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幸福な蟻地獄  作者: みつまめ つぼみ
第3章:幸福の象徴

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56.不安

 土曜日の早朝、目が覚めると携帯端末デバイスにメッセージが届いていた――瑠那(るな)から?



『部屋に来てくれるかな』



 いつものトレーニングルームのロードワークじゃなく、部屋に?


 俺は『わかった』と返信をしてから、瑠那るなの部屋に向かった。





****


 部屋のドアをノックすると、いつもと違う様子の瑠那るなが顔を出した。


 不安に押し潰されてしまいそうな、そんな気弱な顔だ。


 瑠那るなは俺を見ると、抱き着いてきて胸に顔を埋めてきた。


「……朝からで悪いけど、愛してもらえないかな」


「どうした? いつものお前らしくないぞ?」


「お願い。今は、全てを忘れたいの」


 今週、日を追うごとに不安な表情が増していったからな。


 依存していく自分を自覚して、それが怖くて怯えてるのか。


 こいつらが俺に笑顔を見せてくれるのは、愛を受け取っている間だけだった。


 俺の愛だけが、こいつらの心を癒せる――


「わかった、今日は何度でも愛してやる。午前も午後も夜もな」


 頷いた瑠那るなの肩を抱いて、俺は部屋の中に入っていった。





****


 瑠那るなの居ない朝食の席で、俺は女子たちに告げる。


「今日と明日、この二日間は、お前たちを愛するために使おうと思う。

 午前で一回、午後で一回、夜で一回。

 一日三回は愛してやれると思う。

 希望者は手を挙げてくれ」


 優衣ゆい美雪みゆき由香里ゆかりが不安そうな顔で手を挙げた。


 俺は平然と食事を続けているセレネとティアに告げる。


「セレネ、お前は必要ないのか?」


「私はいつも通り、夜の一回だけで充分です」

 

「ティア、お前は?」


「そういうことなら、私は夜もなくて大丈夫だよ。

 全員を相手にしてたら、時間と体力が足りなくなっちゃうでしょ」


 ありがてぇ、確かにその通りだ。


 これで午前と午後に四人、夜に五人の相手をすればよくなる。


 今週はいつもの薬を投与してないけど、今の治験薬にも同じ効果があるのか、俺の中の『男』は変わらず食欲旺盛だった。


 このくらいなら、体力は持つはずだ。


 俺は朝飯をしっかり食っておいてから、最初の由香里ゆかりと一緒に部屋に戻っていった。





****


 夜、最後のセレネが満足して眠りに落ちてから、俺はシャワーを浴びて部屋を出た。


 ……やっぱりセレネとそれ以外で、愛の受け取り方に顕著な違いがある。


 セレネは味わうように愛を受け取るのに、他の四人は不安を忘れるために愛を貪ってくる。


 廊下を歩いていて、少しふらつく自分に気が付く。


 旺盛な高校生でも、やっぱこのスケジュールは厳しい物があるみたいだ。


 毎週これは、無理があるな。


 だけど、不安がってるあいつらを癒してやるには、これぐらいしか俺には思いつけない。


 他の方法では笑顔を見せてくれないあいつらに、これ以上何ができるだろう。


 治験中は外に遊び行く事もできない。


 内庭をぶらつくのが限界だ。


 それでも俺は必死に何かないかと考えながら、自分の部屋へ戻っていった。





****


 月曜日になり、レクリレーションルームに集まった俺たちに、白衣のデュカリオンが告げる。


「今週は男女とも、先週とは違う薬を使うよ」


 おや? なんだか話が違うな。


 俺は手を挙げて質問する。


「濃度を上げるんじゃないのか?」


「少し予定変更の必要があってね。

 新しい薬を作りたいんだけど、データが足りないからそれを集めたいんだ。

 試作した賦活剤(アクティベーター)で、君たちの反応を確認していきたい。

 たぶん、今回の治験中は調整を繰り返しながら、データを取っていくことになると思う。

 秋ごろに、それを反映した新薬の治験をしてもらいたいんだ。構わないかな?」


 新しい薬か。またデュカリオンのモルモットが続くのか。


 女子を見ると、瑠那るなたち四人は迷ってるみたいだった。


 俺はデュカリオンに振り返って告げる。


「ここで断ったらどうなるんだ?」


 デュカリオンが困ったように微笑んだ。


「そうなったら君たちは夏休みが終わるまで、ここで好きに過ごしてもらうことになる。

 まだ新しい寮の手配が済んでないから、すぐに帰るってことはできないと思って欲しい」


 女子たちがざわつき、優衣ゆいが手を挙げて告げる。


「新しい寮って、どういうこと?」


「ああ、君たち女子は知らなかったね。

 海燕うみつばめの女子寮から、君たちの行動で苦情が届いてるんだ。

 もうこのまま、君たち女子を寮に戻すことはできないと思ってくれ。

 生活を改めてくれと言っても、それは無理な話だろう?

 セレネのこともあるし、僕の方で君たち七人が住む新しい寮を手配中だ。

 治験が終わったら、そちらに入居してもらうことになるよ」


 由香里ゆかりがおずおずと手を挙げて告げる。


「それじゃあ、今の寮の荷物はどうなるんですか?」


「ヴォーテクスの引っ越し部門に依頼して、きっちり運び込ませる。

 君たちが新居に行った時には、全部運び込まれているはずだ」


 この会社、引っ越し業までやってんのか。手広いんだな。


 女子たちが判断に困ったのか、俺を見つめてきた。


 俺はデュカリオンを見て告げる。


「その新薬、なんのための薬だ?」


「君たちの体質を整えるための薬、と説明するしかないかな。

 ここに来るまで使っていた治験薬の改良もしたいし。

 君たちの生活品質が少しでも上がるよう、僕も努力したいんだよ」


「その言葉に嘘はないな?」


 デュカリオンが肩をすくめた。


「僕は言葉を濁したり、仮説を口にする事はあっても、君たちに嘘をついた覚えはないんだけど。

 プロメテウスじゃないんだし、嘘つき呼ばわりされるのは心外だなぁ」


 ……嘘をついている感じは受けない。


 優衣ゆいも指摘しないし、嘘じゃないんだろう。


 俺たちの生活品質を上げるためっていうなら、俺たちが治験を受けるのが一番だ。


 その中できっちり目的通りの薬に仕上げてもらった方が良いと思う。


「わかった、俺たちは治験を受ける――みんな、それでいいか?」


 女子全員が頷いた。


 デュカリオンが安心したようにため息をついた。


「はぁ~。良かったよ、受けてくれて。

 これで断られてたら、これからどうしようかと思っていたんだ。

 ――ああそうそう、たぶん近いうちに、プロメテウスが悠人ゆうとに会いに来るよ。

 彼は嘘つきだから、彼の言葉を信用しちゃダメだ。話半分で聞いておくといい」


 俺は眉をひそめて応える。


「そんな野郎に会いたくなんてないんだけど」


「諦めてくれ、向こうが会いたがってる。

 彼を止められる人間は、この会社に居ないからね」


 なんて厄介な人間だ。


 確か、陰からヴォーテクスを操る会長、とかデイビッドが言ってたっけ。


 どんなおっさんなんだろう。



 俺は今日も職員に連れられて、治験薬の投与と異能測定をするために別室に向かった。





****


 悠人ゆうとが別室に消えてから、デュカリオンが女子たちに告げる。


「では君たちにも、モニタリングではない新薬を投与させてもらうよ。

 毎日採血するから、きちんと食べて、水分を補給して欲しい。

 貧血になったら素直に申し出てくれ」


 瑠那るなが手を挙げて告げる。


「今度はどういう薬になるの?

 今効いてる避妊薬はどうなるの?」


「新しい避妊薬(サプレッサー)を作るための、調査用の薬だよ。

 それに対する君たちの変化を見て、仮説を立証していく。

 巧く行けば、媚薬効果のない避妊薬(サプレッサー)を作れるかもしれない。

 従来の避妊薬(サプレッサー)への影響は、理論上はないはずだ」


 優衣ゆいが手を挙げて告げる。


「媚薬効果がなくなったら、私たちが悠人ゆうとさんの愛に満足できなくなると言ったのはあなたよ?」


「だからといって、媚薬効果のついた避妊薬(サプレッサー)なんて不健全なもの、放置しておくわけにもいかないからね。

 せっかく作ったんだし、きちんと世に出せる形に仕上げておきたいと思う。

 もし君たちがそれで愛に満足できなくなったら、従来の避妊薬(サプレッサー)に戻すだけでいい。

 競合しない薬に仕上げる予定だから、効能期間が重なっても問題はないよ」


 美雪みゆきが手を挙げて告げる。


「その従来の避妊薬って、避妊率のデータは出たの?」


 デュカリオンが苦笑を浮かべた。


「自分たちが愛を交わした回数も覚えてないのかい?

 まだ充分なサンプルが取れている訳でもないけど、今のところは百パーセントと言える。

 ――だけど君たちの検査をしていて、やっぱりホルモンの数値にばらつきがあるね。

 理論上、百パーセントとは言えないと思う。

 いつかは『その日』が来るかもしれない。それだけは覚悟しておいて欲しい」


 覚悟をしろと言われても、実感なんて湧く訳もない。


 理論上百パーセントに近いと言うだけなら、他の避妊方法と変わらない。


 これができる最善なら、それに頼るしかない。


 女子たちは不安を胸に抱えながら、新しいアンプルを投与されて行った。


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