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ギャル・ニンジャ、顕現す(前編)

「そろそろ米の制限を解除してくださいませんかねえ」

「総理はいつもそれだな」


 私はいつもよりそっけなく答える。この前の仕打ち(食うだけ食って文句つけて片付けもせずに帰った)を深く根に持っているためだ。


「国民が困っているのですよ。解決するまでは、しつこく言わせていただきますとも」

「実際はそうではなくて、困っているのはお前だけだったりしてな」

「そんなことはありませんよ。なんなら、代表して誰か連れてきましょうか」


 なんだ。職人たちに匹敵する人物を出してくるのか。それとも仕込んだ子供でも出してきて泣き落としをさせるか。……後者だったら心底軽蔑してやるところだが、さてどうするつもりか。


 私はちょっと考えてから、許可を出した。


「来ているのは私の孫です。今年十八になりましてね。まだ高校に通う学生ですが、立派な成人なので、意見を言う権利はあるかと」


 総理は言って、部屋の入り口を示す。


 推薦してきたのがそれか。結局、つまらないことになりそうだ。どうせこの総理の薫陶を受けて育った、裕福な家特有の面白みのない人間が出てくるのだろう。


「あー、あんたが魔王なわけ?」


 現れたのは、女だった。そして背丈は小さいくせに、やたら派手だ。素人にしては濃すぎる化粧でひどく目が大きく見え、けばけばしい桃色の上下を着用している。腹を全開にしているのは、開放感を求めてゆえのことか。


 爪と耳に至っては、何かの暗器としか思えない尖った物体をつけている。ナイフや刀といったあからさまな武器を持ち歩かないところをみると──


「この者、まさか噂に聞くニンジャとかいうやつではあるまいな」

「いや、全然忍んでないじゃないですか。光るネオン管みたいなアクセサリーつけてますよ。暗闇にあんなのいたら一発でバレますって」

「余裕がない日本人は気付かないかも」

「そいつが病院に行くべきですよ」


 ……私の予想は外れたが、まあいい。想像よりは面白いのが出てきた。これで話も面白ければ言うことがないのだが。


「なに、このキモい生き物。スライムの出来損ないみたい」


 ケ────ッ!! 口の利き方さえ、全然なっていないではないか。


「せめて礼儀を身につけてから連れてこい、阿呆が」

「いやあ、正直でいいじゃないですか。彼女は怒っているんですよ」


 私に詰め寄られ、総理が思いきり情けない顔をしながら言う。副官がため息をつきながら、後を引き取った。


「らちがあかないので代わりにお伺いしますが。一体何がご不満で?」

「こ、米がないと、ばあちゃんのおにぎりが食べられない……」


 もじもじと指を付き合わせる振る舞いに、私は目をむいた。米とか臭くね? とか、パスタこそ正義っしょ、とか言いそうな見た目をして、なんだこのギャップ。


 驚く私に、総理がやに下がった顔で言った。


「孫は、妻が作るおにぎりが一番の好物でして。学校に行くときも、妻のお弁当でないと嫌だと言い張ったりしましてね。いい子でしょう?」


 その言葉に、孫は顔を真っ赤にした。


「う、うるさいなクソじじい。わざわざ言ってんじゃねえよ。何回食っても、美味いもんは美味いんだよ」

「流行のツンデレというやつでしょうねえ。実は祖父母両方大好きっ子と見ましたよ」


 副官が孫の様子をじっと見ながら言う。孫はその視線を受けて、耳まで赤くなった。


「嫌いだよこんなじじい。いっつも仕事ばっかりで家にいなくって、ばあちゃん寂しそうでさ。とっとと総理なんて辞めちまって、二人で温泉でも行けばいいんだ」

「昔からずっとこの調子なんですよ」

「まごうことなき生まれつきのツンデレ」


 何故か副官のツボに命中したらしく、楽しそうにしていた。こいつ一回、国に送り返した方がいいかもしれない。


 私が副官に呆れていると、孫が拳を握った。


「ツンとかデレとかどうでもいいんだよ!! おにぎりの話だろ!? あたしの先輩が、あんたらのせいでひどい目にあってるんだからな!!」


 まだ続くのか、この話。私はうんざりしたが、孫にしっかりと睨まれている以上、逃げるわけにはいかなかった。

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