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幸福な蟻地獄  作者: みつまめ つぼみ
第2章:幸福な蟻地獄

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31.幸福への疑念

 血を抜かれた後、俺はレクリレーションルームで女子たちと映画を見ていた。


 広い部屋で、六人が固まって映画を見る。なんだか不思議な光景だ。


 俺はさっきデュカリオンから言われた言葉が頭にこびりついていた。


 『錯覚の幸福』……この幸福は、錯覚なんだろか。


 俺の心はそれを否定する。


 だけど、彼女たちがもう俺無しでは生きていけないと言われてしまうと、それは正しい在り方なのかと問いかけてくる俺も居た。


 俺は画面を見ているティアに尋ねてみる。


「なぁティア、お前は俺無しじゃ生きていけないとか、思ったりするのか」


 ティアは無邪気な笑顔で俺に振り返り、応える。


「え? 悠人ゆうとが私のそばに居るのは、当たり前のことだよ!」


 なんかずれてるな……さっきまで愛を交わし合ってたからか、あんまり深刻な感じもしない。


 俺は由香里ゆかりにも尋ねてみる。


「お前はどうだ、由香里ゆかり。俺無しじゃ生きていけないって、そう思うか?」


 由香里ゆかりは俺の目を真剣に見つめて頷いた。


「私にとって、悠人ゆうとさんが全てですから。

 もしあなたが居なくなってしまうなら、それは私の人生が終わる時です」


 こっちは重たすぎるな……。


 同い年でも温度差が激しい。


 優衣ゆいがクスクスと笑いながら俺に告げる。


「どうしたんですか悠人ゆうとさん。急にそんな話をするなんて」


「いや……さっき、デュカリオンに言われたんだよ。

 もうお前たちは俺無しじゃ生きていけないだろうって。

 俺が居なくなれば、命を絶ってしまいかねないってな。

 俺たちの幸福を『錯覚だ』とまで言いやがった」


 美雪みゆきが明るい笑顔で告げる。


「そんな人のいうこと、真面目に聞いちゃだめだよ。

 私たちが幸福なのは間違いのない真実。

 それは悠人ゆうとさんが一番わかってると思ったけど?」


「そう、だよな。みんな俺の前でいつも幸福な笑顔を見せてくれる。

 俺はその笑顔で心が満たされてるんだ。

 それが錯覚な訳、ないよな」


 ふと瑠那るなを見ると、なんだか考え込んでるみたいだった。


「どうした瑠那るな、考えこんじゃって」


「――ううん、なんでもない!」


 変な奴だな。言いたくないのか。


 優衣ゆいがニコリと微笑んで瑠那るなに告げる。


「ねぇ瑠那るな、嘘はよくないと思うの。

 思ってることがあるなら、言ってしまってもいいんじゃない?」


 瑠那るなは頭を抱えてため息をついた。


優衣ゆい、こんな時ぐらい嘘を見逃しなさいよ……」


「それができれば、私はもっとたくさんの友人を作ってるわよ」


 瑠那るなが再びため息をついた。


「……今の関係が不健全なことぐらい、みんなわかってるのよ。

 それでも私たちは、もう悠人ゆうとから離れることができない。

 この幸福が『錯覚』っていうのは、たぶんそういう意味よ。

 悠人ゆうとが居なくなっただけで、私たちは全てを失うの。

 自分で命を絶つか、生きる屍になるか、それはわからないけどね」


 俺は瑠那るなを見つめて告げる。


「デュカリオンはこうも言っていた。

 『錯覚の幸福でも、死ぬまで続けば真実の幸福と同じだ』ってな。

 俺たちは死ぬまで、こうやって共に生きればいい。

 元々、そう誓いあって始めた集まりだろ?

 それなら、この幸福は本物なんだ。少なくとも、俺たちにとっては」


 瑠那るなは俺の目を見つめ、眉をひそめて頷いた。


「そう、だね。それはなんだか、信じられる気がする。

 悠人ゆうとなら、私たちを幸せにし続けてくれるって、確信できるから。

 だから不健全だって言われても、私たちはこの関係を続けるしかないんだね」


 由香里ゆかりが大人びた微笑みで告げる。


「何を不安になってるんですか、瑠那るなさん。

 不健全とか、社会的規範とか、他人の価値観なんてどうでもいいじゃないですか。

 私たちは私たちの幸福を追求する――そういう集まりだったでしょう?」


 瑠那るなは黙って頷いた。



 俺たちはそのまま、静かに映画が終わるまで、身を寄せ合っていた。





****


 みんなで晩飯を食べたあと、俺は瑠那るなを夜のロードワークに誘った――もちろん、ランニングマシーンだけど。


 ティアは部屋に戻り、他の女子たちは一緒になって参加してきた。


 五人でランニングマシーンの上を走りながら、俺はみんなに告げる。


「やっぱり機械は良いな。みんなで走れるなんて、思ってなかったよ」


 由香里ゆかりは俺の隣でのんびりとしたペースで走っていた。


「まともに走っていたら、あっという間に置いて行かれますからね」


 優衣ゆいものんびりと走っている。


「ふふ、毎週『運動』してるから、こんなことしなくても体は絞られてるのだけどね」


 美雪みゆきは――歩いていた。


「みんな、よく走る気になるよねー。疲れないの?」


 俺はあきれながら告げる。


美雪みゆき、お前この中で一番タフなのに、走れないのか」


「楽しくないことに頑張る気がしないだけだよ。

 別に体力がある方じゃないし」


 嘘だろ……それでなんであんな長時間頑張れるんだよ。


 由香里ゆかりが息を切らしながら告げる。


「でも私たち、きちんと『運動』してるから、くびれとかちゃんとありますしね。

 同年代の子たちより、筋肉はついてる方だと思いますよ」


 そうだろうなぁ……あんだけハードに動いてれば、カロリー消費も激しいだろうし。


 優衣ゆいがクスリと笑った。


「そんな私たち五人を相手にできるなんて、悠人ゆうとさんは体力モンスターなんですね」


「いや、決して楽じゃないからな? これでもいっぱいいっぱいだよ」


 瑠那るなは俺をジト目で見つめていた。


「そう言いながら、毎朝のロードワークはほとんど休まないじゃない。

 まだまだ余裕があるってことよ、それ」


「それを言われると、そうかもしれないけどなぁ。

 それでも今週はきつかった。ラストのティアが一番難敵だったしな」


 結局、昼近くまであいつは俺に絡んできたからなぁ。


 あの小さい身体の、どこにそんな体力があったんだか。


 美雪みゆきが楽しそうに笑って告げる。


「それで、ティアの様子はどうだったの?

 あの子が『本当の愛』を刻み込まれてるところなんて、想像がつかないけど」


「んー、楽しそうって印象が一番強いな。

 最初から最後まで、ずっと楽しそうだったよ。

 そこはお前たちと違う所だった」


 この場に居る女子たちは、もっと色っぽい表情を見せたりもした。


 だけどティアは無邪気な笑顔で、ずっと楽しんでるみたいだった。


 優衣ゆいが興味深そうに目を細めていた。


「それじゃあ明日、聞いてみようかしら。

 あの子の中に何が起こったのか、ちょっと興味あるわね」


 俺はきょとんと優衣ゆいを見た。


「あいつの中で何かが起こったのか?

 お前たちの中でも、何かが起こったのか?」


「私たちは、悠人ゆうとさんの『本当の愛』で自分を見つけることが出来た。

 あなたの愛で、私たちは完成したの。

 あなたが私たちの欠けているところを全て埋めてくれた。

 空っぽの器に、『本当の愛』という価値をあふれるほど注ぎ込んでくれたのよ。

 ――でも、もしかしたらティアは違うのかもしれない」


「違うって……なんでだ?」


「あの子は『作られた命』だって話じゃない?

 それが本当なら、私たちとは得られたものが違うのかも」


 ああ、デイビッドたちが言っていた事か。


 そのことは、一度デュカリオンを問い詰めてみよう。



 俺たちは一時間走った後、そろってトレーニングルームを後にした。





****


 日曜日になり、俺はデュカリオンを探してみた。


 だけどどうも研究区画に引きこもってるらしく、姿を見つけることはできなかった。


 仕方なく俺は、女子たちと卓球をしたり、バスケをしたり、身体を動かしていた。


 午後はボードゲームや、いつもの映画鑑賞でのんびりと過ごしていた。


 早めの夕食を終えると、俺はみんなに告げる。


「悪いけど、今日は早めに眠らせてくれ。

 来週の事を考えると、今のうちに眠っておきたい」


 女子たちに見送られながら、俺は部屋へと戻っていった。


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