第2章 禁域の外
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夜の神社。
社務所を出ると、外はすでに黒幕を下ろしたような闇に包まれていた。
「ちょうどいい。幕間が出るころだ」
雷兆は薄笑いを浮かべながら言った。
「幕間? ……何の話だよ」
双雷は眉をひそめながら長い石段を下りる。
やがて大鳥居が姿を現した。
その手前で雷兆は立ち止まり、真剣な声色になる。
「ここから先は結界の外だ。俺から離れるな」
「……離れるもなにも、あんた説明全然してねぇだろ」
「フッ、それは何よりだ」
不穏な笑みを残して、雷兆は鳥居をくぐる。
仕方なく双雷も後に続いた――その瞬間。
空気が一変した。
肌に無数の針を刺されたような悪寒。胸を締め付ける圧迫感。
心臓は勝手に早鐘を打ち、血液が全身を駆け巡る。
「な……んだ、この空気……!」
呼吸すら重い。
だが雷兆だけは平然と歩みを進めていた。
「俺は言葉で説明するのが苦手でね。だから体感してもらうしかない」
「体感ってレベルじゃねぇだろ、これ……!」
田んぼの広がる夜道。
そこに――異様なシルエットが立っていた。
街灯に照らされ、闇の中で白く浮かび上がる人型。
異様に身をくねらせ、こちらへゆっくりと歩み寄ってくる。
「待て、双雷! 近づくな! 直視もするな!」
雷兆の声が鋭く飛ぶ。
「は? なんでだよ」
「奴は人のようで人ではない。この世界では――都市伝説が現実なんだ」
「都市伝説……? あれが……」
双雷は息を呑む。
クネクネは距離を詰めてくる。
肌は真っ白に抜け落ちたようで、血走った赤い目だけが異様に浮かぶ。
口はカタカタと震え、歯が打ち鳴らす音が夜風に混じった。
「か、怪物……」
「そうだ。奴は怪物だ。普通の武器は通じん」
雷兆はゆっくりと左手を上げた。
その指の間に、鈍く光る一本の釘が挟まれている。
「純銀製の三寸釘……そこに神力を込める」
次の瞬間、釘は稲妻を纏った。
バチバチと弾ける閃光が闇を裂く。
「――【飛雷針】‼」
デコピンの要領で弾かれた釘は、雷そのものとなってクネクネの頭部を貫いた。
一瞬。
クネクネの首から上が掻き消え、残った身体は黒い炭となって風に散る。
地面には焦げ跡。田んぼの水は干上がり、ただの黒土と化していた。
「な、なんだ今の……!」
双雷は言葉を失う。
雷兆は当然のように答えた。
「これが雷神の力――雷技だ」