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ひとくい(4)

是非、縦書きで読んでください。

毎週水曜日午前0時(火曜深夜)に次話投稿します。

                       4

 

 

 日が暮れて。

 その日はなだれちゃんの家の広大な庭で、バーベキューパーティーをすることになった。

 なんと夏らしいイベントなのだろう。

 しかもまわりは女子だらけである。

 世の男子諸君は、さぞかし羨ましいことであろう。しかし、僕は声を大にして言いたい。

 現実はそんなに甘くないぞ、と。

「太郎ー!ここ、火が弱いんだけどー!」

「はいはい!いま、炭の追加もって行きますからねー!」

「すみませ~ん、こっちもお願いします~」

「はいはい、ただいま~」

「太郎く~ん。こっちも~」

「はいは~い」

 と言った具合に僕はさっきから忙しくあちらの網、こちらの網と火の調達をしている。男は僕一人だけ(簪家の父親はすでにお亡くなりになっているそうだ)なので、火をおこすところからずっと一人で担当しているのだ。それにしても何故、火の係りは男の仕事だと決まっているのだろう。これは男女差別ではないのだろうか?世の女性活動家は一体何をしているのだ。と、そんな批判めいた事を考えている間にも、

「ちょっと~火が弱いって言ってるでしょ~!早くしてよ~」

「は~い。ただいま~」

 てな具合だ。

 ちなみに僕は始まってから、まだ何も食べてはいない。どうだろう?これでも諸君らはうらやましいと感じるだろうか?もしも、そう感じる者がいるなら、喜んで変わって差し上げよう。

 

 バーベキューは意外なことに全員ですることになった。僕はてっきり小織さんと小越さんは参加しないものだと、決め付けていたのだけれど、二人とも当然のように参加している。それでも二人はやはりかなり距離を開けていて、網は全部で四つ用意されているのだけれど、その両端に分かれてモソモソと食べている。まあ、小織さんのほうはさっきからしつこく僕をこき使っているし、小越さんも気が付くと、僕をあの独特な目付きで睨んでいるので、決して二人とも大人しく食べているわけではないのだけれど。

「はい、太郎くん。まだ何も食べてないでしょ?」

 そんな僕に、南が串に刺さった肉や野菜たちを持ってきてくれた。

「おお、ありがと。でも……」

「火だったら多分もう大丈夫だよ。みんなもう大体おなか一杯みたいだし」

 確かに周りを見てみると、みんなさっきに比べて食べるペースが落ちてきている。それに火も大分安定してきたみたいで、呼ばれることもなくなった。

「それじゃ……いただきます」

 僕は肉にかぶりつく。そういえば、こんな風にいかにもバーベキューといった食べ方は初めてだ。

「こ、これは……美味い」

 食べ方のせいかもしれないが、外はほんのり香ばしくて、中はしっとりと半生、脂と肉汁がたっぷりと染み出してきて、舌の上で旨みだけを残してさっと消えていく。

「何だこれは…こんな肉は初めて食べた……」

 僕は串に付いていた肉を一気に頬張る。これなら海原先生にもご納得していただけることだろう。

「そうでしょ?何かね、エーゴ?ランク?とかっていう良いお肉なんだって。はい、もう一つどうぞ」

「おお、サンキュ」

 この肉に比べたら、今まで僕が食べてきた肉は全て何だったんだろうと思う。

「それにしても……」

 南は着替えてきて、今はタンクトップにホットパンツという夏娘全開の格好なのだけれど、何と言うか……。

「お前は…MYKだな」

 MYK=M(目の)Y(やり場に)K(困る)。

「ん?なにエム、ワイ、ケーって?」

「何でもないよ。気にすんな」

 僕がそう言っても南は何だか、んー…とか言って考えているみたい。

「(M)もってけ!(Y)よさ(K)こい踊り?」

「おお、何だか、可愛らしいアニメキャラが踊ったりしそうだな」

「(M)見てみろ(Y)よ(K)これでも死んでるんだぜ」

「いや、切り方おかしいだろ」

 まあ、南にかけてるんだろうけど。

「(M)もう(Y)よさ(K)こいってどこの祭りか分かんないよね」

「確かに、もうどこでもやってるけどさ。そんなこと言ったら高知の人に怒られるぞ」

 さっき、もってけ!って言っちゃったしね。

「(M)もう!(Y)よくわかんない(K)降参!」

「おお、うまい!」

 おあとがよろしいようで…。

 

「おい、乳おばけ。お前、さっきからいやらしい目で見られている」

 いつの間にか横に来ていた木星が南に言った。

 ちなみに、木星は制服を汚すといけないからと体操服に着替えている。その姿についてここで詳しく言及すると、僕の変態疑惑が確定してしまうので、またの機会にしたいと思う。

「えっ!?そうなの!?」

 両手で胸を隠す南。

「太郎くんのエッチ!」

「リアクション、古!」

 久々に言ったな、これ。

「てか、何言ってんだよ!木星!んな訳ねーだろ!」

 本当は木星の言う通りなんだけど。

 いや、男子高校生なら当然の反応だと思いますよ。

 そんな僕の抗議は、やはりいつも通り無視されて、木星はもくもくと手にした串焼きの肉を頬張っている。それにしても――

「おい、木星。それは一体なんだ?」

 木星の手にしている串には、びっしりと肉が刺さっている。というか肉しか刺さっていない。

「ああ、それはね、木星ちゃん野菜食べないのよ。だから特別にお肉だけにしたんだよ」

 と南が代わりに教えてくれた。ねえー、と木星に同意を求めても南は無視された。

「南…お前が木星を駄目にしているぞ……」

 僕の言葉に首を傾げる南を尻目に、僕は木星の肉を無理やり取り上げようと手を伸ばした。しかしその行動は木星に事前に察知されて、僕は手を木星に噛み付かれてしまった。

「痛ってえーっ!お前、何すんだよ!?」

 木星は僕を無視して、串に残った肉を一気に口に入れる。

「こら、木星!ちゃんと野菜も食べないと大きくなれないぞ!」

「ふぃふひょうふぁい」

 もぐもぐと口を動かしながら木星は何かを言ったようだけれど、全く聞き取れなかった。

「必要ないんだって、木星ちゃん」

 南がまたも教えてくれた。

「お前がまたそうやって甘やかすから……」

 その時、僕の肩に何かが巻きついてきた。ぐっと重みを感じる。

「らいじょうぶらって~。えへへへへ」

「あの…重いんですけど…愛子さん……てか酒くさ!」

 べろんべろんに酔っ払って、もう何だかよく分からない状態の愛子さんが、僕の肩に手を回してきて絡んできた。

「らいじょうぶ、らいじょうぶ!木星はい、い、の~!」

「ちょっ!どこ触ってんですか!?愛子さん!」

「いいじゃない!減るもんじゃなし~!」

 この人、そんなに飲んでたっけ?ていうかそもそもこの人、酒飲めるのか?

 僕はぐいっと強引に愛子さんを引き離す。

「南!お前も見てないで止めてくれよ!」

 南は何故か赤い顔をして、ボーっと僕たちを見ていたのだけれど、僕がそう言うと、ハッとしたように身体を震わせて一緒に愛子さんを引き離してくれた。

「愛子さん、ズルいです~!」

「ん?ズルい…?」

 僕が訊ねると、

「いやいや!なんでもないよ!なんでも!」

 南は手を大きく振って、全身で否定をあらわす。

「あ、ああ…まあいいけど……」

 南が手伝ってくれたおかげもあって、僕の貞操はかろうじて守られた。

「それはそうと、愛子さん。前から気になっていたんですけど、木星って身体のわりにやたらと食べますよね?あんなに食って大丈夫なんですか?」

「あら~?心配なの~?」

 愛子さんはニヤニヤと僕の顔を覗き込む。

「か、勘違いしないでよねっ!別に心配してる訳じゃないだからねっ!」

「…あなたが言うと、予想以上にガッカリするわね、そのセリフ……」

 愛子さんは心の底から気持ち悪そうな顔をする。ちょっとショックかも…。

「いや、そっちが言わしといて、それは無いでしょう……。それでどうなんですか?何か理由でも?」

「そうね……この子はちょっと特別なのよ……」

 そう言って愛子さんは少しだけ悲しいような顔で木星を見る。

「木星は通常の人の何倍も脳を使っているらしいのよ。そのおかげであんな機械を作ったり、それで色々分析できるんだけれど、そのせいで普通の人よりも沢山エネルギーが必要なのよ……」

「ああ、だから……」

 お菓子ばっか食って、肉ばっか食ってるんだ……。

「おい、カス。MYK」

 今までずっと我関せずといった雰囲気だったのに、唐突に木星に呼びかけられる。

「は?MYK?てか、カスって何だよ!」

「早くしろ。MYK」

 木星は催促するようにお皿を食べ終わった串でバンバン叩いた。

「(M)もっと肉(Y)焼いて(K)こい、だと思うよ」

 南がそう言うと、木星がこくんと頷いた。

「ていうか、南よく分かるな……」

 いつの間にこんなに仲良くなったんだ?

 女子同士、何か通じるものがあるんだろう。

「早くしろ」

 木星が下から睨みつけて、半分脅迫するような口調で要求してくる。

「はいはい…MYKね……」

 しょうがない、焼いてってやるか。

 なんだかんだ言っても、僕も甘いんだよな…。

 

 僕がまだ火が残っている網の前に来たとき――

『グワッシャーーーンッ!』

 と、その網が激しい音を立てて真っ二つに割れた。

「うおおぉっっ!?な、何だ!?」

 僕は驚きのあまりその場に尻餅を付いてしまう。

「チッ!仕損じたか」

 目を凝らして見てみると、もうもうと上がる煙の向こうに、木刀を構えたなだれちゃんが立っていた。まさか、木刀で切ったってのか?

「あなたはいい度胸ですね。私の目の前であんな不埒な行いをよくも出来たものです。やはりあなたのような殿方は、成敗させていただきます」

 そう言うと、静かに木刀を振りかぶるなだれちゃん。

「ちょっ!た、タンマタンマ!話を聞いてくれよ!」

「問答無用!」

 おお!時代劇以外で初めて聞いた、そのセリフ。ってそんな場合じゃない!

 なだれちゃんは宣言どおり問答無用で僕に切りかかってきた。その一の太刀を紙一重でかわし、僕は転げるように逃げる。

「逃げるとは卑怯な!待てーっ!」

 なだれちゃんは木刀を振り回しながら僕を追いかけてくる。女の子に追いかけられる事は、いつでも歓迎なのだけれど、これは勘弁して欲しい。僕は広大な簪家の庭を隅から隅まで逃げ回った。そうやって逃げ回っているうちに、どこからか怒鳴り声が聞こえてきた。その声が気になって僕はその場に止まる。

「やっと、観念しましたか。覚悟!」

「いやっ!ちょっ、ちょっと待って!この声……」

「は?何ですか?」

「これは……」

 僕はなだれちゃんを制止して、遠くから聞こえてくる声を聞き取ろうと耳を澄ました。

 

 ――だから、あんたは!何でそんな顔しか出来ねーんだよ!あんたがいるから――

 

「これは…小織姉さま…?ということは……」

「小越さんが危ない!」

 僕たちはとにかく声のする方へと急いだ。

 

 僕たちがそこに着いたときには、もうすでに小越さんは小織さんの足元に倒れこんでいた。

「くそっ…遅かったか……」

 場所はバーベキューをやっていたところのすぐ近くだったので、周りにはみんな居たみたいだ。状況が知りたいと思っていると、

「急に小織さんが怒り出して…誰も止められなかったんだよ」

 と、南が教えてくれた。

「小織姉さま、おやめください!何があったのですか!」

 なだれちゃんが小織さんの前に立ちはだかって止める。

「お客様もおられるんですから、この辺りでおやめになってください」

「なだれ、どけよ!こいつ、さっきからずっとあたしを見て笑ってたんだ。こいつは心の底であたしを馬鹿にしてんだよ!その顔がムカつくって言ってんだよ!いつもいつも、人を小馬鹿にした様な目付きで睨みやがって!」

 小織さんはなおも追い討ちをかけようと、拳を振り上げた。

「やめてください!お姉さま!」

 なだれちゃんが両手を広げて小織さんを止めようとする。その時――

「いいかげんにしなさい!」

 ずっと黙っていた小雪お母さんがものすごい声で怒鳴った。その声に場が静まり返る。

「一体、いくつまでそんなことを言っているの!?小織、小越、あなたたちは明日にはもう二十歳でしょう?もう大人なのにどうして、まだそんなことで喧嘩しているの!恥を知りなさい!」

「…………………………おお~」

 驚きすぎて三点リーダ十個分も黙ってしまった。

「いい加減、仲良くしなさい」

 お母さんにそうたしなめられて、小織さんは小さい子供みたいに口を尖がらせて、

「だって…あたしは……ちゃんと……」

 なんて言い訳をしている。

「あたしは仲良くしようと思ってんのに、こいつが全然仲良くしねーんだよ…。この前のあの呪いの刀だって、どうせこいつが抜いたんだ!こいつはあたしの事が殺したいほど憎いんだよ!」

 小織さんは小越さんを指しながら、僕たちに訴えかけるように話した。

「小織!めったな事を言うんじゃありません!どうしてそんなことを言うんですか!」

「そうです!小織姉さま!小越姉さまがそんな事するはず無いじゃないですか!」

 なだれちゃんとお母さんは小越さんをかばう。まあ、そりゃそうだよな。

「それが、そうじゃないのよね~」

 こんな時に何を言い出すかと思えば、愛子さんが眼帯を外していつの間にか僕のすぐ後ろにまで来ていた。

 おい、おい……。まさかこんな中に乱入する気じゃないよな……。

 僕の危惧とは関係なく、愛子さんはもめている簪家の皆さんの前に進み出て、

「刀を抜いたのは~」

 何て言って、みんなの顔を選ぶように順番に指していく。頼むからやめて欲しい……。

「お前だーっ!」

 愛子さんはそう言うと一人の顔を指した。それは――

「……そんな…嘘ですよね……?小越姉さま……?」

 愛子さんに指差された小越さんはもっと驚くかと思ったが、意外なほど冷静に

「……そうよ。私が抜いたの……」

 と認めた。

「何でそんなことを……?」

 至極当然な、なだれちゃんの問いかけには代わりに愛子さんが答えだした。

「小越さんは本当に小織さんを殺したかったみたいよ。でも、そんな事とても怖くて出来ない。そんな時に蔵から呪いの刀が出てきた。呪いの力で自分でも殺すことが出来るって思ったみたいね。でも実際は――」

「実際は抜いても……何も変わらなかった」

 黙り込んでいた小越さんが急に話し出した。

「抜いたらきっと、何も分からなくなって…それで小織姉さんを殺してしまえると、そう思っていた……。でも、何も変わらなかった。私はやっぱり臆病なままの私だったのよ……。それで…怖くなってそのまま刀を放って逃げたの……」

 小越さんの告白にみんな聞き入っていた。聞いているだけで、その心に触れてこっちまで苦しくなるような口調だった。

「でも……それじゃ、小越姉さまが呪われてしま――」

「大丈夫よ」

 なだれちゃんの言葉を遮って、愛子さんが続ける。

「ここに昼間のうちに木星に分析してもらった《人喰丸》の成分表があるわ。これによるとそのほとんどは鉄とかの鉱物と、柄の部分に使われている少しの檜材ぐらいで、特に変わった点はないわ。これってどういうことか分かる?」

「いや…さっぱり……」

 僕には全く見当が付かなかった。

「そんなだから、太郎は駄目なのよ」

 悪かったな。

「あら?そんな口利いていいの?へえ~」

 しまった。眼帯を外していたのだった。

「お馬鹿な太郎にも分かるように教えてあげると、人喰丸は決して呪いの刀って訳じゃない。いたって普通の刀よ。少し鋭いくらいで他には何もおかしいところが無いのよ」

「そんな……だって…言い伝えでは……」

「そうね。言い伝えじゃ抜いた人も死んでしまうのだったわね。でも、小越さんは何の変わりも無く生きているわ。という事はこの呪いは偽物ってことにならない?」

「そうか…確かに、いまだに小越さんが生きているのはこの場合おかしいですよね」

「そうなのよ。太郎にも分かったってことは分かっていただけたんじゃないかしら?ね?なだれちゃん?」

 愛子さんに訊かれたなだれちゃんは、黙ったまま小越さんを見つめた。そのまま少しの間、見つめていたけれど重い口を開き話し出した。

「小越姉さま。どうしてそんなに小織姉さまを憎むのか、なだれには分かりません。それに私は小越姉さまも、小織姉さまも二人ともに死んで欲しくないです。何であんな事をしたかはもう訊きません。だから、あんな事はもうしないと誓っていただけませんか?それと……これは無理にとは言いませんが、小織姉さまともう少し仲良くしていただけませんか?これはなだれからのお願いです」

 なだれちゃんは真っ直ぐ小越さんを見つめてそう言い、深々と頭を下げた。

「わ、わ…私は……」

 小越さんは戸惑った表情でなだれちゃんを見ていたが、そのうちすっくと立ち上がって、一目散に母屋の方へ駆け出した。

「あっ!逃げた!」

 僕が反射的に追おうとしたら、

「放っておいてやって!」

 と小織さんに腕をつかまれて、止められた。そうしている間に小越さんは家に入ってしまったようで見えなくなってしまった。

「何で!?」

「今は、あいつ、多分辛いだろうから……」

 そう言って、僕の腕を掴む小織さんの目には意外にも涙が浮かんでいた。

「えっ?小織さん……?」

「へへ…さすがに実の姉妹から殺したいとかって言われたら、さすがにこたえるよ……」

 そういうと小織さんは俯いて向こうを向いてしまった。肩が震えているから泣いているのかもしれない。

「昔は……仲が良かったんです……」

 俯いて話さない小織さんの変わりにお母さんが話し出した。

「二人ともいつも一緒で…なだれが生まれてからも、二人でよくなだれの面倒を見てくれていたんですよ。それがいつの間にか気がついたときには二人がいがみ合っていて……でも、まさかそんなに……」

 お母さんもショックだったのだろう、それ以上は言葉が繋がらなかった。

「……最初はあいつがうらやましかったんだと思う」

 今度は小織さんが話し出す。

「あいつ、子供の頃は今と違って明るくてみんなにも人気があったんだ……。それが妬ましくて、あいつを苛める内にあいつもあたしを避けだして……で、中学ぐらいからかな、あたしはちょっと派手な子達と付き合いだすと、ますますあいつがムカついて…で苛めてたらこんな関係になっちゃってたんだよ」

 小織さんは星空を見上げて

「あ~あ、もうあの頃みたいには戻れないのかな~」

 とやけっぱちみたいに言った。

「小織さん……」

「そんなこと無いです!」

 ずっと黙っていたなだれちゃんが小織さんに飛びついて言った。

「全然、まだ間に合います!だから…そんな事言わないで……」

 そこまで言ってなだれちゃんは涙声になって続けられなかった。

「おいおい、泣くなよ~なだれ~あたしまで泣きたくなるだろ~」

 そう言って小織さんは、なだれちゃんの肩を抱き二人して泣きだしてしまった。

「いい家族ですね……」

 僕は愛子さんにそう囁く。

「そんなことは分かってるのよ。まあ、とりあえずこれで一件落着ね」

「そうですね」

 僕たちは並んで、抱き合う二人を見てそう言った。

 これから先は僕たちの出番ではない。この後、どうなっていくかはこの家族しだいだ。そうだ、まだ何も終わっていない。今からでもまだ間に合うじゃないか。そう思うとこの家族の行く末の幸せを祈らずにはいられなかった。

「さて、仕事も片付いた事だし――」

 愛子さんはにんまりと笑う。

「飲みなおすとするか!」

「まだ飲むんですか?ていうか、もう飲まないでください!」

 あははは、と愛子さんは笑い、僕もそれにつられて笑う。

「おい、ゴミ虫。MYK」

「お前はもっと空気読めよ!木星!」

 その突っ込みになだれちゃんや小織さん達も笑う。二人とも笑うと、本当可愛いんだよな……いい子だし……。

「南ちゃ~ん、太郎がなだれちゃん達にデレデレしてるわよ~」

 しまった!心を読まれた。

 愛子さんがそう言うと、僕の腕がギュウっとつねられた。

「へえ~そうなんだ~太郎くん……」

「あの…南さん…?痛いですし、その顔とても正視に堪えかねるほど恐ろしいんですが……」

 それになんでそんなに怒ってんの……?

 そんな僕の鼻先に木刀が突きつけられた。

「あなたは性懲りも無く……やはり、たたっ切られないと分からないようですね」

 なだれちゃんはそう言うと容赦なく切りかかってきた。

「ちょっと!タンマ!勘弁してくれよ!」

 僕はあわてて逃げ出す。それを南となだれちゃんが追いかけてくる。それをみんなが見て笑っているのだった。僕以外のみんなはこれで問題解決、心配御無用ってところだろう。僕もこの二人から逃げとおすか、二人を説得すればそれで全て終わると思っていた。

 

 しかし――

 

 次の日。

 僕たちはそのまま簪家に一泊させてもらった。広いこの家なので、一人一部屋、それはそれは立派な部屋をあてがわれて実に快適な眠りだった。

「太郎くん!起きて!ねえ!太郎くんっ!」

 そんな心地いい眠りから僕は無理やり起こされた。身体を起こしてみると、部屋の入り口に誰かがいる。ん?あれは……。

「ああ…小越さん…いや、小織さんか……。何ですか?こんな朝っぱらから……?」

 僕は眠たい目をこすりながら、小織さんに半分抗議の意味を込めてそう訊いた。あまりに眠りが心地よかったから、僕はまだはっきりと目が覚めていなかったのだけれど、その後に小織さんが言った言葉に僕は一気に目が覚めた。

「それが……こ、殺されているの……」

「は、はい?今、何て言いましたか?」

 

「殺されているのよ!小越がっ!」

 

 僕は眠気とともに血の気も引いていくのが分かった。

 殺された?小越さんが?

 もしこれが夢なのだとしたら、一刻も早く醒めて欲しいと、そんな暢気な事を思った。

 

 


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