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それでもセカイは優しく廻る(1)

是非、縦書きで読んでください。

毎週水曜日午前0時(火曜深夜)に次話投稿します。

                        1

 

 

 月が替わり、それに伴い季節も秋へと変わった。

 突然ですが、僕は秋が好きだ。

 それも、とても好きだ。

 この短く、涼しく、晴れの日が多く、食べ物も美味しく、訳も無くセンチメンタルな気分になり、何となく詩人のような気持ちになってしまう、徐々に服装が変わっていく楽しみがあり、それに伴い女子の服装が厚くなることに落胆し、しかしながらコート姿も結構可愛い事を発見したりする、

 少し寂しく、

 少し悲しい、

 そんな秋が、僕は好きだ。

 そんな秋を愛する僕は、かの有名な「四季の歌」によると心深き人なのだそうだ。

 ………深いか?

 色々言ってはいるけれども、要約すると、つまり「過ごしやすいから好き」ということ。これってあまり深くないよな。

 しかも歌の最後には「ぼ~く~の恋人~」と締めくくっている。

 どんだけロマンチックなんだよ!秋!

 ロマンチックあげるよ!秋!

 キラキラ光った夢をあげるよ!秋!

 ロマンチックが止まらない!秋!

 FU~!止まらない!秋!

 ……すみません。取り乱しました。

 僕は確かに秋が好きなのだけれど、前述した理由で好きというだけなので、全くロマンチックな事なんてないのだ。

 まあ、僕の場合一年、三百六十五日、秋だけに関わらずいつだってロマンチックな事とは無縁なのだけれど。

 大体、ロマンチックってなんだ?

 

 と、

 少し、話がそれてしまったけれど、元に戻そう。

 何故、僕がこんなにも秋が好きな事をアピールしているかというと、こんな秋好きの深い心を待った僕をして、秋なんて真っ平ゴメンだと言いたくなるようなイベントが開催されようとしているからなのだ。

 もう一度言う。

 これでも僕は秋が好きなのだ。

 

 秋が好きなはずの僕のことだから日々、学校にてさぞ溌剌と勉学に励んでいることなのだろうと思われるだろうけれど、そうではなく、僕は今、夏に引き続き教室にて浜に打ち上げられたクラゲの形態模写にいそしんでいるのだった。だが決して、学生の本分であるところの勉強を、ないがしろにしている訳では断じてない。なぜなら今はロングホームルームの時間なのだ。確かに皆さんの中には課外授業さえも勉強だという、勉強の鬼も居るかもしれない。僕だって、いつもいつもこうやってクラゲのマネをしてやる気の無さをアピールしているわけではない。大体、実を言うと精密に再現された打ち上げられたクラゲの形態模写は、真面目に授業を受けているよりも疲れるのだ。……まあ、嘘だけれど。とにかく僕が何故、長々とこんな話をしているかというと、それはこのロングホームルームの議題が問題なのだった……。

「は~い。じゃあ私たちのクラスは今度の学校祭でメイド&執事喫茶をやる事に、多数決で決定しました~!」

 そうなのだ。

 わが東雲東高校ではこの秋に学校祭なるイベントが開催されるのだった。

 傍目には楽しそうに見えるこのイベントなのだけれど、僕にとってはひたすらに地獄だ。

 心の深い僕でも地獄なのだ。

 南みたいに友達が多かったり、椿みたいにクラスの中心になって引っ張っていくならきっと楽しいイベントになることだろう。しかし僕には肝心の友達も居ないし、人を引っ張っていくようなリーダーシップも生憎、持ち合わせていない。そんな僕はこうやって、ただひたすらクラゲの物まねでもして、時間が過ぎるのを待つしかないのだ。

 みんながわいわいと喋って、楽しそうにアイデアを出し合っている中、僕はただひたすら浜に打ち上げられたクラゲの真似に没頭した。しかし、クラゲのマネもそろそろ飽きてきたな…そうだ!今度は打ち上げられた何なのかよく分からん海草の形態模写にチャレンジしてみよう!と思いついたとき、不意に頭上から声をかけられた。

「何をやっているんだよ?太郎氏?」

 声の主はクラスメイトにして、不本意ながらクラスで唯一話をする佐々咲糸くんだった。断じて友達ではない。そう思いたい。

「何って、これは打ち上げられた何なのかよく分からん海草の形態模写だよ。それよりその呼び方をやめろ」

「悪かったんだよ。キャスバル兄さん」

「僕はキャスバルでも、兄さんでもない!」

 何故、シャアしばり?

 まあ、嫌な気はしないけれど、恐れ多い。

 僕がいつも通りつれない態度をとっても、糸くんは全く気にする様子もなく、「ふ~ぅん」とか言いながら、ニヤニヤとこちらを見てきた。

「何だよ?その目は?」

「いや~なんでも~」

 何て言いながらも、糸くんはしつこくニヤニヤと僕を見てくる。

「なんだよっ!言いたい事があるならはっきり言えばいいだろ!?」

「ふっふっふっ、それじゃ、ぽっくんが太郎氏の考えている事を当ててあげようか?」

「なんだとーっ!出来るもんならやってみろっ!言っとくけど、僕は糸くんに心を読まれるほど、単純じゃないぞ!」

 僕の心は、愛子さんぐらい特別な力でもなければ分かるはずがない。舐めんな!

「太郎氏は、本当は学校祭に参加したいと思っている」

「なっ…」

「でも、クラスで浮いちゃってるから、みんなに混ぜてって言えないでいる」

「な、なっ…」

「だから仕方なく、興味がない振りをしている」

「な、な、な…」

「素直に言えばいいのに。僕もやりたいって」

「な、な、な、何をーーーっ!」

 こ、こいつが噂のニュータイプってやつか!?

「な、何でそんなことわかるんだよっ!?」

 糸くんは「ぷぷぷぷ」と笑いをこらえながら話す。

「だって、そんなの丸分かりだよ。わざわざ愛子さんみたいに能力を使うまでも無いんだよ。普通に見ていればわかるもんだよ」

 そう言われてしまっては、僕はぐうの音もでない。

「ぐ、ぐう…」

 あっ、出た。

 これには僕の中にいるツンデレの虫が、黙ってはいなかった。

「そ、そんなこと全然無いんだからねっ!学校祭なんて全然、気にならないんだからっ!」

 ただ、その言葉に糸くんがさらにニヤニヤと笑いながら、

「ぽっくんにそんなこと言って言いのかな~?」

 なんて言ってきた。

「それはどういうつもりだよ……?」

「ふっふっふっ…それはぽっくんならきっと太郎氏の悩みを解決してあげられるってことなんだよ」

「あまり、期待できないけれど……何?」

 糸くんは誇らしげに胸を張り、

「それはぽっくんと一緒に、部活動の研究発表をしようじゃないか!」

 と高らかに宣言した。

「どう?いい考えじゃないか?」

「……そんなことだろうと思ったよ」

 僕は思わずため息をつく。悲しい事に僕を誘ってくれるのはこんな奴しかいないのだ……。何だか、情けない……。

 

 糸くんは転入してすぐに、あるクラブを作った。そのクラブの名前は「二次元表現を三次元表現へ、変換および転換することについて考察と制作を弛まない努力で、日々粛々と続ける部」という長ったらしい名前なのだ。長いのでみんなには「2・5次元部」と呼ばれている。この「2・5次元部」の活動内容はというと、現代社会における様々な二次元表現を、時に緻密に、時により素晴らしく、時に独創的に再構成し、三次元表現への昇華を考察しさらにそれを制作する、という活動をしている。と、まあ皆さんはおそらく僕が何を言っているのか分からないと思うし、最初、糸くんからこの内容を聞いたときの僕も全く同じだった。しかし、実際に活動をしているところを見ると、何の部活動か一目瞭然だった。

 簡単に言うとそれは――アニメのキャラのフィギュアを作るクラブなのだった。

 蔑称「フィギュア部」(もしくはヲタク部)

 部員は佐々咲糸くん一人のみ。

「いやだよ…どうせ、あれだろ?なんか女の子が足にロケットを履いたフィギュアを十体ぐらい飾るだけなんだろ?そんなことしたら、もう僕はこの学校に友達が出来ないと思うよ……」

「何、言ってるんだよっ!」

 糸くんは僕の予想以上の怒り方で僕を睨みつける。さすがにちょっと馬鹿にしすぎたかも?糸くんが怒るのも当然かもしれない……。

「あれは、ロケットじゃなくてストライカーユニット、女の子じゃなくて彼女達は第501統合戦闘航空団のウィッチーズなんだよっ!」

「知らねーよっ!」

 起こるトコが違えよ!

「あのアニメをただの萌えアニメと思っていては駄目なんだよ!作者も最初は脚に飛行機の機体を履いてパンツ丸見えで敵と戦うという設定を面白がって観ていたけれど、観ていくうちにどんどんのめり込んでいって、結局一期、二期ともに何回も観たらしいんだよ!しかも感動のあまり涙したんだよ!そんなこと言っていたら主役を下ろされてしまうんだからねっ!」

「うるせえよ!てか作者って誰だよっ!?」

 一体、何の話をしているのやら…。糸くんはたまに現実と二次元の区別が付かなくなってしまうからな……。

「ありがたい話だけれど、僕は遠慮しておくよ……」

 あんまり面と向かってきっぱり断るとショックを受けるかもしれないから、ここは少しやんわりと断っておく事にしよう。

「そうかい?太郎氏ならきっと素晴らしい作品を作り上げてくれると思っていたのに残念なんだよ」

「せっかくの高評価申し訳ないんだけど、それもフィギュア作りについてなんだろ?そう考えると、何と言うか素直には喜べないというか……。そもそもなんで僕なんだよ、他にもいるんじゃないのか?」

 糸くんは当然と言った表情を浮かべてこう言った。

「そんな事決まりきっているじゃないか、ぽっくんの知る限り太郎氏ほど、ぽっくんのクラブに必要な人材はいないんだよ」

「そ、そうなのか……」

 そこまで言われると悪い気はしないな。

「太郎氏ほどの変態ならば、きっと素晴らしい魔改造を施してくれるはず!ぽっくんはどうしてもそっち方面は苦手で……。あっ!ちなみに魔改造っていうのは、既存のフィギュアをエロく改造することなんだよ!よい子は決して真似してはいけないんだよ!」

「僕はそんなよい子がしちゃいけないことなんかしないっ!」

「あっ、でも大きなお友達は自分で楽しむ分だけ、やってもいいんだからねっ!」

「いや、しちゃだめだろっ!」

 僕を一体なんだと思ってるんだ。

 それにしても糸くんにしても、ドクロ事務所の面々にしても、何でこう僕のことを変態だと思っているんだろうか?僕が一体何をしたというんだ?そりゃあ僕も健全な男子高校生なのだから、少しぐらいその…えっちいことだって考えるというものだ。にしてもだ、そんなにずば抜けておかしなことを考えてはいない筈なのだけれど……。それなのにこの評価はあんまりではないだろうか?なんだ?僕に僧にでもなれって言うのか?その辺りを一度はっきりさせておく必要があるかもしれないな。

「何を考え込んでいるんだよ?」

 糸くんに声をかけられて、僕はハッとする。

「いや…何でもないよ……」

 大体、変態というなら、糸くんのほうがふさわしいんじゃないのか?

「はっはぁ~ん、さては新しい魔改造を思いついたんだね!さすがなんだよ!」

「んなわけねーだろっ!……まともに相手していると、こっちまでおかしくなりそうだ」

 僕はスッと立ち上がる。

「ん?どうしたんだよ?次は学校祭の準備の時間だよ?」

「めんどくさいから、僕はパスさせてもらうよ。先生に何か聞かれたら、適当に答えていてくれ」

「まあ、いいんだけど…どこに行くつもりなんだよ?」

「ちょっとねー」

 僕は片手を挙げて糸くんに合図をして、教室を出て行く。その様子を南が何か言いたそうに見ていたけれど、どうせお説教かなんかだろうし、面倒なので気付かない振りをして僕は廊下に出た。

 

 廊下を進み、階段を上がる。

 

 東雲東高校には東棟と西棟、それと特別教室棟があり、それぞれが渡り廊下で繋がっている。そのうち特別教室棟だけが五階建てで、残りの二つは四階建てになっている。東棟と西棟は生徒の教室があるので屋上には出られないようになっているのだけれど、どういうわけか特別教室棟だけは屋上に出られるようになっている。もしかしたら鍵が壊されているだけなのかも知れないのだけれど、とにかく屋上が開放されている。開放されているといっても利用者がそれほどいるわけでもなく、僕は何度か利用しているけれど、誰かにそこで会ったことは無い。僕は面倒な授業の時とか、不良学生よろしくその屋上でサボるのだけれど、実質、僕の貸切と言っても過言ではない。

 

 その屋上は少し町外れにある我校の一番高い場所にあたるので見晴らしもとてもよく、空をとても近く感じる事のできる場所だった。

 お気に入りの場所だった。

 僕は意気揚々と屋上への階段を上る。

 その先で、まさかあんな出会いがあるなんて思いもせずに……。

 

 屋上への扉を開けた僕の目に飛び込んできたのは――

 横たわる一人の美女だった。

 


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