表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福な蟻地獄  作者: みつまめ つぼみ
第3章:幸福の象徴

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/67

57.プロメテウス

 その日の午後になり、先週のように格技場に湖八音こやね三姉妹が姿を現した。


 俺は申し訳なくなって手を挙げて告げる。


湖八音こやね先生、悪いんだけど今週はたぶん、勝負にならないんじゃないかと思う」


 赤い髪留めの湖八音こやね一葉かずは先生が俺に尋ねる。


「どういう意味ですか?」


「午前中の異能測定で、あっさり異能が出ちまった。

 ちょっとワクワクする程度で異能が発動したから、湖八音こやね先生たちでも変わらないと思う」


 湖八音こやね一葉かずは先生が俺に応える。


「では、その異能を発動させないことを目標にしてください。

 自在に制御できないのでは、あなたも困るでしょう」


「はぁ……」


 簡単に出来たら、苦労はしないんだけどな。


 格技場中央で構えた俺と湖八音こやね三姉妹が、隙をうかがいながら距離を測る――胸が躍り始めると、すぐに世界がスローモーションになっていた。


 俺はスローモーションの世界で一人、デカいため息をつく。


 そのまま囲まれた状態から抜け出て、世界が元に戻るまで待っていた。



 体感で五分くらい、退屈してきた頃に、ようやく世界が元に戻る。


 驚く湖八音こやね三姉妹に、俺は告げる。


「だから言ったろ。今週の治験薬は異能が発動しやすいみたいだ。

 異能発動を止めたくても、何をどうしていいかわかんねーよ」


「……もう一度です。一時間くらいは試してみましょう。

 何事も回数をこなせば、なにかはつかめるものです」


 そうかなぁ? そうは思えないけど。


 俺は大人しく、元の位置に戻って構え直した。





****


 何度同じことを繰り返したのかな。


 どうしても構えてるだけで異能が発動してしまっていた。


 時計を見ると、まだ十五分も経ってない。一時間なんて、気が遠くなる。


 世界が元に戻ってから、俺はまた格技場の中央に戻って構える。


「面白い! 君は実にスパイシーだね!」


 なんだ? スパイシーって。


 声に振り向くと、格技場の入り口に、髪をオレンジに染めた派手な青年が立っていた。


 年齢は多分、デュカリオンと同じで二十歳手前ぐらいかな。


 俺はそいつに声をかける。


「誰だ! あんた!」


 オレンジ髪の青年は、ゆっくりと俺たちに近づいて格技場中央まで来た。


「僕はプロメテウス。ガラティアとセレネの製造者、と言えばわかるかな?」


 こいつが?! ティアたちを作ったって言うのか?!


「あんた、そんな若いのにヴォーテクス・グループの会長なのかよ……」


 プロメテウスが腕を広げ、楽しそうに俺に応える。


「ああそうだ! 僕こそがヴォーテクス・グループの最高権力者だ!

 まぁ気楽に、プロメテウスと呼んで構わないさ」


 ……変な野郎だな。


「それで? その会長様がここになんの用だよ?」


「君を直接、この目で確認したくてね。

 実に興味深い。エクストラランクは伊達じゃないね。

 そしてその異能もスパイシーだ」


 だから、スパイシーってどういう意味だよ……。


 プロメテウスが俺に告げる。


「どうだろう、僕と手合わせしてくれないか。

 君の異能を直接味わってみたい。

 遠慮はいらないよ? さぁ、殴りかかってきたまえ」


 俺はプロメテウスの体つきを確認した。


 どう見ても、格闘技や武術の類をやってる身体じゃない。


 ここまで歩いてきた動きも、素人の歩き方だ。


「やめとくよ。会長様に大怪我させて、何を言われるかわかったもんじゃねーし」


「んー? 僕の腕前が信用できないっていうのかい?

 ――じゃあそこの三つ子、僕に全力で攻撃してきなよ。

 それで竜端たつはし悠人ゆうとがその気になる」


 困惑する湖八音こやね三姉妹に、プロメテウスが続ける。


「いいかい? 容赦なく、確実に仕留める攻撃を僕に加えるんだ。

 それでこそ、竜端たつはし悠人ゆうとをその気にさせられる。

 もちろん、罰則はないよ。怪我をしても、ガラティアが治癒できるしね」


 デュカリオンはこいつのこと、『嘘つき』って言ってたんだよな。


 どこまで話しを信じればいいんだか。


 湖八音こやね三姉妹が俺の周りから移動して、プロメテウスを取り囲んだ。


 湖八音こやね一葉かずは先生が告げる。


「会長命令ですから従いますが、本当に罰則はないのですね?」


「くどいよ? 僕はしつこい奴は嫌いなんだ。早くかかってきてくれ」


 湖八音こやね三姉妹の目付きが一斉に鋭くなり、一瞬で間合いが詰まる。


 三人の連携した崩し技からの急所攻撃が決まり、プロメテウスが――びくともしてない?! なんでだよ、足払いも、急所攻撃も、顔面肘打ちも効いてないのか?!


 頑丈になる異能でも持ってるのか? こいつ。


 プロメテウスが余裕の笑みを浮かべながら告げる。


「んー、君たちの攻撃は美味しくないね。

 美味しくなかったから、来月は減給だ。

 悔しかったら、もっとスパイシーな攻撃ができるようになっておいてくれ」


 罰則、あるんじゃねぇか。これで給料減らすとか、職権乱用じゃねーの?


 驚きと悔しさで顔を歪ませた湖八音こやね三姉妹が後ろに下がり、プロメテウスが俺に向き直った。


「さぁ、竜端たつはし悠人ゆうと。君はちゃんとスパイシーなものを見せてくれ。

 それが楽しみでここまで来たんだから」


 こいつ、満足させなかったら何を言い出すかわからねーな。


 だけど大怪我させても文句を言いそうだ。


「……あんた、大怪我しても俺たちに何もしないって約束できるか?」


「できるとも! むしろ、僕に傷一つでも付けられたらご褒美をあげよう!」


 そうか、そういうことなら遠慮なく攻撃をぶち込んでやる。


 俺はプロメテウスに構えを取り、得意の必殺連携を心の中で思い描く。


 一気に間合いを詰め、拳と肘、足払いを絡めた連携を叩きこみ――やっぱりびくともしねぇ?!


 プロメテウスが退屈そうにため息をついた。


「そうじゃない。君の異能を見せて欲しいんだけど」


 プロメテウスが俺の胸を指で小突いた――たったそれだけで、俺の身体は格技場の端まで吹き飛ばされていた。


 ――なんだよこいつ、俺と同じような異能でも持ってるのか?! なんで指で小突いて俺が吹き飛ぶんだよ?!


 プロメテウスが腕を横に広げながら笑顔で俺に告げる。


「さあ! 僕にスパイシーな一撃を見せてみろ! できなければ――そうだな、用なしになったガラティアでも処分しようか。もう必要ないだろう」


 こいつ今、ティアを物扱いしたな?


 頭に血が上った俺はあっさりとスローモーションの世界に入り込み、動きを止めているプロメテウスに駆け寄っていった。


 そのままその胸に全力の拳を突き入れる――やっぱりかてぇ?! なんでこんな頑丈なんだよ!


 ロボットでももっと柔らかかったぞ!


 意地になった俺は、そのままプロメテウスをめった打ちにしていく。


 全ての打撃に手応えがない。そんな時間を一分ほど続けていった。


 やがてスローモーションだった世界が元に戻っていき、俺の拳がプロメテウスの顔面で受け止められた。奴はびくともせず、俺の体重が乗った拳を受け止めていた。


「……てめぇ、なにもんだよ」


 プロメテウスはニコリと微笑んで告げる。


「プロメテウス、ヴォーテクス・グループの会長さ。

 君の攻撃は、まぁまぁスパイシーだったね。

 だからガラティアの処分はしないであげよう。

 次はもっとスパイシーなものを期待しているよ」


 プロメテウスはダメージを感じさせない足取りで、そのまま身を翻して格技場を去っていった。





****


 湖八音こやね一葉かずは先生が告げる。


「今日はこれまでにしましょう。明日も異能を抑える訓練をします」


 湖八音こやね三姉妹が格技場を去り、俺は女子たちの元へ戻っていく。


 俺はティアに尋ねる。


「なぁ、プロメテウスってのは、あんな異能を持ってるのか?」


「私は詳しいことを知らないんだよ。だから聞かれても困っちゃう」


 二十代手前なら、異能保持者でもおかしくない。


 だけどそんな若い奴が馬鹿でかい企業の最高権力者とか、どうなってんだよ……。



 その後の瑠那るなの防御練習も、異能が発動してしまって練習にならなかった。


「……すまん瑠那るな。今週は相手ができない」


「いいよ、治験薬のせいみたいだし。

 それより、まだ二時前だし、夕食の前に愛してもらってもいいかな?」


 驚いて瑠那るなの顔を見つめる。


 不安な気持ちは、まだ消えてないのか。


 それと同時に、顔が少し赤い。なんでだ?


「どうした? 顔が赤いけど、熱でもあるのか?」


 瑠那るなが恥ずかしそうに俯いた。


「……今日の悠人ゆうと、先週よりかっこよく見えるのよ」


「おいおい、今日は良いところなしだっただろうが」


 ティアが無邪気に告げる。


「だからー! 悠人ゆうとの存在感が物凄くかっこよくなってるんだって!」


 またそれか。なんなんだよ、『存在感がかっこいい』って。


 女子たちを見回して告げる。


「今からだと四人が限界だ。希望者は他に誰が居るんだ?」


 優衣ゆい美雪みゆき由香里ゆかりの、先週と同じメンバーがおずおずと手を挙げた。


 俺は小さく息をついて告げる。


「じゃあその四人で、曜日当番順に部屋を回る――戻ろうぜ」



 俺たちは全員で格技場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ