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最後は歓喜のテマキズシ(前編)

 飯の時間が終わり、自衛官たちを追い出す。そして夕方になってようやく、向こうに処理をしに行っていた副官が戻ってきた。なぜか連れて行っていた犬も一緒だ。


 それから少し遅れてこちらに来た総理は、疲労の色はあったもののさっぱりした顔をしていた。その横の農林水産大臣は、今にもこちらに噛みつきそうな顔をしているが。


「魔王様。敵の大将、最終的にはどうなりました?」

「死罪に決まってるだろうが、そんなもの。見せしめに、ありとあらゆる魔術の実験台にしてやったわ」


 ちなみに致命傷を与えたのは私の副官である。翼の王は結局全てを私の軍に任せ、ただ静観していたという。奴の立場を考えれば、そうするしかないのだが。


「おお、怖い」


 総理が大げさに肩をすくめてみせたが、絶対怖がっていない面をしていた。それとは反対に、大臣の方はやや恐怖の色を見せる。ふふん、面白いものを見たぞ。からかってやろう。


「……こんなことになる前に、事前になんとかできなかったのか」

「貴様にデカい顔をされる筋合いはない。どうせ怯えて逃げ回っていたのだろう」


 それを聞いた大臣は、即座に眉間に深い皺を刻んだ。


「戦闘になったが、未知の物質が飛散した可能性はないか、土壌汚染はないか──各方面からひっきりなしに来る問い合わせと、外務省との折衝でひたすら追いまくられていたんだがな。それもこれも全部貴様らが悪いッ!!」

「そういうのを八つ当たりと言うんだバカ。私は退治してやった側だぞ。事実の認識が正しくないからモテないんだ」

「なんだと、この──」


 新たな言葉を紡ごうとした時、急に目の前が明るくなった。火花を飛ばし合う私と大臣の間に、本物の雷光が割って入ったのだと気付くまでにしばらくかかった。


「はいはい、喧嘩はそこまで。どちらも得意分野を生かして、事態の収拾に努めてくださったんですから、仲良くしましょう」

「ワン」


 横手で副官が手を叩いている。犬がそうだそうだという顔をして、うなずいているのがいっそう私を苛立たせた。


「本物の魔法を私に向けて撃つな!」

「ワウーン」

「回避できなければそれまでの男、と我が愛犬が申しております」

「貴様に器をはかられる覚えはないぞ!?」


 ……とまあ、こんな感じで一気に緊張感が薄れてしまい、なんとなしに祝勝会が始まってしまった。本当はやるつもりはなかったのだが、奥方がいい料理があると言うので、婚約者が乗り気になってしまったのだ。


「今日はどんなお料理ですの?」

「お祝いですから、お寿司にしようと思って。さっき、お米を出していただいたの」


 確かに、総理の妻は出された米をせっせとといでいる。その不合理な様子を見て、私は呆れた。


「わざわざ米を出してどうする。炊きあがった飯から作ればいい話だろうに」

「少し固めに炊いておかないと、出来上がりが柔らかくなりすぎるんですよ。寿司酢が入りますからね」

「ふーん」


 そう言えば前のタイショーたちも、米から準備していた気がする。……その時は状況が殺伐としすぎてて、とても聞ける雰囲気じゃなかったもんな。


「米酢に砂糖と塩を混ぜたら、寿司酢は完成」

「これをもしかして、飲むんですの? すごいにおいがしますが」


 どうして良いか分からない顔で、婚約者がおろおろしている。総理の妻は彼女を見て、にっこり笑った。


「違いますよ。これは、お米に混ぜるんです」


 総理の妻はそう言うと、濡らしておいた大きな木桶の水分を拭き取って、炊きたてのご飯をその中に入れる。


 そしてしゃもじを伝わせるようにして、寿司酢をご飯にかけていく。婚約者は興味津々といった顔で、じっとそれを見つめていた。


「混ぜてみますか?」

「いいんですの! やります!」


 婚約者は飛び上がって喜んだ。


「底からしっかり混ぜてくださいね」


 最初はおそるおそる手を伸ばしていた婚約者も、だんだん大胆になっていく。しゃもじが凄まじい速さで前後していくのを見て、私は不安になってきた。


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