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幸福な蟻地獄  作者: みつまめ つぼみ
第3章:幸福の象徴

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52.真相解明

 治験二日目、悠人ゆうとが姿を消したレクリェーションルームで、デュカリオンが微笑みながら告げる。


「これから少しプライバシーに踏み込んだ質問をするけど、副作用解明のために必要だから正直に答えて欲しい。

 昨晩、何か変わった感じを受けたと思った子はいるかな?

 つまり、悠人ゆうとの愛に変化があったと思ったかい?」


 女子全員が首を横に振った。


 彼女たちはいつもと変わらぬ愛を受け、一時間で満足した――セレネを除いて。


 セレネは明け方まで愛を求め、ようやく満足していた。これは初日と変わらない。


 デュカリオンが笑顔で頷いた。


「なるほどね。

 つまり悠人ゆうとに投与していた薬が、直接君たちに媚薬効果をもたらしたわけじゃないのがはっきりした」


 瑠那るなが小首を傾げながら手を挙げた。


「どういう意味なの? 悠人ゆうとは毎日、あの薬を投与されてるんでしょ?」


「いいや? 今の悠人ゆうとはあの薬を止めているよ。

 夜までには完全に効果がなくなっていたはずだ。

 今、悠人ゆうとに投与している薬にも星因子(ステラシード)は入っていない。偽薬プラセボだ。

 つまり今、悠人ゆうとは外部から一切の星因子(ステラシード)を体内に入れていない状態なんだ」


 優衣ゆいが眉をひそめて告げる。


「どういうことなの? 結局、副作用は何が原因なの?」


「それは明日、また同じ質問をするから応えて欲しい。

 今日これからセレネに避妊薬(サプレッサー)を投与する。

 それでセレネに変化があれば、答えに辿り着くと思う」



 その後、セレネに避妊薬が投与された後、女子たちは異能測定に向かった。



 午前の勉強時間が過ぎ、昼を挟んで再び格技場で悠人ゆうとの試合が始まった。


 五十分が過ぎる頃、やはり三人連携の崩し技が悠人ゆうとに決まり、悠人ゆうとの異能が発動していた。


 その後はまた悠人ゆうと瑠那るなの組手が行われ、夕食の後、再び夜が過ぎていった。





****


 治験三日目、悠人ゆうとが姿を消したレクリェーションルームで、デュカリオンが微笑みながら告げる。


「ではセレネ、君は昨晩、変化があったか教えてくれないか」


 セレネは顔を真っ赤にしてうつむきながら、ぼそぼそと応える。


「昨日までと別次元の愛でした。

 あまりに刺激が強すぎて、いつの間にか気を失っていて、気が付いたら朝で、悠人ゆうとさんがいませんでした」


 優衣ゆいが目を細めてセレネに告げる。


「それは今、私たちが受けてる『本当の愛』と同じものね。

 つまり、避妊薬が媚薬効果を増強してると言いたいのね?」


 デュカリオンが笑顔で頷いた。


「そう考えるのが自然だね。

 悠人ゆうとに投与してたモニタリング用の治験薬が、彼の体質を恒久的な媚薬体質に変化させた。

 そして避妊薬がその効果を増強することで、君たちは依存症を急速に悪化させた。

 これが真相だろう」


 由香里ゆかりが戸惑いながら告げる。


「それじゃあ、副作用はどうしようもないってことじゃないですか!」


 避妊薬なしで関係を続けるリスクなど犯せない。


 かといって悠人の愛を我慢する事など、一週間すら耐えられなかった。


 他の避妊手段は現実的ではない。


 唯一残った避妊手段は、媚薬効果を増強する。


 もっとも、避妊薬の投与を中止しても悠人ゆうとの体質が恒久的な媚薬体質に変化している。


 速度はゆるやかになるだろうが、依存症の悪化はふせげないだろう。


 瑠那るなが自嘲気味に告げる。


「あとは、私たちの正気がいつまで保てるかってところね。

 毎回刺激が強くなっている実感があるもの。

 これ以上がないと思っていたのに、次にはさらに上の刺激が襲ってくる。

 今ですら、よく朝起きて正気でいられるなって、驚いてるくらいよ」


 デュカリオンが真剣な顔で顎に指を当てて考え始めた。


「君たちが愛を交わした回数、そして刺激が増強していく速度、両者を考えれば、普通の薬物で言えばとっくに廃人になってる状態だ。

 つまりこれは、通常の媚薬効果とは種類が違うのかもしれない。

 仮説だけど、悠人ゆうとの愛は、君たちから正気を奪わないんじゃないかな。

 愛を交わしている間は、欲望が理性を上回る。だけどそれが終われば、君たちは理性を取り戻している。

 つまり彼の身体は、君たちを傷つけることをしないんだ」


 優衣ゆいが真剣な表情でデュカリオンを見つめた。


「その仮説、どれだけ信じることが出来るの?」


「んー、その立証方法はこれから考えてみるけど、確度は高いと思うよ。

 一つのサンプルとして、ガラティアもまったく正気を失う気配がないし、依存する気配もない。

 ただ気持ちが良くて楽しいだけ――そうだろ?」


 ガラティアは無邪気に頷いた。


「そうだね! 毎回違う刺激で楽しいよ!」


 デュカリオンが微笑んで頷いた。


「つまり彼は、ガラティア以外の女子を自分に夢中にさせ、依存させる体質なんだよ。

 彼自身がそう望んだわけじゃないけど、彼が愛すれば愛するほど、彼は女性を自分なしでは生きられない身体にしてしまう。

 ――まるでブラックホールだね。

 大質量が周囲の物質を取り込んでさらに質量を増す。

 ただそこに居るだけで、シュワルツシルト半径に踏み込んだ物質を脱出不能にしてしまう。

 そして彼自身は、その存在を大きくしてしまうんだ。

 この仮説が正しければ、彼に依存してしまった君たち女子は、もうすでに彼の一部だとも言える。

 魂が彼に取り込まれているんだよ」


 美雪みゆきが困惑しながら告げる。


「さっぱり意味が分からないんだけど、私たちが悠人ゆうとさんの一部って、どういうこと?」


 デュカリオンが笑顔で指を立てて告げる。


「君たちは『従属神』という概念を知ってるかな?

 強大な神に従う神のことだ。

 現代には色んな考え方があるけど、魔導学において『従属神』は『強大な神』の一部とされている。

 逆らうことが出来ず、従うことで自分を成立させる存在さ。

 君たちの在り方は、まさにそういったものだろう」


 優衣ゆいが眉をひそめて告げる。


「つまり、どういうことになるの?」


 デュカリオンが微笑んで応える。


「君たちの存在が彼の力となり、彼の存在が君たちを成立させる。

 そういった存在に君たちは変わりつつあるんだ。

 これは僕らが目指す『オーバーランク』に悠人ゆうとが近づきつつある可能性を示している。

 星因子(ステラシード)悠人ゆうとを神に引き上げつつあるんだよ。

 そして悠人ゆうとの一部となった君たちも、従属神として神に引き上げられていく。

 いつか君たち七人は全員が『オーバーランク』に至るだろう。

 だから不安になる必要はないよ。副作用も、気にしなくて大丈夫だ」


 瑠那るなが混乱しながら告げる。


「でも、ティアは依存してないわよ?! 依存してないなら、従属神とやらにはならないんじゃないの?!」


「ガラティアは生まれながらのイデアだ。

 元から『オーバーランク』に至る個体を目指して製造されているからね。

 従属する必要がないんだよ。

 悠人ゆうとに影響されて『オーバーランク』には至るだろうけど、対等な関係が続いて行くんだ」


 由香里ゆかりが不安気な顔で告げる。


「じゃあ私たち、このまま放置されるんですか?!」


「んー、君たちが望むなら、媚薬効果に抵抗する星因子(ステラシード)を試作してみてもいいよ?

 でも今の愛を知ってしまった君らが、以前の愛で満足できないだろうというのは、前にも指摘したよね。

 それにたぶん、その薬は大して効果をさないんじゃないかな。

 悠人ゆうとが成長する速度が早くて、薬が負けると思うよ」


 花鳥風月の四人は、絶望していいのか、希望を持っていいのかわからず、ただ困惑して立ち尽くしていた。


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