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ひとくい(7)

是非、縦書きで読んでください。

毎週水曜日午前0時(火曜深夜)に次話更新します。

                       7

 

 

「さて、皆さんに集まっていただいたのは、今回のこの事件の犯人が僕たちには分かってしまったからです」

 斑田警部にみんなを集めてもらって、僕はこの常套句を口にした。

 これって誰もが一度は言いたい一言の上位にランキングされているよね。

 いや~なかなかいいものですな。

「犯人が分かったって……それってどういうことなんですか?」

 なだれちゃんが青い顔を、強張らせて僕を見る。

「言葉通りの意味だよ。この事件は呪いなんかのせいじゃない。この事件はある人物が起こした殺人事件なんだ。」

「そんな…なんで…?一体誰が……?」

 小雪お母さんが、わなわなと震えながら口を覆う。

「信じられないわ……」

「そう。この事件は一見すると信じられない事が多すぎて、とても実現できるようには思えない。それこそ呪いでもなければ……。でも一つ一つ、残された手がかりを繋ぎ合わせていくと、おのずとこの不可能だと思われる殺人事件を起こすことが出来る人物に行き着くんです。この犯行を唯一、実行可能で、しかもその人物だけが小越さんを殺す理由を持っている……しかも――」

 僕はみんなの反応を見ながら、

「犯人はこの中に入る!」

 キメ顔でそう断言した。

 立て続けに、一度は言いたいランキング上位の一言を言う事が出来る僕は、幸せ者かもしれない。

「馬鹿なこと考えてないで、先、進めなさいよ」

 愛子さんが冷たく言い放つ。

 もう少しこの余韻に浸っていたいけれど、僕は話を続ける。

「それじゃ、皆さんと一緒に順を追って考えていきましょうか?」

 全員が僕の言葉に無言だけれど、息を呑んだ。

「はじめに、僕と小織さんが部屋に着いたとき、部屋の中は当然血の海でした。その惨状に僕は思わず吐いてしまったほどです」

 僕の説明で小雪お母さんはフラッと倒れそうによろめいた。

「大丈夫ですか?お母さん?」

「ええ、大丈夫ですので続けてください……」

 気丈に振舞うお母さんに思わず胸が痛くなった。

「じゃあ、続けさせていただきます。部屋の中は血まみれで最初は気付かなかったのですが、部屋の入り口に当たる障子の取っ手にもべったりと血がついていたのです。という事は、つまり――」

「誰かが小越姉さまを殺したということ……」

 なだれちゃんに僕は頷く。

「そう、これは明らかに何者かによる、呪いに見せかけた殺人事件なんだよ。悲しいけれどね……」

「でも、確か凶器には小越本人の指紋しか付いてなかったんだろ?なのにどうやって殺すんだよ?」

 小織さんが心底、不思議そうに僕に訊ねてきた。

「その点が僕たちにもずっと分からなかったんです。残っている痕跡同士が全く逆の答えを導く……」

 第三者の犯行を証明する取っ手に付いた大量に血。

 第三者の犯行を否定する凶器に残った証拠。

 あちらを立てればこちらが立たず。

 二律背反。

 矛盾。

「でも、この全く相反する答えを繋げる、もう一つの証拠。そこからつなげていく事で、この二つは綺麗につながり、一つの答えを導くのです」

 僕は一呼吸置いて、

「その答えが今回の事件の犯人です……」

 と僕は出来るだけ感情を乱さないように、静かに言った。

「もう一つの証拠って何なんだよ?」

 小織さんがまるで掴みかからんばかりの勢いで、僕に詰め寄ってきた。

「まあ、待ってください。ちゃんと順を追って説明しますから。そうしないと、おそらくその犯人は犯行を認めないと思いますので……」

 僕は一同を見渡して続けた。

「その証拠というのは……無くなった手首です」

「それで、一体何が分かるって言うんですか?」

 なだれちゃんはいまいち納得していないようだ。

「それはね、なだれちゃん、犯人にとってこの手首がその場に残るっていうのは、とても都合が悪い事なんだよ。そして――」

 僕はある人物を見て言った。

「手首が残ることで都合が悪い人物がこの事件の犯人なんだ。そうですよね――?」

 ある人物はこちらをしっかり睨み返していた。

「小織さん!」

 小織さんは僕をしっかりと睨んだままゆっくりと口を開く。

「あんた…自分が何言ってんのか分かってんの?なんで、あたしが犯人なんだよ!あたしが小越を殺すわけ無いじゃん!馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!」

 腕を組んで威圧するように小織さんは僕をまだ睨みつけてくる。

「いえ、あなたじゃないとこの事件は起こせないし、あなたしかこの事件で利益を得ないんですよ」

「あんた、おかしーんじゃねーの?何でそうなるんだよ!?」

 凄みをかけてくる小織さんに対して、僕は不適に笑って、

「それを今から証明していくんですよ」

 と言うと、小織さんは気押されたように

「くっ……じゃ、じゃあどう説明するか、教えてもらおうじゃねーか!」

 と言ったきり黙りこんで僕のほうを睨んできた。それに負けじと睨み返し

「では、お話ししましょう」

 僕は話を続ける。

「一見、相反する二つの証拠。第三者の犯行の証拠と、第三者が犯行不可能の証拠。これに僕たちは囚われすぎて本当のことが見えていなかったんです。この証拠を無理やり繋げてしまうには、呪いというのはとても安易ですが、都合のいい答えだったんだと思います。だから、僕たちは安易に思考の迷路に迷い込んでしまった。それが犯人の、つまりは小織さんの思惑だったんです」

 僕がちらりと、小織さんの様子を盗み見ると、押し黙ったままこっちを相変わらず睨んでいる。それを確かめて僕は続ける。

「その思考の迷路から抜け出る為の鍵、僕たちが唯一、手にすることが出来た第三の証拠、すなわち手首が無くなった訳を証明する事が、この事件の真相を暴くという事と同じ意味を持つんですよ」

 その事が示す悲しい真実を

「その事を今から証明したいと思います」

「もったいぶらずに、さっさと教えろよ」

 小織さんの言葉に僕は何も反応せずに続ける。

 もう、歯車を止める事はできない。

「犯人が何故、首だけでなく手首まで持ち去ったのか?それはさっきも言ったように、手首がその場に残っていると犯人にとって都合の悪いことがある。では、何が犯人にとって都合が悪いのか?手首に残っている犯人にとって都合が悪いもの、それは……」

 その場にいた全員が息を呑むのが分かった。

「それは……指紋です」

 僕の言葉にその場が静まり返る。

「でも……小越姉さんの指紋が、なんで犯人にとって都合の悪いものになるのでしょうか……?」

 なだれちゃんがごく自然に疑問を口にした。

「そう、普通に考えれば仮にその場に小越さんの手首が残っていたとしても、犯人にとっては全く不都合ではない。ただ、今回の犯人にとってはそこにそれが残る事が致命的にまずかったんです。そして、それがこの事件の犯人を示している」

 僕は小織さんをしっかり見据えて言う。

「手首が残ってしまう、するとそこから、遺体の身元を割り出すことになる。そうなると、その遺体が本当は誰のものか分かってしまう。犯人はそれを阻止したかった。それは何故か?」

 小織さんはだんだんと冷めた様な表情になっていった。

「それは、犯人がその遺体の本当の身元を隠したかった。では、今度は何故、身元を隠したかったか……?ここからは僕の想像も入りますが、おそらく犯人は遺体の身元を隠すことで誰が殺されたのかを我々に勘違いさせたかったのです」

「……ということは…まさか……」

「そうなんだよ、なだれちゃん。本当に悲しい事だけれど、これは君の家族が、いや君の家族しか、もっと言うとあの人でしか成し得ない犯行だったんだ」

 本当はこんな結末を誰も望んでいなかったかもしれない……。

 もしかしたら、殺されてしまったあの人も……。

 それでも、僕は言わざるをえない。

 真実を白日の下に晒す。

 その事がせめてもの僕たちの役目だと思って。

「僕はこう考えました。《人喰丸》で殺されたのは、本当は小越さんではなく、小織さん。そして、今そこにいる小織さんは実は小越さんが成り代わっていると!」

「………………」

 小織さんは特に否定も肯定もしなかった。

「……そう考えると全てに納得がいきます。明らかに第三者の犯行なのに何故、凶器に被害者の指紋しか残っていなかったか?それはそうだ。凶器は小越さんしか持っていないのだから……。そして入れ替わる為には身元を特定できる頭部、それに指紋は不都合。さらに言うと、殺されたと思われる小織さんに成り代われるのは、双子であるあなただけだ。これらのことから導かれる犯人はあなただけなんですよ」

 彼女はまだ黙ったままだ。

「小織さん……いや、小越さんっ!」

 口元を歪めて、小越さんは話し始める。

「ふふ、そこまで言うからにはもちろん証拠もあるのよね……?」

「ええ、僕の推理が正しいのだとしたら、おそらくあなたの指紋を採取すればそれで分かると思います」

「おいっ」

 斑田さんが顎で鑑識と思われる人たちに合図を出す。しかしそれを手で制して小越さんは続けた。

「そんなことしなくても大丈夫ですよ。……そう…私がやりました。私……簪小越が……。彼の言うとおり、私が小織姉さんを殺して、成り代わっていたのよ……」

 小越さんはそう言ってがっくりとうな垂れてしまった。

「その…ここまで偉そうに推理しといてなんですが……僕にはあなたが何故、こんな事をしてしまったのかがよく分からない。そのことを詳しく教えてもらえませんか?」

「それは……とても簡単なこと……」

 小越さんはぽつりぽつりと少しずつ話し始めた。

「最初は何時か、もう覚えていない……いつからか私は小織姉さんのことが羨ましくて、妬ましくて、大好きで、その何倍も大嫌いだった……。私はいつも姉さんの影に隠れて、守られて傷つけられていた……。私には姉さんが必要だったんだろうけれど……その何倍も邪魔で邪魔でしょうがなかったのよ……」

 小越さんは口元をゆがめて、気持ち悪い笑みを浮かべ話す。

「小織姉さんなんか居なくなればいいってずっと思っていた。いえ、願っていた。そんな時にあの刀が蔵から出てきたのよ……。願いが叶ったんだと思ったわ。抜けばそれで小織姉さんは死ぬと思っていた。それなのに……それなのに……何も起こらなかった。何も起こらなかったのよ!」

 小越さんは狂ったように嗤う。

「ククッ…アハハ…アハハハハッ!なぁ~んにも、なぁぁ~んにも起こらなかったのよ!小織姉さんは相変わらず生きているし、私はやっぱり小織姉さんの陰に隠れたまま、何も変わらず虐げられていたのよ」

「こ、小越さ…ん……?」

 僕の言葉なんて全く聞こえていないみたいに、うっとりとした目をして小越さんは続けた。

「そしたらね…あの《人喰丸》が語りかけてきたのよ……静かな、静かな声で…殺せ…殺せ…って……その声を聞いていたら、どんどん怖くなくなっていったわ……私の中から小織姉さん自身に対する恐怖も、小織姉さんを殺す事に対する怖さも無くなったら、そこには憎しみしか残っていなかった。それは純粋なる憎しみ!私は身を焼かれるほどの激しい憎しみにもう……耐えられなかった。そこからは、あっという間よ。昨日、小織姉さんを私の部屋に呼んで、頭を殴って気を失わせてから、首を……刎ねたのよ。」

「そんな……小越姉さま……嘘とおっしゃって……」

 僕の声だけでなく、なだれちゃんの声さえも小越さんには届いていない。顔つきが変わってしまうほど、小越さんは何かに取り付かれているように虚空を見つめて話を続ける。

「ウフッ…いひひ…《人喰丸》の切れ味を持ってすれば首を刎ねるぐらい、訳も無い事…ホールケーキを上手に切り分ける方がよほど難しいわ……。何故ならあの刀が語りかけてくるのよ、こうすればいい、こうやって殺せと……。私はただそれに従っただけ。そこには私の意志は無い……あの《人喰丸》は私の願いを叶えてくれただけ――」

「ふざけるんじゃないわよっ!」

 突然の怒鳴り声に振り返ると、愛子さんが左目の眼帯を外して、小越さんを睨みつけていた。

「あなた、さっきから嘘ばっかりじゃない!何が《人喰丸》が語りかけてくる、よ。刀が語りかけてくるわけ無いじゃない!」

「そ、そんな事無い!わ、私は…私は確かに聞いて……」

「黙れ!あなたが言っているのは、ただ実の姉を殺したという事から目を背け、逃げているだけのことよ!押しつぶされそうな罪悪感を刀に押し付けて、自分は悪くないって自分を騙したいだけ!そんなことをしてもあなたの罪はなくならないの!」

「小越姉さま……なんで……」

 なだれちゃんは耐えられなくなったのか部屋を出て行ってしまった。

「な、何であなたにそんなこと分かるの?私は本当に刀の呪いで小織姉さんを殺したのかも知れないじゃない……」

「いい加減にしたら?あたしのこの琥珀色の左目には本物の呪いがかけてあるの。他人の心が視えるっていうね…。だから、見たくもない人殺しの心の中まで視えてしまうのよ」

「……う、嘘…よね?」

「嘘じゃないわ。何ならあなたの心を視て、あなたがどうやって小織さんを自室に招いたか教えてあげましょうか?」

「や、やめて!」

「あなたは小織さんに誕生日プレゼントがあるって言って誘ったのよね?」

 愛子さんの言葉にその場が凍りつく。

 それはあまりにも酷すぎる……。

「そんなあなたが自分だけ罪の意識から逃げようだなんて、虫が良すぎるわよ!」

 愛子さんは人差し指を突きつけて言った。

「あなたは自分の意思で確かに小織さんを殺した。このことをちゃんと受け入れなさい。殺された小織さんのためにも……」

「う、うう……」

 そう言われた小越さんは膝からその場に崩れ落ちた。

 

 これで事件は解決したと思ったのだけれど――

「なだれ!あなた!」

 小雪お母さんの声に振り返ると、部屋の入り口になだれちゃんが立っていた。走ってきた為か息がかなり上がっている。そして、その手には――

「それは…まさか…《人喰丸》!」

 なだれちゃんは刀を構えて、今にも切りかかりそうな勢いで小越さんを睨む。

「小越姉さま、なだれは残念です……。小織姉さまだけではなくて――」

 なだれちゃんの目付きが変わった。

「小越姉さま…お前まで今日、失うんだからな!」

「駄目だ!なだれちゃん!やめろーっ!」

 なだれちゃんは僕の目ではとても追えないほどの速さで、うずくまる小越さんに切りかかる。僕は思わず目を閉じてしまう。

 しかし、その時――

「……あなた、一体どういうつもりなんですか?」

 なだれちゃんの声に目を開けると、目の前に――《人喰丸》

「あ…あれ?なんで?」

 状況から判断するに、僕はどうやら無意識のうちに、なだれちゃんの前に小越さんを庇うように飛び出したようだ。

「どういうつもりって訊いているのよーーーっ!」

「なんで、僕はこんなことを……?」

 混乱する僕に愛子さんが教えてくれる。

「そうやって出て行ったってことは、あなた何か言いたい事があるんでしょ?」

 横目で見ると、愛子さんは余裕たっぷり微笑んでいる。

 目の前の刀にそんな余裕ないですよ…。

 

 それでも――

 僕には伝えなくてはいけない事がある。

 

 僕は刀の切っ先越しになだれちゃんをしっかり見つめる。

「なだれちゃん、止めるんだ」

 しっかり、静かに僕は言う。

「そこを退け!そいつを殺して、私も死ぬ!」

「それは出来ないよ」

「なら、お前も殺すぞっ!」

 気迫がなだれちゃんから流れ込んでくる。

 これが殺気ってやつか。

 震えるな、身体。

 震えるな、こころ。

「例え、殺されても僕はここを退かないよ。なぜなら僕は君が人を殺すような人じゃないって信じてるから」

 真っ直ぐなだれちゃんを見て僕は続ける。

「どんな理由があったとしても、僕たちは人殺しなんてやるべきじゃないんだ。たとえ殺してしまいたいほど憎い人が居たとしても、だ。もし、そんなことをしてしまったら、きっと僕たちはその人への憎しみよりも、もっと強く自分自身を憎んでしまう。それはきっと殺すよりも、殺されるよりももっと辛く苦しい事なんだと思う。だから――」

 小越さんをさらにかばうように、僕は両手を広げた。

「君には人を殺して欲しくない。これは僕からのお願いだ」

 その時、なだれちゃんの目に涙が溢れてきて、

「うう…うわあああああああああああああああああああんっ!」

 なだれちゃんは、まるで小さな子供のように泣きじゃくりだした。もちろんその手にはもう《人喰丸》は無い。

「…ふぅ~。緊張した~」

 僕も力が抜けてその場にへたり込む。

「……教えて」

「えっ?」

 首だけで振り返ると小越さんが顔を上げて、こっちを見ていた。

「どこで私が小織姉さんじゃないって気が付いたの……?」

「まあ……確信が持てたのは、色々検証してみて、さっきそれを披露したときのあなたの反応を見たときですが、違和感を感じたのは今朝会った時です」

「どうして?私たちは顔もほぼ一緒だし、私、頑張って慣れない化粧だってしたわ。見た目では分からないはずよ」

「はい。確かに顔なんかは全く一緒に見えます。なだれちゃんたちが分からなかったのに、僕がそれで気付くわけ無いです」

「じゃあ…一体なんで?」

「それは、あなたの服装ですよ」

「……どういうこと?」

 小越さんは不思議そうに首を傾げる。

「今朝のあなたの服装は僕の小織さんに対する印象にしては、地味というか清楚すぎるんですよ。でもそのわりにその服はわりと新しい……。急にイメチェンするわけでもなければそのセンスは小織さんのものでは無いような気がして、そこが違和感を感じたところなんですよ」

 小さな花柄が可愛らしい、薄い水色のチュニックを小越さんは着ていた。

 朝あった時に、最初はこの服装の雰囲気から小越さんか小織さんかすぐには分からなかったぐらいだ。

「でも、これは確かに小織姉さまのクローゼットにしまってあった新品の服……ということは……?まさか……?」

 そこで小越さんは何かに気付いたように驚いた顔をした。

「気付いたみたいですね。それ、きっと小織さんからあなたへの誕生日プレゼントですよ。悲しい事にね……」

「そんな……私、何も知らな……」

 そこから先を小越さんは言葉に出来なかった。彼女は、ただ感情が流れ出すまま声をあげて泣いた。

「ハッピーバースデー、小越さん、小織さん……」

 僕は呟いてみる。

 僕の中のやるせない悲しみが深まっただけだった。

 こうしてこの悲しい事件は終わりを迎えた。

 


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