26.白髪の青年
俺たちは近くのファミレスに行き、ティア以外が同じステーキセットを頼んで食べていた。
由香里は新しいミステリー小説の話題を俺に教えてくれる。
美雪は俺の好きなアクション映画系の新作の話題を教えてくれた。
優衣は黙って俺の顔を見つめ、幸せそうに微笑んでいる。
瑠那とは今度、一緒に空手の試合を見に行きたいという話をしていた。
みんなが俺に話題を振ってくるので、俺は彼女たちの言葉に微笑んで応えて行った。
由香里や美雪は、この一か月ですっかり趣味が変わった気がする。
俺が好きそうな作品を探して来ては、一緒に楽しもうと誘って来てくれるようになっていた。
優衣は俺と一緒に居るのがただうれしいらしい。
瑠那が格闘技好きなのは変わらないけど、こいつは元々俺と趣味が被るしな。
ティアはそんなみんなの会話を、楽しそうに聞いていた。
いつもの週末、いつもの夕食の光景だ。
「坊主、モテモテだな」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこに居たのは見覚えのある外国人風の風貌――デイビッドとパラスだ。
デイビッドは俺に手を挙げて口を開く。
「隣、構わないか?」
「ああ、別にいいけど……どうしたんだ? 久しぶりだな」
「わかったことがあるんで、報告がてら確認をしたくてな」
デイビッドたちが隣に座り、コーヒーを注文していた。
店員がコーヒーを運んでくると、ようやくデイビッドが話を切り出してくる。
「この間、ガラティアの髪の毛をもらっただろう?
あれの調査結果が出た。まずはその報告をしておこう」
俺は眉をひそめて告げる。
「もったいぶるなよ、何がわかったんだ?」
デイビッドはティアを見つめながら告げる。
「まず、嬢ちゃんの遺伝子検査結果だが、『ルーツがどこにも見つからない』という結果が出た」
意味が分からない。何を言ってるんだ、こいつは。
「もっとわかるように言ってくれないか」
「ははは! まぁそうだろうな。
要するにガラティアは『地球上に祖先が存在しない人類』ってことだ。
厳密にいえば『人間そっくりだが、人間じゃない』という調査結果が出た」
……なおさら意味が分からない。
俺が困惑していると、デイビッドが言葉を続ける。
「俺たちの推測では、ガラティアは『人工的に製造された人間そっくりの有機生命体』だ。
元々、『ガラティア』というのは、ギリシャ神話において『彫像が神の力で人間に変化した存在』の名前だ。
化学検査の結果とその名前を持つ意味を考えると、誰かが人間そっくりに作り上げた存在という説が浮上する」
「……そんなこと、今の科学力で可能なのか?
荒唐無稽すぎるだろ、そんなの」
デイビッドが肩をすくめた。
「俺たちも信じられんが、遺伝子検査が人間じゃないことを証明しちまった。
そして諜報部から、プロメテウスが『ピグマリオン計画』とやらを進めてるって噂を聞いた。
――なぁ嬢ちゃん。正直に教えてくれ。あんたは人間なのか? そうじゃないのか?」
俺たちの視線がティアに注がれた――ティアはスパゲティを食べながら、俺たちに応える。
「私は、自分の事を教えちゃいけないってデュカリオンに言われてるんだってば」
デイビッドがティアに告げる。
「じゃあそのデュカリオンに許可をもらえば話せるのか? 試しに聞いてみてくれ」
「んー、しょうがないなぁ」
ティアは携帯端末を取り出して画面をタップしていく。
少し待つと返信があったらしく、それを読んだティアが告げる。
「デュカリオンが来てくれるって」
デイビッドが小さく息をついた。
「どうやら、少しは収穫を持って帰れそうだな」
俺はデイビッドに振り向いて告げる。
「また今回もギリシャから来てるのか?」
デイビッドが頷いた。
「ああ、丸二日かけてここまで来てる。
無駄足運ぶのはさすがに御免だ。
この町には娯楽もろくにないしな」
一時間ほど俺たちが時間を潰してると、ティアが立ち上がって手を振った。
「ここだよー! デュカリオン!」
振り向くと、店内に白髪の青年が入ってくるところだった。
青年はティアを見ると、優しい微笑みで手を挙げた。
****
青年は白髪だけど、二十歳手前くらいに見える。
ラフなシャツとジーンズ姿の青年は、デイビッドたちの向かいに座り、静かにコーヒーを一口飲んだ。
「ガラティアの事で、聞きたいことがあるんだって?」
デイビッドが鋭い目つきで青年に告げる。
「あんたがデュカリオン、で間違いないな?」
青年が微笑みながら頷いた。
「そう、僕がデュカリオンだ。それで、なにを聞きたいんだい?」
「ガラティアは何者だ? 人間じゃないってことまではわかっている」
デュカリオンは明るい笑みで応える。
「ハハハ! 人間と等価な生命体と人間、そこにどんな違いがあると思う?
全く同じ素材、全く同じ構造、全く同じ機能を持った身体で、人間と同じ魂を内包した生命体が居たとするよ?
その生命体と人間は等価といえる。そこに人間との違いはあると思うかい?」
デイビッドはデュカリオンを睨み付けながら告げる。
「では、ガラティアが作られた存在だと認めるんだな?」
「だとしたら、君たちはどうするんだい?」
デュカリオンは微笑みながらコーヒーを飲んでいた。
デイビッドが鋭く告げる。
「プロメテウスは何を考えている? ガラティアで何をするつもりだ?」
「それを君たちが知って、どうするんだい?」
「我らの神の名をかたる人間が陰謀をくわだてているとしたら、俺たちはそれを叩き潰す」
「ハハハ! 陰謀って何の話だい?」
デイビッドが静かな声で告げる。
「新型感染症をヴォーテクスが世界中にばらまき、特効薬を売りつけて大儲けしてるって噂がある。
それが本当だとしたら、許しては置けない」
デュカリオンは楽しそうに目を細めてデイビッドを見つめた。
「君らもそんな与太話を信じるのかい?
根も葉もない噂だよ。特効薬の利益が大きいから、やっかんでいるだけさ」
「ならばなぜ、特効薬の製法を公開しない?」
デュカリオンがテーブルに肘を置き、手を組んで告げる。
「あれは特別製の薬だからね。外部に公開できないだけだよ。
効能が間違いないのは、君らも知っているだろう?
副作用で魔力に目覚め、異能が開花する子供たちが発生したのは誤算だったけどね」
俺は思わず言葉を漏らす。
「あんた、やたらと詳しいな」
デュカリオンが俺を横目で楽しそうに見た。
「僕はヴォーテクスで特効薬の開発主任をしているからね。詳しくて当然だよ」
デイビッドが険しい顔でデュカリオンに告げる。
「特効薬の話が真実だとしよう。
ならばガラティアはなんだ? 何者だ?」
「彼女は異能開発プロジェクトに関わる子だ。
だからどうしても機密が多い。
それ以上を君らが知る必要はないさ」
デュカリオンが俺を見て告げる。
「竜端悠人、Xランクのことは少し聞いているよ。
君は中々面白い素材だね。今度、君の血液を採取させてくれないかな」
俺は驚いて声を上げる。
「なんで俺の血なんか欲しがるんだよ?!」
「君は特効薬の主成分――星因子というんだけど、それに対してとても適性が高いようだ。
研究所でも君のデータを調べていたみたいだけど、どうしてもランクを判定することが出来なかった。
実に興味深いデータだよね」
「……俺はモルモットじゃねーぞ」
「ハハハ! この街の子供たちはみんな、同じようなものさ。
日々、実験データを取られている。僕らも異能については、分からないことが多いんだ」
デイビッドがデュカリオンを睨み付けて告げる。
「どうあっても、ガラティアの事を話さないつもりか」
「言っただろう? 機密事項なんだよ。
君らは企業が機密事項を簡単に漏らすと思うのかい?」
「……では、なぜ貴様らは『プロメテウス』や『デュカリオン』を名乗っているんだ」
デュカリオンは肩をすくめて応える。
「それも君らが知る必要のないことだ。
君たちが信仰する神と同じ名前なのは、ちょっと悪いことをしてるな、とは思うけどね。
その名前で悪さをするつもりではないから、そこは安心して欲しい」
デュカリオンがコーヒーを飲み終わって席を立った。
「もう気は済んだかな? 僕も忙しい身だから、今日はこれで失礼するよ」
デュカリオンは俺たちのテーブルにあった伝票を手に取って去っていった。
「あいつ、おごってくれたのか」
デイビッドは苦虫を噛み潰したような顔で告げる。
「結局、大したことは教えちゃくれなかったな。
――なぁ優衣、あいつは嘘をついていたか?」
優衣は静かに首を横に振った。
「彼は一言も嘘をつかなかったわ」
ってことは、悪い奴じゃないってことか。
デイビッドたちも席を立った。
「俺たちもこれで失礼する。
しばらくこの街に滞在するから、何か分かったら連絡をくれ」
デイビッドとパラスは、俺たちを置いて店を出ていった。
「……俺たちも帰るか」
女子たちが頷いたので、俺たちも席を立って店を出た。




