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幸福な蟻地獄  作者: みつまめ つぼみ
第2章:幸福な蟻地獄

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37.浜辺の保養所(5)

 ホテルの外に停車している大型の検査車両に、女子たちを率いてデュカリオンが乗りこんだ。


 女子たちを席に座らせ、デュカリオンが笑顔で告げる。


「まずは落ち着いて話をしようか。

 君たちのプライバシーは尊重すると僕は約束するし、保護者や学校にばれないよう対処する事もできる。

 だから怖がらず、僕の質問に答えて欲しい。

 ――この中で、月経が予定通り来ていない子は誰だい?」


 おずおずと手を挙げたのは美雪みゆき――そして由香里ゆかりだった。


 優衣ゆいが驚いて由香里ゆかりを見ていた。


「あなた、来てなかったの?!」


 由香里ゆかりは落ち着いた表情で応える。


「ええ、先週のはずですが、まだ来ていません。

 せっかくなので、私も検査してもらおうかと思います」


 瑠那るなが目を見開いて驚きつつ、由香里ゆかりに告げる。


「なんであなた、落ち着いてられるのよ」


 由香里ゆかり瑠那るなに振り向いて告げる。


「やることをやっていれば、子供ができるのは当然です。

 でも悠人ゆうとさんの子供を身ごもるなら、それは歓迎すべきことではないですか?」


「あなた、まだ中一なのよ?! まともに出産できると思ってるの?!

 学校にもばれるし、海燕うみつばめでそんな問題起こしたら退学よ?!」


 デュカリオンが穏やかな声で告げる。


「まぁまぁ、ヒートアップしないで。落ち着いて欲しい。

 まだ確定したわけじゃないんだから、結論を焦らないで。

 新薬の副作用で周期がずれている可能性も充分にあるんだ」


 検査車両の奥から、女性職員たちが姿を見せた。


 デュカリオンが穏やかな表情で告げる。


「血液検査をするから、職員の指示に従って欲しい。

 奥で採血をして、またここに戻っておいで。

 結果はすぐに知らせるから、それまで椅子に座って待っていて」


 女子たちは頷き、検査車両奥のスペースに職員に案内されて消えて行った。





****


 採血から戻ってきた女子たちは、うつむいて不安と戦っていた。


 自分たちがしていることの意味など、当然知っている。


 だが担当曜日になると妊娠の恐怖よりも、悠人ゆうとの愛を求める衝動が勝ってしまい、欲望のままに行動してしまうのだ。


 密かに不安におびえ、誰も口にすらしなかった恐怖が眼前に迫り、口数が減ってしまっていた。


 そんな中、無邪気なガラティアと並んで平然としていた由香里ゆかりが告げる。


「何をそんなに怖がってるんですか。

 まだ決まったわけではないと言われてるじゃないですか。

 それに妊娠してたって、それは悠人ゆうとさんの子供なんですよ?

 怖がる必要なんて、ないじゃないですか」


 美雪みゆきは青い顔で応える。


「それとこれとは話が別だよ。

 さすがに中学生で出産なんて、できないもん。

 悠人ゆうとさんだって高校生で、私や子供を養える訳じゃないし。

 それに子供が出来たら、悠人ゆうとさんが離れていっちゃうかもしれない」


 優衣ゆいが静かな表情で告げる。


悠人ゆうとさんはその程度で逃げ出すような人じゃないわ。

 不安になるのはわかるけど、あの人を勝手におとしめないで。

 でもあの人の負担になってしまうのは事実よ。

 妊娠していたら、きちんと処置してもらうわ」


 デュカリオンは女子たちの様子を見ながら、穏やかに告げる。


「そこまで怖いなら、なぜ避妊をしなかったんだい?

 自分たちで買えないなら悠人ゆうとに買わせるぐらいできただろう?」


 女子たちは黙り込んで応えなかった。


 毎日のように関係を求める自分たちの避妊具など、いったいどれほどの負担になると言うのか。

 そんな大量の避妊具を買わせれば、間違いなく悠人ゆうとに噂が立つ。


 彼に近づく自分たちも、噂の的にされるだろう。

 そうなれば近づくことも、女子寮に入れる事もできなくなってしまう。


 そんな事態を彼女たちは恐れていた。


 デュカリオンは女子たちの顔を見て頷くと、優しい声で告げる。


「お灸はこのぐらいでいいかな。

 君たちは充分に自分たちのリスクを理解できたと思う。

 衝動的に行動してしまうのを止められなくても、リスクがあることには変わらないんだ。

 それを理解できたかい?」


 瑠那るながきょとんとした顔でデュカリオンに尋ねる。


「お灸って、どういう意味ですか」


 デュカリオンが笑顔で告げる。


「君たち、先週研究所で採血したのを覚えてないのかい?

 あれでとったデータでは、妊娠の兆候は見られなかった。

 でも妊娠を検査するものではなかったから、今こうしてきちんと再検査をしている。

 でもおそらく、結果は同じだと思う」


 その言葉で、ガラティア以外の女子一同が胸をなでおろしていた。


 瑠那るなが、安心した様子の由香里ゆかりに告げる。


「怖くないんじゃなかったの?」


「していないに越したことはありませんから」


 美雪みゆきは涙をハンカチで拭きながら告げる。


「なんでこんな不安にさせたんですか!

 わかっていたなら、メッセージで教えてくれればよかったじゃないですか!」


 デュカリオンは微笑んで応える。


「だから、あれは妊娠の検査ではないと言っただろう?

 漏れがあると困るから、こうして再検査に来ただけだよ。

 ついでに今の君たちの血液サンプルを取らせてもらった。

 僕も忙しいからね。ついでにデータがもらえるなら、その方が都合がいい」


 優衣ゆいが冷たい眼差しでデュカリオンを見て告げる。


「私たちはこれから、何かできる事があると思いますか」


「んー、手遅れの君たちは、もう自分で自分をコントロールできてないだろう?

 だから一般的な避妊をしろってのは難しい気がする。

 代替案として、君らに新薬の治験をしてもらうってのはどうかな?」


 優衣ゆいが眉をひそめて尋ねる。


「新薬ですか? この状況で?」


「そう、新薬だ。

 君たちの状態から見て、おそらく今の君たちは排卵が停止している状態だと思う。

 これは賦活剤(アクティベーター)悠人ゆうと経由で摂取した影響だろう。

 思わぬ副作用だけど、異能者専用の避妊薬になっているんじゃないかな。

 一週間ほどあれば、今に近い状態を維持する賦活剤(アクティベーター)を作ることが出来ると思う。

 だけど賦活剤(アクティベーター)は本来、異能を強化する薬だ。

 それを定期的に摂取することになるけど、妊娠のリスクは抑えられる。

 異能が強化され続けた時に何が起こるか、それはデータを取らないとわからない。

 ――ここまで聞いて、新薬の治験を受ける気になった子は居るかい?」


 ガラティア以外の女子が、恐る恐る手を挙げた。


 異能が強化されるリスクより、妊娠への恐怖が勝ったのだ。


 デュカリオンが笑顔で頷いた。


「わかった。では薬を人数分用意しよう。

 ガラティア、君も摂取しておきなさい。

 君が妊娠するデータも魅力的だけど、友達と同じ薬を投与されていた方がいいだろう。

 それはそれで、データが増えるからね。

 ――ここまでで、何か質問はあるかな?」


 女子たちは黙って首を横に振った。


 奥から女性職員の一人がやってきて、デュカリオンに頷いた。


 それを見たデュカリオンが両手を打ち鳴らす。


「――よし、全員クリアだ。

 来週、ここを去る時までに薬を届けにこよう。

 その時、改めて薬の説明をするから集まって欲しい。

 今夜はもう、部屋へ戻って構わないよ」


 女子たちは頷いて立ち上がり、検査車両を降りて行った。


 デュカリオンを乗せた検査車両は、女子たちの前で保養所から去っていった。



 それを見送った瑠那るなが告げる。


「今夜はどうする? 映画を見るって気分でもないし」


 優衣ゆいが告げる。


「そうね、ちょっと部屋で静かに考えたいわ」


 美雪みゆきはようやく泣き止み、応える。


「私はもう、シャワーを浴びて寝るよ。疲れちゃった」


 由香里ゆかりがガラティアに告げる。


「ティアはどうするんですか」


「私? みんなが集まらないなら、悠人ゆうとに愛されてくるよ!」


 女子たちが唖然とする中、ガラティアは足取り軽くホテルに戻っていった。


 瑠那るながガラティアの背中を見ながら告げる。


「あの子、どんだけタフなの……あの話の直後に愛されてくるとか」


 由香里ゆかりが静かな表情で告げる。


「何も考えてないだけじゃないですか?

 ティアはいつも、細かいことを考えてませんし」



 女子たちはその後、黙り込んでホテルに戻り、各自の部屋に散っていった。


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