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侵略者としての矜持

 とある午後、私と副官は顔をつきあわせて話し合っていた。


「……今のところ、あのクソ総理との勝負は一進一退だ」

「あの様子で半分勝った体にできるなんて、魔王様メンタル強いですね」


 ちょっと心に突き刺さったが、なんでもない振りをして誤魔化した。


「まあ、聞け。この状況を打開するアイデアを思いついたんだ。あいつら、結局美味ければなんでも食うよな?」

「まあ、河豚の卵巣食べるくらいですからねえ」

「だからバフムを美味くすれば、あっちから這いつくばって売って下さあい、と情けない姿をさらすのではと思う」


 それを聞いた副官は手を打った。


「いい考えですね。で、具体的にはどうします?」

「…………」

「ノープランですか?」

「……ほら、何か考えなさいよ」

「魔王様も考えなさいよ」


 ヤケになった私たちは、しばし互いに責任をなすりつけあった。


「……不毛な時間だったな」

「このままバフムをにらんでいても始まりません。なんとか調理してみましょう」


 一旦手打ちとし、調理道具を抱えて持ってくる。魔法でやれば簡単だが、下等種族たちが自宅で処理できなければ広まらないだろうからな。


 まずは、定番の煮る・焼く・蒸すを全て試してみた。


「……焼くと硬いな」

「煮ても繊維が頑丈で、あんまり味がしみませんね」

「蒸すと苦味が強調されてしまうぞ」


 いずれにせよ、食べると元気がなくなる味なのは確かだった。


「バフムってこんなにまずかったか?」

「そりゃあ、魔王様は最高ランクのバフムしか食べてませんからね」


 バフムは収穫後、五段階にランク分けされる。最高級のバフムは実も大きく皮も綺麗な赤色をしているが、下の方になると痩せて元気がなく、枯れかかったような茶色い実だ。


「そうだった。国が安定し、さすがに下から一、二番目のバフムは誰も食べなくなってきてたから、日本に売りつけようとしてるんだった」

「どうやったら食べられるようになりますかね……」

「とりあえず繊維が硬いのがダメだな。細かくすりおろしてみたらどうだ?」


 ミキサー、という機械に水と共にバフムを入れ、しばしすりおろす。そしてできあがったどろっとした液体を前に、再び私たちは考えた。


「スープと言うには粘度がありすぎか」

「このままではあまり保存に向きませんね。もう少し練って、団子みたいにしてみますか」

「いいな。ちょっと凝固剤も入れてみよう」


 凝固剤を入れて練り、丸めてしばらく置いておくと良い感じに固まった。それを食べてみると、繊維がほぐれていて最初より遥かに食べやすい。


「醤油をかけてもいけますよ」

「本当だな。味噌でも合うかもしれん」

「やりましたね、魔王様」

「私たちだって、やればできるんだ」


 働いた後のすがすがしさ。おお、流れる汗も美しい。


 そこへタイミング良く、総理がやってきた。


「おや、今日はお料理を? 珍しいですね」

「幸運だな総理。いいところに来た」


 私はうなずき、寛大にも自信作を総理に与えてやった。もちろん、たっぷりと製作秘話もつけて。ああ、こいつが驚く顔がようやく見られる。


「……ああ、同じ作り方をする食品なら日本にもありますよ? こんにゃくと言います」

「はい?」


 まさか。こんな手間のかかることをしている食材が、すでにあると言うのか。


「しかしこれはこんにゃくよりクセが強いし硬いですねえ。美味しくないです」


 総理は調理バフムをさっさと食べ終えると、皿も洗わずに帰っていった。後には大量の洗い物と、部屋の隅っこで背中を丸めている副官と、呆然としている私だけが残された。


 しばらく経ってから、私の喉がようやく動き出す。


「日本なんて大嫌いだ──ッ!!」


 それは、まごうことなき本音だった。


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