糸番人
糸を管理出来る役割の物語を、以前から考えておりました。
人と人とを結ぶ糸……恋愛は赤、友情は青、敵は黒、師弟は緑等……関係によって糸には異なる色があり、結ばれ方にも色々なパターンが存在する。
硬い絆で結ばれる場合もあれば、今にもほどけそうな程に緩い結ばれ方もあるわけだ。
糸の繋がりを見極め、それを結び直すか、切断するかを正しく決定する役割を担う者、『糸番人』がこの世のあらゆる場所で糸を管理している。
そんな数ある『糸番人』の中に、見習いの『糸番人』が仕事の依頼を受けた。
彼女の名は糸口結、『糸番人』の家系に生まれた少女。
生まれた時から絆を繋ぐ『糸』が見えており、触れる事も出来ていた。
結に依頼を申し出たのは、近所に住む小学二年生の土野圭。
皆からは『ケイくん』と呼ばれている。
ケイくんが依頼した内容を聞いて、結は驚きながらも彼を意地らしいと感じた。
ケイくんの依頼は、コッソリ自室で育てていたトカゲの『カゲちゃん』がママに見付かり捨ててくるよう言われたので、『カゲちゃん』との絆の糸を結んでほしいという物だ。
ケイくんの手には『カゲちゃん』が包まれている。
結はケイくんと『カゲちゃん』との関係性についてを見通して、どの色の糸が適しているかを思案している。
(友情の青にするか、それとも兄弟の紫にするか……)
糸の色は今後の関係に影響するので、慎重に考えないといけない。
「ケイくん、『カゲちゃん』とはいつかは別れる日が来るのよね。
だから、その辺りを考えて糸を決めたいんだけど……ケイくんにとって『カゲちゃん』は、弟?
それとも親友?」
「どっちもだよ!
『カゲちゃん』はボクの弟でもあるし、親友でもあるんだ!
糸の色はどっちでも良いんだよ!」
この答えには困った。
(どうしよう…)
安易に色を決めてしまえば後に糸の色と違う関係に進展した場合、結んだ糸が自然に切れてもとには戻らなくなるからだ。
(友情とも兄弟とも云える関係……そうだ、あの色)
結は『糸箱』から白い糸を出し、ケイくんの小指と『カゲちゃん』のシッポに結び付けた。
「これでケイくんと『カゲちゃん』はどちらかが一生を過ごすまで一緒!
白はどんな色にも染まる糸だからね!」
「ありがとう!
この糸に結ばれてれば、ずっと『カゲちゃん』といられるね」
「いられる、しかも『糸番人』の糸は強力だから来世でも永遠にいられるよ」
ケイくんは『カゲちゃん』を家に連れ帰り、ママに一緒にいられるようお願いした。
ケイくんのママは熱心なケイくんの気持ちを優先して、『カゲちゃん』を飼う事を許可してくれた。
(良かった……ケイくんも『カゲちゃん』もこれからどんな色の糸にも染まる関係になれたね!)
『糸番人』として、結が一人前になる日も遠くない。
皆さんが想像する絆の糸の色は、どれが何色でしょうか?