10.共有愛
部屋に戻った俺たちを、女子たちがリビングで迎えてくれた。
全員が風呂上がりの薄着でショートパンツだ。
今の俺には、刺激が強すぎて頭がどうにかなりそうだった。
俺はため息をついて告げる。
「もう九時か。俺もシャワーを浴びてくる」
少し頭を冷やそう。気分を切り替えないと、夜を一緒に過ごせる気がしない。
着替えを手にした俺は、脱衣所へ向かっていった。
浴室で俺は、ひどい後悔に苛まれていた。
女子五人の匂いが浴室に立ちこめている。
頭を冷やすどころじゃない、これじゃあ逆に理性がどこかに飛んで行きそうだ。
それでも換気扇を回し、必死に欲望を追い払いながら、頭と身体を洗い流していく。
風呂から上がっても、俺の身体には女子たちの匂いがまとわりついているような気がした。まるでマーキングされた気分だ。
俺は両頬を叩いて気合いを入れ直し、寝間着に着替えて脱衣所を後にした。
リビングに戻ると、女子たちは映画を見ていたときと同じ配置で座り込んで待っていた。
俺は灯りに誘われる我のように、その空いているスペースに腰を下ろした。
女子たちが俺に再び身体を預けてくる――そうだろうと思った。
優衣が俺の右肩に体重をかけた――薄着でさっきより胸を押しつけてくる。その感触で俺はもう、自分を見失いかけていた。
「ねぇ悠人さん。私たちと個別の時間を過ごして、あなたの意見に変化はあったのかしら」
俺はため息をついて応える。
「何も変わらないどころか、ますます自分がわからなくなった。
俺は誠実な人間を目指していたし、その自負があった。
だけどお前たちに好意を寄せられて、自分の身勝手な欲望を自覚して、真実の俺に誠意なんてないと理解しちまった。
本当の俺は欲望まみれの、どうしようもない男だったんだ」
優衣が優しく耳元でささやいてくる。
「誠意の本質は、相手を思いやり、嘘をつかないことだと思うの。
悠人さんは私たちのことを気遣ってくれて、嘘をつかずに正直に自分の心を話してくれてる。
立派に誠意のある男性だと思うわよ?」
俺は苦笑を浮かべた。
「誠意のある男は、お前たち全員をこの腕の中に収めたい、なんて身勝手な欲望を抱きはしないだろ。
お前たちは自分を選んでほしいって言うけど、俺は誰か一人を選べないんだから。
俺が誰かを選べば、お前たちの友情が壊れてしまうかもしれない。
それがわかっていたら、なおのこと誰か一人を選ぶことなんてできないよ」
ティアが俺の足の上に寝転がりながら告げる。
「どうして誰か一人を選ばないといけないの?
悠人はみんなが同じくらい大好きなんでしょ?
私たちも、悠人が大好きで、ずっと一緒に居たいと思ってる。
悠人なら、みんなを同じように愛することはできると思うよ?」
俺はフッと笑って、ティアの頭を撫でた。
「それが許されるなら、そうしたい。
でも俺には全員を同時に等しく愛する自信なんてないし、全員を幸せにする自信もないぞ。
なによりそういうのは、日本だと許されないんだよ。
映画でも見ただろ? 誰か一人を選ばないといけないんだ」
ティアが困ったように眉をひそめた。
「私はあの退屈な映画、ほとんど見てなかったからわかんないよ。
でも、誰か一人を選ばないといけないって言うのは古いルールの話じゃないの?
なんで私たちの『好き』って気持ちを、古いルールで縛られなきゃ行けないの?
自分たちが思う通りに『好き』って気持ちを表現しちゃいけないの?」
俺は困惑しながらティアに応える。
「そんなの、俺に都合が良すぎる。
俺はいつも誰かと一緒に居られるけど、女子たちは俺と居られない時間ができるじゃないか。
いつも全員で行動できるわけじゃないだろう?」
瑠那が俺の左肩で、フッと笑った。
「そんなの誰かを選ばなくても、いくらでもシチュエーションがあるわよ。
あんたのロードワークに付き合えるのが私だけのように、他の子の時間を作ってあげれば良いんじゃない?」
俺は驚いて瑠那に振り向いた。
「……お前は、ティアの意見に賛成するのか」
「だって、私たちの友情と恋愛を両立させる唯一の方法だと思うし。
私はこの子たちとの友情を失いたくなんてないのよ」
俺は由香里を見つめた。
この子が一番、自分だけを見てほしいって要求してきた子だ。
由香里は俺を見つめて考えこんでいるようだった。その口がゆっくりと開く。
「……このままだと、最初に『既成事実』を作った人が悠人さんを手に入れる気がします。
それはきっと醜い競争になると思うんです。
悠人さんを独占したい気持ちはありますけど、そんな醜い自分になってまで独占したいとは思えないです」
美雪が微笑みながら由香里に告げる。
「そうだよね、女性的な魅力の勝負になったら、私たちの勝ち目は薄いもんね。
勝ち目のない勝負で勝とうとしたら、私たちはだまし合いみたいなことをしないといけなくなる。
そんな自分が悠人さんに好きになってもらう資格があるかって言うと、ちょっと考えちゃうよね」
俺はみんなの言葉に混乱しながら告げる。
「結局、どういうことなんだ? みんなは何を望んでるんだよ」
優衣が小さく息をついて、俺に告げる。
「つまり、全員で悠人さんの愛を共有しましょうってことよ。
その代わり悠人さんは、私たちを平等に愛して、幸せにしてほしいの。
誰か一人をひいきするのではなく、全員を大切な恋人として扱う――できると思う?」
俺は困惑しながら応える。
「そんなの、映画の男役と同じじゃないか。
誰も選べなくて全員を選ぶなんて、まともな男のやることじゃない」
ティアが微笑みながら俺を見上げた。
「今はそんなつまらないことを忘れてよ。
自分の気持ちに正直になってみて?
悠人の中で、私たちに対する気持ちに優劣はあるの?」
俺は深く考えた。
ゆっくり一分考え込んで、それから口を開く。
「……ない。全員が魅力的で、守りたい女子だ」
ティアが無邪気な笑顔で俺を見た。
「それなら、その通りにすればいいだけだよ。
他の人の言うことなんて関係ない。
これは私たちの気持ちの問題なんだから。
私たちが決めていい問題なんだよ」
俺は風呂上がりの女子たちの匂いに囲まれながら、しびれていく頭で必死に考えた。
だけどどうしても、それ以外の結論が出せなかった。
「……すまない、少し時間をくれないか。
そんな大胆な決断をするには、今の俺じゃ力が足りない。
一時の熱に浮かれて、そんな大切なことを決めちゃいけないよ」
優衣が俺に告げる。
「外泊届は二日分出してあるわ。
土曜日も一日考えて、それで改めて気持ちを教えてほしいの。
私たちも自分を見つめてみるつもりだけど、恋という熱病に浮かれた今、時間をかけても結論は変わらない気がする」
「……わかった。
それじゃあそろそろ、映画上映会の続きでもしようか。
一度気分をリセットしようぜ。ロマンス映画以外な」
それから俺たちは、アクション映画やホラー映画を見ながら夜を過ごしていった。
その間女子たちはずっと俺に身を寄せたままで、幸せそうに映画を楽しんでいた。
俺はそんな彼女たちの笑顔で心を満たされながら、この時間がずっと続けば良いのにと思ってしまっていた。
だんだんと眠りに落ちる女子が増えてきて、四時を過ぎる頃には俺も眠りに落ちていた。




