髑髏塚愛子(4)
是非、縦書きで読んでください。
毎週、水曜日午前0時(火曜深夜)に次話更新します。
4
僕たちはこれまでの顛末を全て話すことにした。
「その、何から話せばいいか分かりませんが――」
僕が話し始めようとした時、扉が開いてティーセットを持ったこの前の執事が入ってきた。
「ああ、どなたが来られたかと思えば、あなた様でしたか」
「あっ……あの時は、ども……」
「おや?そちらのお嬢様は?」
「ああ、こっちは――」
僕が紹介しようとしたら、南はすごい勢いで立ち上がり、
「は、始めまして!み、南奈美と、も、申し立て奉りやがりますです!」
ものすごい勢いでお辞儀した。その勢いで眼鏡がずれる。
「ははは、なかなかお元気なお嬢様ですね。私はここで、執事をしております、流鏑馬と申します。以後、よろしくお願いしますね、お元気なお嬢様」
そう言って流鏑馬さんは南に微笑みかけた。ほんとに執事だったんだ……。こんな雑居ビルには不釣合いな感じだけど…?
「ふぁい!よ、よろしくおにゃがいしましゅっ!」
南はもう一度、勢い良くお辞儀をする。眼鏡がさらにずれる。
「……噛みすぎで何言ってるか分かんないし…何をそんなに緊張してんの?」
「だ、だってー」
眼鏡をなおした南は、僕の手を取り、
「執事さんなんだよ!本物だよ!私、一度でいいから本物の執事さんに会いたかったのよ。ああ、これだけでここに来たかいがあったってものよ!ありがとう!田中きゅん!」
ぶんぶんと上下に振り回した。また噛んでるし。
「あ、ああ、そんなに喜んでくれると僕も嬉しいよ」
どうやら、この子は興奮すると自分を制御できなくなるみたいだ。さっきもノリで僕の靴を舐めようとしたし。慎重に付き合わないと駄目かもしれない。
「ところで、お二人は男女交際をなさっているんですか?」
ティーカップを置きながら流鏑馬さんはそんなことを訊いてきた。
「……男女交際って……残念ながらそんな関係ではないですよ」
「ふ~ん、残念ながらねぇ~?」
愛子さんはそう言って目を細めて意味ありげに頷く。
「いやいやいやいや、ぜんっぜん残念じゃないですよ!勘違いしないでください!もう、まいったなぁ~」
と、僕が手を振って否定すると、
「へぇ~、ぜんっぜん残念じゃないんだぁ~」
南はそう言って皮肉っぽく笑う。
何?このシチュエーション?いつから僕はギャルゲーの主人公になった?ていうか、これ、意外に疲れるぞ。
「そ、それより、僕たち髑髏塚さんにお話が有ってきたんですよ。それと言うのも――」
「ちょっと待って」
愛子さんに手で話を止められる。
「何ですか?」
「私のことはドクロちゃんって呼んで」
「……は?」
「私の名前、『髑髏塚』って長くて言いにくいでしょ?だから、ドクロちゃんでいいわよ」
何ですか、その物騒な名前は?そんな名前で呼んだら撲殺されそうなんだけど……。
「確かに髑髏塚さんは言いにくいですけど……愛子さん、じゃ駄目ですか?」
僕の中では最初から愛子さんと呼んでいたのだけれど、いきなり面と向かってそんな呼び方をすると、失礼かと思って遠慮していたのだ。まあ、愛子さんって呼び方もそんなに失礼ではないだろうけど。しかし、僕の言葉を聞いた愛子さんは、意外にも眉をひそめた。
「そんな名前、平凡すぎない?もっと、何かこう、エキセントリックな名前の方がいいんだけど……」
「あなたは存在がエキセントリックなんだから!名前ぐらい普通でいいです!」
マント一丁ってどんだけエキセントリックなんだよ!
「そうかな~。う~ん、まあ、いいや。あなたの好きなように呼んで」
愛子さんはまさに不承不承と言った感じだ。
「それで?その、話ってのを教えてよ」
「それは実は――」
僕はこれまでの顛末、今日あったことなどを話した。こんな具にもつかないような幽霊話、誰も真剣に聞いてくれないだろうと思っていたら、愛子さんはジッと僕の顔を見つめて聞いてくれた。
「――というわけなんですよ」
「ふ~ん、なるほどね。つまり、その南ちゃんの依頼ってわけね。まあ、二人とも――」
愛子さんは僕たち二人を順に見る。
「――嘘は言ってないみたいだし」
そう言うと愛子さんは机から立ち上がり
「この問題、あたしが預かるわ」
と言って南に手を突き出す。
「お、お願いします」
南は立ち上がり、その手を握り返して握手する。
「はい!契約成立って事で!それじゃ対価の事なんだけど――」
「えっ?えっ?ちょっ、待ってくださいよ。何ですか?対価って??」
「えっ?対価って言ったら仕事に対して貰うものじゃない」
何でそんなことを、とでも言いたそうな顔で彼女は首を傾げる。
「もしかして、タダで問題を解決してもらえるとでも思ってたわけ?そんな訳ないじゃない。別にこっちは慈善事業やってるわけじゃないんだからさ」
「そんな……聞いてないですよ、そんな事!」
僕は思わず立ち上がる。
「別に、今なら契約破棄してもらっても、こちらとしては構わないんだけど?」
どうする?と彼女は僕ではなく南に訊いた。あくまでも依頼主は、実際に問題を抱えた南と言う事らしい。
「もういいぜ、南。帰ろう。こんなトコにつれてきて悪かったな」
「こんなトコって何よ!」
と愛子さんが毒づくのを尻目に、僕は南に続けた。
「何だか、僕たちの事を見透かしたようなもの言いも腹が立つし。対価ってのもいくらかわかったもんじゃないぞ。なあ?やめとこうぜ」
「何よ!その言い方!あなた、少し言いすぎじゃない?それに、別に対価を貰うのって普通の事でしょ?それを何よ!そんな、まるであたしが騙してるみたいな言い方して!あなたには訊いてないの!南ちゃんに訊いてるのよ!ねえ?どうする?このまま帰る?それとも、問題をあたしに預けてみる?」
南は僕と愛子さんが言い合っている間、ずっと俯いて考え込んでいたみたいだけど、何かを決心したように顔を上げた。
「私……愛子さんにお願いしてみようかな……?」
「だって、お前――」
「だって、こんな話、きっと誰も信じてくれないもん。それに私、今、愛子さん以外に頼る人知らないし」
「確かに、そうだけど……そうだけどさぁ……」
南は愛子さんに向き合う。
「改めて、お願いします、愛子さん」
愛子さんは僕の顔を見てニタ~と笑い、
「だってぇ。あなたはどうなの?」
と、意地悪く訊いてきた。
「僕は……南が良いなら…それでいいです……」
「よしっ!じゃあ、そういうことで」
愛子さんはニシシと笑った。
「それはそうと――」
僕は椅子に座りなおして気になっていることを訊く。南も僕に続いて座る。
「対価って具体的にはどういうもんなんですか?やっぱり…その、お金とか?」
自慢ではないが僕は貧乏だ。見たところ、南も特にお嬢様というわけではなさそうだし、そこがやはり心配だった。
「たしかにお金もあるけど、それだけじゃないわ。あたしが自分の仕事量に見合ったものを頂くってだけで、特に『何』って決めてはいないのよ。ほら、そこら辺にあるものも対価として依頼主から頂いたものよ」
愛子さんが指を指したのは、部屋の隅にあるガラクタたちのほうだった。
「これが……ですか……?」
良く見ると人間の骨格標本や古い電話機、アイドルのポスターや何かのおまけのシールなんてものもある。これが対価って……。
「こう見えても意外に価値が高いものばかりなのよ」
そう言うと愛子さんは僕に『ヘラクライスト』と書かれたイラストシールを見せ
「これだって、見る人が見れば結構な価値があるのよ」
と胸を張った。
「へぇ~、こんなただキラキラしてるだけのシールが。そんなもんですかねぇ?」
「そんなもんよ。だから心配しなくてもちゃんと高校生でも払える対価にしとくから。お友達価格でお安くしとくって言ってたしね」
そう言えば、そんなこと言ってたかも?
「それを聞いて安心しました」
安心した僕は喉が渇いていることに気付いて、まったく手をつけていなかった紅茶を飲み干す。その紅茶はすっかり冷めてしまっていたが、驚くほど香り高く今まで飲んだどの紅茶よりも美味しかった。さすがは執事!
「あ、あの…私も質問良いですか?」
南がおずおずと手を上げて言った。
「あの…愛子さんっていつもどうやって他人の問題を解決しているんですか?」
確かにそれは僕も気になる。こんなに沢山、対価があるってことはそれなりに実績もあるってことじゃないのか?何か特技でもあるのだろうか?あの、銀行強盗も結局解決してしまっていたし……。
「あたしはいつもはこんな幽霊話じゃなくて人の悩みを解決しているの。それと言うのも、実は、あたしの左目は、人の心が視えるのよ」
「…………はあっ?」
「その人の心を視てあげて、その人にふさわしい答えを導き出してあげる。まあ、時には今回みたいなオカルトな事もあるけれど、主にはそういった仕事が多いわね」
僕も南も呆れてものが言えない。
何だって?心が視えるって?
そんな事、あるわけがない!
「その顔は、さては信じてないな?よろしい。では、あたしが今から太郎の心を視てしんぜよう」
何か、ますます怪しいし…ていうか、いきなり呼び捨て!
「太郎は……そうね…巨乳が好き!」
「やっぱりそうだったのね!」
南が自分の胸を隠す。
「どおりで、いやらしい目で見てきてたわけだよ。このスケベ!」
「お前、どんだけノリだけで行動してんだよ!それはもう情緒不安定の域だぞ!大体、男はみんな巨乳が好きだ!」
僕が突っ込んでも南はベーっと舌を出すだけだった。相変わらずリアクション、古!
「太郎に言っておくけれど、女の価値って言うのは、そんな胸に垂れ下がっている脂肪の量で決まるものじゃないのよ。もっと別の美しさもあるはず!ちゃんと見なさい!」
確かにさっき見た愛子さんの胸は、大変慎ましやかだった。気にしてるんだ…。
「気にしてなんかいないわよ」
あれ?僕、今、声にだしてしまったのかな?
「あなたは何もしゃべってないわよ」
だって、僕の心に直接、愛子さんが答えてる……?
「もう、鈍いわね!そうよ。直接、あなたの心を視てるの」
そんな、そんなことできるわけ……?
「『そんな、そんなことできるわけ……?』」
何で?何で僕の考えている事が分かるんだ?
「『何で?何で僕の考えている事が分かるんだ?』」
こんなの信じられるわけ――
「『こんなの信じられるわけ――』」
……って、おい。
「……マジっすか?」
「マジっす!」
愛子さんは僕に向けてVサインをしてきた。
南はキョロキョロと僕と愛子さんを見比べていたけれど、何かを納得したらしく突然、すごーい!と言って拍手しだした。こいつは、ほんとに分かってんのだろうか?
僕が観念したようにお手上げのポーズで
「……わかりました。……信じます」
と言うと、愛子さんは嬉しそうに頷いた。
話が進まないので『そういうこと』にして、僕は話を続けた。
「それはそうと、今回のこの件にその力って必要ですか?だって、相手は幽霊なんだし…」
「確かにそうなんだけど、それはあくまで本当に幽霊のせいで南ちゃんに危険がせまっていたら、って場合はでしょ?」
「えっ?どういうことなんですか?」
「本当にそれは幽霊だったのか?ってことよ」
「だって、僕たちは本当に見たんですよ。それなのに――」
「あのね――」
愛子さんは僕の言葉を遮るようにして続ける。
「自分の目で視た事だけが真実なの。あたしは自分で見たことしか信じないわ」
「そんな、じゃあ僕たちが嘘を言ってるとでも?」
「何も、そんな事いってるわけじゃないわよ。それを今、調べてもらってるんじゃない」
って誰に?
「そろそろ分かったんじゃない?ねえ、木星?」
木星って誰?ていうか、それってそもそも人の名前かよ?
その呼びかけに応えて、例の機械の山から出てきたのは、一人の金髪碧眼の外国人の少女だった。その非常に小柄な少女は髪を一つに結わえて、まあ、有体に言うとポニーテイルにして鮮やかな水色のリボンで結んでいた。そんな、まるでどこかのヨーロッパの国にでもいそうな彼女の服装は、あろうことか、なんとセーラー服を着ていた。それも日本の学生が着るようないわゆる制服としてのセーラー服である。それを見た僕の感想はと言うと――また変なのが出てきたというのが正直なところだ。
現れたその少女はスタスタと愛子さんに近づき、紙の束をぶっきらぼうに渡した。
「ん、ありがとうね。さすが木星ね、こんな短時間なのに良く調べてあるわ」
紙の束にざっと目を通して愛子さんはその少女を褒める。しかし、その少女はそれに対してさほどうれしい顔もせずに、ただただノーリアクションだった。
「あの……その子は……?」
僕が訊きたい事を南が代わりに訊いてくれた。
「この子は木星。あたしと流鏑馬、それとこの木星でここをやってるのよ。この子は情報収集が専門。この子に調べられない事なんて、この地球上にはまったく無いわ」
自分の事が話されているのに、木星はまったく我、関せずといった風に無表情だった。無表情というよりも、その青い眼のせいか冷え冷えするような顔つきだ。それにしても、調べられない事が地球上にはまったくないって言うのは、さすがに褒めすぎではないのだろうか?
「へぇ~すごいのね、木星ちゃん。始めまして、私は南奈美っていうのよ。よろしくね」
南は元々のキャラ、優等生|(忘れてた!)らしく木星に話しかけた。もしかしたら子供が好きなのかもしれない。すると、木星はゆっくりとこっちを向いて、
「話しかけるな。馬鹿と巨乳が伝染る」
と、平坦な口調で南に言った。しかも冷たぁ~い目つきで南を睨んでいる。
「…田中くん」
「…はい」
「私、何か悪いこと言ったかなぁ」
こちらを向いた南は、少し涙目だった……。
「おい!初対面の人間にそれは無いんじゃないか!そもそも巨乳は伝染らないだろ!」
僕は南の仇とばかりに、木星を年上らしく注意してやる。すると、木星はこんどは僕に向かって、
「舌を噛み切って死ね、変態。」
と、無表情で言う。
……駄目だ、泣きそう。
これ、結構ダメージ大きいかも……。
「ああ、言い忘れてたけどこの子、ちょっとツンデレってるから。まあ、心配しなくても二人のことは結構気に入ってるみたいよ。よかったわね」
そう言って、あはは、と愛子さんは笑う。まるで僕たちの反応を楽しむように。
「何ですか……ツンデレってるって?ていうか、これはもう……」
言葉の暴力だよ。
とは、言わなかった。
肝心の木星本人はというと、紫檀の机の向こうにある、黒い革張りの椅子に座って、くるくる回りながら何か謎の飲み物をチューチューと吸っていた。よく駄菓子屋に売っている、ねじれたビニールの入れ物に入った合成着色料と合成甘味料のカクテルとでも言うようなピンク色のアレである。
「えーっと、なになに……東雲東高等学校、全校生徒八百八人、あはっ、ブタゴリラの家みたい。校長は児玉源治ねぇ……知らないわ。今年で創立八十八年、って八が好きね。縁起がよくていいんじゃない?職員は――」
愛子さんは、木星から手渡された紙の束に目を落とし、我が校の様々なデータをすらすらと読み上げていった。そこには、創立以来の我が校の歴史や歴代の校長の名前といった公式のものから、食堂のメニューや、どの先生と、どの先生が付き合っているだとかいったゴシップ的なものまであった。そこの生徒である僕さえも知らない事ばかりだ。まあ、言っても僕はまだ入学して一ヶ月ほどしかたっていないので知らないのも当然だが。それにしてもどうやら、木星の調査能力というのはかなりのもののようだ。性格はアレだけど。
「――なるほど、これね」
紙の束も残り少なくなってきた頃、愛子さんは突然、何か見つけたように目を見張った。
「何が書いてあるんですか?」
「人の噂も七十五日って言うじゃない……?」
「……?」
「あっ、ゴメン、間違えた。火の無いところに煙は立たないって言うじゃない?」
「いや、ひ、しか合ってないし……」
「そう、その火を見つけたのよ」
「はあ……どういうことですか?」
愛子さんがもったいつけて言い出したのは、今から十年前のとある事件の事だった。十年前、うちの学校で一人の女子生徒が屋上から転落死した。当初、警察も自殺の線で捜査していたようだけれど、遺書も理由も見つからなかった為に結局、事故という形で処理されてしまった。しかし、その後、学校では不可解な事が続いた。教師と生徒が一人ずつ失踪したのだ。時期が時期だけに学校側もひた隠しに隠し、隠し通したようだったけれど、それはまるで、古くなった水道管から滴り落ちる水滴のようにどこからか洩れ、噂の出所となったようだ。といった話。
「でも、それだと、何で南が狙われるのかは分からないですよね?」
僕はこの話を聞いた感想、というか疑問を口にした。
「それは、本人に訊いてみなくちゃね」
「えっ?」
愛子さんは当然といった風。しかし、一体――
「訊くって言ったって一体どうやって――」
言って僕は気付く。彼女のその琥珀色の左目の事を。
「そうか、その左目なら幽霊の心も視える…と?」
「やった事は無いけどね――」
愛子さんは力をこめて僕に微笑んで見せ、
「自信ならあるわ」
と、僕の瞳をその綺麗な色の瞳で見つめ返した。
言葉だけを聞くと実に不安が盛り沢山といった感じだけれど、愛子さんのその雰囲気というか、その言葉を言った時の気迫には僕が信用するに足る『何か』が確かにあった。この人なら何とかしてくれるんじゃないか?この人に任せておけば、悪いようにはされないのではないか?といった気にさせる。さすがはトラブルシューターを自任しているだけはある、といったところか。
「……それで、これから一体どうするんですか?」
「そんなの、決まっているじゃない。行くのよ」
なぜ、そんなことを訊くのかわからないといった風な愛子さん。
「どこに?」
「現場」
「現場って?」
「あなたの学校よ。しかも夜中に行かなくちゃね」
訊いても無駄かもしれないけれど、ここは礼儀として一応、訊いておかなくては。
「はあ……また、何で……?」
「だって、そっちの方が面白そうじゃない。それに言うでしょ?現場、百回、って」
「あんた、刑事かよ!ていうか、完璧に面白がってますよね?もう勝手にやってください」
僕は、ついていけないと肩をすくめる。
「はあ?何を言っているの?あなたも来るのよ」
「なるほど、僕も行くんだったら、そりゃあ安心だ…………って、何ぃーっ!何で僕も行かなくちゃ行けないんですか!僕なんかが行っても役には立たないですよ!」
何で、幽霊退治に僕も付き合わなきゃいけないんだ?そんなのゴメンだ。
「何よ。私たち、このか弱き乙女たちだけで、夜の学校に行けって言うの?太郎はそんな非情なこと言うような人じゃなかったでしょ?思い出してよ、あの誓いの言葉を」
「僕は何も誓っていませんし、あなたとはこの前あったばかりで、そんな素敵そうな思い出を共有するほど長い付き合いじゃありません!」
「それは――」
愛子さんは少し目を伏せ、
「これから共有していくんじゃない……」
と、はにかんで見せる。さらに、恥ずかしそうにきゃっ、と言って頬を赤くした。
「そんな顔をしても騙されませんよ」
愛子さんは今度は憎たらしくチッと舌打ちをする。
「南ちゃんは行くわよねぇ?」
愛子さんが唐突に話を振ったものだから、南は驚いて目を白黒させた。
「私は……」
南は数秒考えてから
「……行こう…かなっ?」
とこちらを向いた。
「そ、そうなの……?また、なんで?」
僕の問いに南は少し恥ずかしそうに
「だって……夜の学校なんて、楽しそうじゃない」
と答えた。南、お前もか!
「さて、どうする太郎?」
「……そういうことなら、僕も行くしかないでしょ?」
僕は渋々、承諾する。
「なら決まりね!今晩、午前二時に校門前に集合よ!」
これは思ったよりも大変で、予想よりはるかに厄介な事になった。
「あ、そうそう、言い忘れていたけれど」
愛子さんは、眼帯を付けながら僕たちに言った。
「学校にはちゃんと全員で来るようにしてね」
はて、どういうことだろう?
「全員…とは?」
「ほら、もう一人いるでしょ?」
なるほど、あいつも呼べって事ですか。
――でも、一体、何故?