第1章 雷神に選ばれし者
以前書いたものをリライトしました。
田んぼの真ん中で、真っ白な影が身をくねらせていた。
服は着ていない。性別も分からない。
ただ、血走った目と濁った赤黒い瞳、カタカタと震える口元だけが異様に人間臭い。
その存在は、都市伝説で語られる《クネクネ》。
本来なら、噂話やネット掲示板のネタでしかないはずだった。
だが、この世界では違う。――現実に存在している。
「……なんだよ、マジで出てきやがった」
田んぼの縁に立ち、腕を組んで影を睨む少年がいた。
名は――鳴神 双雷、十六歳。
元々は東京の高校に通っていた、どこにでもいる不良少年。
……だったはずだ。
だが今の彼はもう“死んでいる”。
下校途中に突如落ちた雷に打たれ、全身を灼かれ、意識は闇に沈んだ。
――気づけば、見知らぬ神社に立っていた。
境内にはヒノキの香りが漂い、懐かしくも異質な感覚が胸を満たした。
呆然と座り込む彼を見つけたのは、一人の男だった。
「ようこそ。待っていたぞ――異世界の神の子よ」
声をかけてきたのは、白髪交じりの宮司。
名を神宮寺 雷兆と名乗った。
「……は?」
双雷は目を細めた。
「今なんつった? 俺が……神? ふざけんな。ここは東京だろ?」
「フッ。そう思うのも当然だ。しかしここは“ジパングのトーキョー”。お前がいた東京とは似て非なる場所だ」
雷兆の笑みは不気味なほど落ち着いていた。
「お前は落雷で死んだ。そしてこの世界に転生した。雷神に選ばれし者としてな」
「……選ばれた? 俺が? 意味わかんねぇ」
雷兆は急須から茶を注ぎながら、ゆったりと告げた。
「この世界には《異形者》と呼ばれる怪物がいる。お前がさっき見たクネクネもそうだ。人を狂わせ、人を喰らう。……そして奴らを討てるのは、神に選ばれた者だけ」
双雷は笑い飛ばしたかった。だが、耳に残る“歯がカタカタ鳴る音”。夜闇に揺れるクネクネの白い影。
それが現実であると認めざるを得なかった。
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