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幸福な蟻地獄  作者: みつまめ つぼみ
第3章:幸福の象徴

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67.穏やかな日々

 契約書にサインした週、女子たちは海燕うみつばめから、俺の学校の中等部に転籍した。


 うちの学校、中等部なんて持ってたのか。初めて知った。


 デュカリオンが手続きやら荷物の回収やらを一週間で終わらせていった。



 月曜日になり、朝のダイニングルームで俺たちはのんびりと朝食を食べていた。


「今日からホームスクーリングか。

 登校時間が無くなったから、のんびりできるよな」


 優衣ゆいが楽しそうに微笑んだ。


「外に出る支度をしないでいいって、女子にとっては大きな時間節約ね」


 日差し対策も、しなくて良くなったわけだしな。


 身だしなみを気にしなきゃいけない女子って生き物は、大変そうだ。


 俺は女子たちを見回した。


「でもその割に、みんなきっちり整って見えるよな」


 由香里ゆかりが頬を染めて応える。


悠人ゆうとさんにみっともない姿なんて、見せられませんから」


 校則に縛られなくなったからなのか、女子たちは薄く化粧をして楽しんでるみたいだ。


 メイクとかよくわかんねーけど、ティア以外はいつもと外見が違って見える。


 あの瑠那るなですら、唇になにかを塗ってるみたいだ。


 俺は顔を洗って済ますだけなのにな。なんだか申し訳ないな。



 俺たちは朝食を食べ終わると、デュカリオンから指示があった通り、九時に談話室へと移動した。





****


 談話室で待っていると、背の低い女性が四人、入ってきた。


 湖八音こやね三姉妹と――烏頭目(うずめ)先生?!


 俺は唖然としながら烏頭目うずめ先生に告げる。


「先生、なんでここに居るんですか……」


 烏頭目うずめ先生は今日もエネルギッシュに応える。


「校長命令なのです!

 さぁ、キリキリお勉強なのです!

 一言でいえば、出張手当なのです!」


 給料増額に釣られたのか。案外、現金な人だな。


「担任の仕事はどうしたんですか」


「こういう時のための副担任なのです!」


 霧上きりがみたちに迷惑がかからないなら、もうそれでいいか。


 湖八音こやね三姉妹が女子たちに告げる。


「私たちは教員免許も持っています」

「義務教育から高等教育まで、全てお任せください」

「個人指導できちんと叩き込みます」


「簡単にいえば、特別報酬です」


 だから、なんで三人で一斉にしゃべるんだよ……。


 しかもあんたらも給料増額目当てか。現金な人ばっかだな。


 でも教育熱心で暑苦しい人より、それぐらいの人の方がこっちも気が楽か。



 俺たちは空いてる個室を改装した学年別の教室に移動し、それぞれの授業を受けていった。





****


 最初の授業が終わって休み時間になり、俺は教室を出た。


 女子たちも一斉に廊下に出てきて、みんなで廊下で顔を合わせた。


「ホームスクーリングなんて初めて聞いたけど、どんな感じだ?」


 美雪みゆきが楽しそうに応える。


「治験を受けてた時の授業と同じだね。

 塾の講師だから、雰囲気も学習塾みたいになるんじゃない?

 あんまり学校の授業って空気じゃない気がする」


「そうか、気楽に過ごせてるなら、いいんじゃないか」


 瑠那るなは少し憂鬱そうだ。


「ほとんどマンツーマンだから、気を抜けなくて気楽とは言えないかな」


「ああ、それは俺も思った。よそ見とかできないしな……」


 興味が湧かない教科に数十分も集中しろとか言われても、実際には難しいもんだ。



 十分休憩の間に言葉を交わし終えると、俺たちは教室に戻った。


 俺は授業を受けながら、明るくなって見えた女子たちの笑顔を思い出す。


 みんな、一緒に居られるのがうれしいのかな。


 それと『いつ妊娠しても大丈夫な環境』に居るのが安心感につながってるのか。


 薬の副作用とはいえ、妊娠なんてあの年齢で怖くないわけが無いしな。


 俺たちの関係を見直せれば一番だけど、あいつらはそれを我慢できない。


 後戻りのできないあいつらにとって、今の環境は本当に必要なものだったのだろう。


 俺は胸に安堵を覚えながら、気の抜けない授業を受けていった。





****


 昼になってダイニングルームに移動すると、すでに配膳が終わっていた。


 デュカリオンが栄養士を使って、昼食を手配してくれてるらしいとは聞いたけど。


 毎週血液検査を受けてる俺たちの栄養状態も、把握されてるんだろうな。一人一人メニューが違う。


 俺たちは名前の書いてある席に腰を下ろし、先生たちも含めて十一人で昼食を食べていった。



 俺の携帯端末デバイスがメッセージ着信を知らせる――霧上(きりがみ)からだ。



『どうだ、新生活の感想は』


(まだわかんねーけど、悪くないんじゃないか)


『それなら良かった。彼女たちを、それ以上不幸にするなよ』


(言われなくてもそうするよ)


『お前たちとは、またいつか話をしてみたいな』


(そうだな。いつでも遊びに来いよ)


『ああ、落ち着いた頃に、うかがうとしよう』



 霧上きりがみのトレードマーク、銀髪サングラスが遠い記憶に思える。


 あいつとここでお茶を飲む日が楽しみだ。


 その時は大石も呼んでもらって、あいつと組手でもしてみるかな。





****


 その日の授業が終わり、先生たちが帰っていった。


 どうやら俺の授業時間を、女子たちに合わせたタイムテーブルにしてくれてるらしい。


 その帳尻をどこでとってるのかは知らないが、そのうち補習みたいな形にでもなるのかな。


 時計を見る――まだ二時過ぎだ。


 俺は伸びをした後、瑠那るなに告げる。


「よし、それじゃあ身体を動かそうぜ、瑠那るな


「うん!」


 俺は瑠那るなの頭を撫でたあと、道着に着替えるために部屋に戻った。



 トレーニングルームで一時間汗を流した後、俺は瑠那るなと格技場で向き合っていた。


「じゃあ今日は久しぶりに俺のトップギアでいくか」


 瑠那るなが顔を歪めて応える。


悠人ゆうと、私の自信を打ち砕いて何をしたいの?!」


 俺はニヤリと微笑んでやる。


「天狗の鼻は、早めに折っておくものだろう?」


「……お手柔らかにね」



 三十分後、格技場に瑠那るなの「こんなの、勝てるわけないでしょーっ?!」という叫びが響いていた。


 俺は笑いながら、倒れ込んでふてくされる瑠那るなを引き起こしてやり、何度もトップギアを味わわせていった。





****


 夕食後、午後七時に由香里ゆかりの部屋のドアを叩く。


 すぐにドアが開かれ、シャワーを浴びたあとに彼シャツをまとった由香里ゆかりが暗い表情で姿を見せた。


「お願いします。今日も一時間、全てを忘れられるくらい愛してください」


「……わかった」


 俺は由香里ゆかりの肩を抱いて、部屋の中に入っていった。


 女子たちの中で、今は由香里ゆかりが一番不安定に見える。


 彼女は率先して我を忘れて俺の愛を貪るように受け止め、体力を使い果たして眠っていった。


 俺はシャワーを浴びてから、寝ている由香里ゆかりの額にキスをして、優衣ゆいの部屋へ向かった。





****


 他の女子たちも、由香里ゆかりと大きく変わらない様子だった。


 恐らく妊娠の不安を誤魔化したいのだろう。


 彼女たちは俺の愛を深く懇願し、必死に貪り、力尽きて眠っていく。



美雪みゆき、妊娠が怖いなら、こんなのは逆効果だろう。

 我慢できないにしても、もっと抑えよう」


「そんなことはわかってるの! でも止められないのよ!」


 美雪みゆきは、つらそうに涙を流しながら俺に叫んだ。


 『頭ではわかってるけど』ってやつか。


 理屈じゃなくて、感情の問題なんだろうな。


 俺は美雪みゆきの懇願に応えるように大切に愛を注いでいき、彼女が力尽きるのを見守った。



 ……もう、女子たちは自分の感情の高ぶりを制御するのが難しい段階にいるのかもしれない。


 そうなると俺にできることは、彼女たちの心が平穏になるように努めることだけだ。


 俺は美雪みゆきの乱れた髪を整えてやってから、次のティアの部屋向かった。



 ティアはいつも通り素直に愛を求め、俺に愛を与えてきた。


 この時間だけは、健全な愛を交わし合えてる気がする。


 ティアは体力の限り愛を楽しんで、疲れ切って眠っていった。



 セレネは他の女子と変わらない。


 妊娠は怖くないみたいだけど、自分を感じることに恍惚としてるみたいだった。


 いつも『俺の愛を受けてる時間だけが自分で居られる瞬間』って言ってたしな。


 セレネもまた、体力の限り愛を貪って、疲れ切って眠りに落ちた。


 俺は一日の務めが終わり一息ついた後、夜の鍛錬をしにトレーニングルームに向かった。





****


 みんなが段々とホームスクーリングの生活に馴染み、平和な時間が過ぎていった。


 このホテルは島外の人間が主要な客層の観光ホテルで、俺たちのことを知る客はいなさそうだった。


 この建物にいる間は、みんなは周囲からの白い目から完全に守られるみたいだ。


 外出は控えていたけど、日光を浴びないのも不健康だ。


 俺たちは最上階の特権、大きな天窓のある部屋で仲良く寝転び、昼寝をして過ごすこともあった。


 女子たちは遊び心か、水着に着替えて参加してきた――いくら屋内で空調が効いてるからって、秋にそれはどうなんだ?


 まぁせっかく買った水着をひと夏しか着られないんじゃもったいないし、こういう活用方法も有りか。


 由香里ゆかりが頬を染めながら笑顔で告げる。


「日焼け止めを塗ってくれませんか? 背中は手が届かないんです!」


「お、おう……」


 女子たちで塗り合えばいいんじゃねーの?


 俺は床に寝そべる由香里ゆかりの背中に丁寧にオイルを塗っていく。


 一人がやり始めると、他の女子たちも悪乗りを始めた。


「いいなそれ! 私も塗って!」


「はいはい、順番な」


 どうやら俺がおもちゃにされてるらしいと気付いたのは、最後のティアの番になってからだった。


「お前、なんで水着脱いでるの……」


「え? だってワンピースの水着なんて、背中に塗るなら脱がなきゃ塗れないでしょ?」


 そりゃそうなんだけどよ……。


 恥の概念が希薄ってのは厄介だなぁ。前くらい隠せ。


 俺は楽しそうに微笑む女子たちに見守られながら、寝転ぶティアの背中にもオイルを塗っていった。





****


 穏やかな日々が過ぎていき、季節は十一月の下旬になっていた。



 授業を受けている俺の部屋に、湖八音こやね先生が飛び込んできた。


竜端たつはしくん、風祭かざまつりさんが倒れました。すぐに来てください」


「――由香里(ゆかり)が?!」


 俺は慌てて立ち上がり、湖八音こやね先生の後を追った。


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