天苑は話す。

『市民の皆様の共有財産である河原を不法に占拠するものらに対して、我々は再三にわたる通告と慈悲をもった対話とを与えてきたのですが、彼らは我々の言うことを端から信じてくれません』

 詐欺師が信じてもらえないなんて言うと、なんだかおかしい。信じさせるのが仕事なんだろ?

『今はその身をみすぼらしいダンボールハウスの住人にやつしていても、彼らだって元々はきちんと生活をしていたはずなのです。私たちは彼らにその生活に戻っていただきたいだけなのに……』

 天苑は肩をすくめ、困ったような顔を作る。

『彼らだって、いや、彼らこそが被害者だというのに、彼らにはその自覚さえありません。何とかして彼らにその事を自覚していただき、一日も早い社会復帰とあの河原の放棄を求めていきたいと思います。そのためには――』

 このとき、僕は天苑の口元がにやりと一瞬歪むのを見た。と思う。

『多少、乱暴なやり方になることも仕方の無い事だと思っております』

 そう言うと天苑は作ったような、正確には明らかに作った真剣な表情で画面の中からこちらを見つめた。

 

「言っている事は正しいんだけど……」

 何かは分からないけれど、この言葉を僕は受け入れることが出来ない。それを話しているのが天苑だからというのもあるだろうけれど、どうにも納得しかねる。

「まあ、そうね。確かに正しいのだけれど……こいつの言うこと、何か癪に障るわね」

「そうですよね……何と言うか、嫌な感じ……というか……」

「嫌な感じねえ……」

 何か含むところがありそうな顔つきで空を見上げる愛子さん。

「まあ、嫌なやつですからね、こいつ」

「嫌なやつだなんて、まったく、言うようになりましたね。田中太郎さん?」

 愛子さんの心の内を探ろうとした言葉尻を掴んで、背後から急に声がした。

 って、まさか……?

「いやはや、お久し振りですね。皆さんお元気そうでなによりです」

 振り返るとそこには、テレビの中で話す男と同じく銀髪オールバックで白いスーツを着こなした男が扉の前に立っていた。

「何で……何で、お前がいるんだよっ!?天苑っ!?」

 天苑は僕にそう訊かれて、数ヶ月前、最後に見た時と同じように実に演技じみた表情で微笑み、こう答えた。

「何でって、それは宣戦布告のためじゃないですか」

「せ、宣戦布告!?」

 そんな物騒な。

「何をそんな驚いたような顔をしているのですか?田中さん」

 天苑は微笑を一ミリも崩さないで、まるでそれが当然かのように僕に言う。

「あなたたちがまたしても私の邪魔をしようとしているということは、すでに私の耳にも届いています。だからこうやって正々堂々とあなたたちの前に姿を現し、こうやって宣戦布告しているのですよ」

 天苑に微笑まれ続けていると、何だか馬鹿にされているような気がするのは何故だろう?ああ、そうか、馬鹿にされているからか。って、おい!

「おや?もしかして、今までテレビの中に映っていた私がこうやって、あなた方の前に急に姿を現したから、それに驚いているのですか?」

「そんな訳ないだろ!」

 やっぱり馬鹿にされている!

「あっ、そうでしたか。これは失礼しました」

 天苑は深々と頭を下げる。

「わ、分かればいいんだよ」

 何となくドギマギしてしまうところが、腹立たしい。

「そういえば、田中さんはテレビはすべて生中継だと思っているかわいそうな頭の持ち主だと言う事をすっかり忘れていました。ええ、そうですよ。私は超能力者なのですよ。テレポートしてきたのです」

「てめえ、何言ってんだよ!」

 いい加減、怒るぞ!

「ああ、これはすみません。テレポートと言うのは物体を自分の任意の場所に瞬間移動させることですけど……ああ、田中さんには少し難し過ぎましたか。ええーっと……」

 天苑は子供に向けるような明るい、しかし明らかに自分よりも下の立場のものに向ける笑顔を僕に向けて、

「ええー……あれは、手品です」

 と誤魔化した。というか諦められた!?

「さっきのテレビが録画だって事ぐらい分かってるよ!てか、お前わざと言ってるだろ!」

 ここまで馬鹿にされたら、僕は怒ってもいいよね?てか、殴るか、訴訟を起こすか、イタズラFAXを20メートルぐらい送りつけてもいいよね?

「えっ?知ってたんですか?まさか……?」

 天苑はやっぱり演技っぽく大げさに目を見開いて、驚いた表情を作る。

「いや~……信じられないな~」

 はい。訴えるのが確定しました。

「冗談はさて置き、余計なお世話かもしれませんが、今回のこのダンボールハウスの件、手を引いて負けを認められたほうがいいと思いますよ」

「何だよ?それ?」

「いえ、今回、あなた方には勝ち目がありませんので、最初にそうお伝えして、あらかじめ手を引いていただこうかと。私は争いごとを嫌いますからね」

「勝ち目が無い?どういう意味だよ?」

 そんなこと今から分かるのかよ?

 僕の疑問に対して、答えたのは愛子さんだった。

「そいつの言うとおりよ、太郎。あたしたちには勝ち目が無い、というか正確に言うならもうすでに勝負はついていると言っても過言では無いわ」

「えっ?何でなんですか?」

「それは、これよ……」

 苦々しく愛子さんが指差したのは、

「…テレビ……?」

 がどうしたと言うのだろう。

 画面ではもう次のニュースに変わっている。町にイノシシが出たらしい。

「イノシシがどうかしたんですか?」

「もう!相変わらず察しが悪いわね!違うわよ!さっきの放送よ!」

「さっきというと……」

 天苑がダンボールハウスの事を訴えていたと思うけれど……。

「戦争と言うのは情報を制したほうが圧倒的に有利なのよ。情報を制することというのは、それだけで勝敗が決まったようなものだわ。その点でいくとあたし達はすでに出遅れているの」

「そんなに、ですか……?」

「ええ、そうよ」

 愛子さんは関が原で負けた石田光成よりも悔しそうに言う。

「情報を制するというのは、そういうものなのよ。あんな放送を流されてしまってはあたしたちがどんなに取り繕ったとしても、もうどうにもならないわ」

 目を伏せる愛子さん。

「敗北確定よ」

 その、初めて見せる愛子さんの弱気に僕は言葉が出てこない。

「さすが、髑髏塚さんといったところですか。話が早くて助かります」

 嘘くさくニコニコと微笑みながら天苑が話す。

「……お褒めに預かり光栄だわ」

 それに負けないほど愛子さんはこれでもかと凄惨に笑う。よくもまあ、そこまで邪悪に笑えるものだとこの頃は感心までするほどだ。傍から見る分ではこれではどちらが正義か分かったものではない。と言っても、愛子さんが正義かと問われれば、僕は首を縦に振る自信は全くないのだけれど。

 

「でも、一体何のためにこんな事を?」

 僕は素朴な疑問を口にする。

「それは……」

 天苑は少しだけ思案するように宙を眺めて、

「私なりの意趣返しと思っていただければ」

 と微笑んできた。

 だから、その笑顔が不気味なんだよ。

 とは言えず。

「意趣返しって、もしかして《こころのみちしるべ》の時のかよ?」

「ええ、そうです。あのせいで私の計画は大幅に狂いましたからね。あの時はまんまとしてやられてしまいましたから。私なりにあなた方の邪魔をしたくて、それでこうやって詐欺師としてでは無く、きちんとした立場であなた方に立ち向かおうという訳なのですよ。お分かりいただけましたか?」

「お分かりいただけましたか、って言っても……」

 お分かりいただいてしまっていいのだろうか?

「なるほど。それで納得いったわ」

 愛子さんはお分かりいただいてしまったのだろうか?

「そうじゃないのよ、太郎。そいつは一度あたしたちへの仕返しを失敗しているのよ」

「えっ?失敗?いつですか?」

 そんな覚えはないけれど……?

「うふふ、大晦日は大変でしたね。ジュピターさんを潰せばあなた方はとてもお困りになる思ったんですけどね」

 天苑が含み笑いを漏らす。

「大晦日って、まさか……」

「そうよ。百夜が何者かによって軟禁場所から逃げたでしょ?それって誰かが協力しないと絶対無理なのよ。その外部から手引きしたのが――」

 愛子さんは不適に笑いながら睨むという、実に器用な顔つきで天苑を見据える。

「そこにいる天苑白だった、というわけ」

「そ、そうなんですか……?」

 というか、愛子さん知ってたんですか?

「あたしも知ったのは随分経ってからよ。どう考えても誰か協力者がいないことには百夜があそこまで派手に動ける訳ないと思ったから、あの事件のあと木星に調査を頼んだのよ。それで浮かび上がってきたのが、百夜を逃がし、そしてそそのかした存在。しかも私たちに何らかの恨みがある人物、。となると自然とそいつに行き着いた、というわけ」

 そいつ、と言う時に顎でしゃくって愛子さんは天苑を指す。

 その仕草には愛子さんには珍しく相手への敵意が表れていた。

「あの時は私の予想に反し田中さんが頑張ってしまったので失敗に終わりましたが、今回はもう頑張れないように先手を打ったというわけですよ。さて――」

 天苑はくるりと向きを変えて

「言うべきことは言ったので私はこれで失礼――」

「待ちなさい」

 帰ろうとする天苑に愛子さんが待ったをかける。

「敗北が確定しているからといって、いつあたしが手を引くと言った?」

 ドアノブに手をかけようとしていた天苑は手を止め、

「そういえば手を引くとは言われていませんでしたね」

 と、もう一度こちらを向く。

「では、手を引いてください」

「嫌よ」

 愛子さんは即答だった。

「負けるとかそんなのはどうでもいいのよ。あたしは逃げたりしないわ。もし負けるのだとしても、正々堂々負けてやるわ!」

 慎ましやかな胸を大いに張って相手の鼻先に人差し指を突きつけて、愛子さんは声高に宣言した。

「うふふ、あなたならそう言うと思っていましたよ、髑髏塚さん。いいでしょう、どうぞ出来る限り足掻いて見せてください。私はその方が面白いですし、それでこそ潰し甲斐があるというものですよ」

 それでは、と軽く会釈して、微笑を残して天苑はドクロ事務所を出て行った。

 

「いいんですか?愛子さん?あんな事言って」

 もうすでに敗北宣言しちゃったし。

「いいのよ。まあ、見てなさい」

 愛子さんは何故か自信満々といった様子だけれど、僕にはその自信がどこから来ているのか全く分からなかった。というか、敗北宣言して、それでこれから一体どうするつもりなのだろう?

 僕は不安でたまらなかったけれど、愛子さんに任せていれば大丈夫、悪くはされないだろう、といった漠然とした希望的観測をもってこの事態を捉えていたのだった。

 しかし、それは大きな間違いだったと後に知る事になる。

 大きな後悔とともに。

 

 とにかく、

 こうして僕たちは戦争をする事になった。

 それがどういった結末をもたらすかも知らずに。

 


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