【第1話】 水の音
氷川凛は、水の音で目を覚ました。
それは、どこか懐かしくもあり、けれど胸の奥をひりつかせる冷たい感覚だった。
夢の中で見たのは、あの夜の光景――。
炎に包まれた家。倒れた父。震える母。
そして、叫んだ声とともに、吹き上がる“水柱”。
それが、彼の覚醒だった。
*
現在、凛は東京都下、山間にある“守護者連盟日本支部・訓練拠点”に所属している。
ここは、異能者――特異能力を持った者たちが、安全に成長するための拠点であり、同時に、災厄との最前線でもある。
「氷川、起きたか?」
部屋の扉が開き、銀髪の少女が立っていた。
白鷺真白。凛と同じく訓練生で、刀を操る風の能力者。感情をあまり表に出さないが、凛にとっては頼れる相棒のような存在だ。
「今日も模擬戦か?」
「違う。外部任務。呪地、らしい」
言葉を聞いた瞬間、凛の胸に、あの夢の光景がよぎった。
あれから、力を恐れ、誰とも深く関わらず、ただ与えられた訓練を黙々とこなしてきた。
だが、それでは何も変わらない。
「力を持つということは、選ばれるということ」
それは、守護者連盟の教官――氷の王・セレストの言葉だった。
「行こう」
凛は小さく呟き、真白とともに施設を出る。
目的地は東京郊外にある地下都市跡。
呪地と化したその場所で、彼は初めて、“怪物”と対峙することになる。
その出会いが、すべての始まりだった。
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