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地上の物は魔王(オレ)の物(八)

「行くぞ、腰抜けの首を取る!」


 大将が声をあげ、突進を始めた。後ろの兵が、補助用の防御魔法をまといながらそれを追ってくる。まるで猪のようなその突進を見て、私は笑った。


「あー、さっきの話の続きだけど。どうして私がお前を放置するか分かるか?」


 誰も聞いていない様子だった。ただ鬨の声だけが聞こえる。残念だねえ。私が一番言いたいのは、ここからなのに。


「放っておいたところで、お前ごとき──私には何もできんからに決まっているだろうが。この戯け」


 次の刹那、橋が轟音をたてて崩れ去った。支えていた魔法式は砕け散り、魔力が集中していた踏み板の部分から谷に向かって真っ逆さまに落ちていく。


「な、何が起こった!?」

「翼がきかない──」


 橋の崩壊と同時に、上から重力が襲いかかってくる魔法もかけてある。飛んで逃げる時間などあるはずがない。そこに載っていた兵士たちは一緒に力尽きるしかなかった。


 兵士の悲鳴がこだまする中、大将だけは浮いている。私が魔法で浮かせているからだ。あっさり死なれてはつまらない。


 私は一人残った大将を見て、大いに嘲笑ってみせた。


「さっきはさんざん言ってくれたな。失言を詫びるなら今のうちだぞ」


 私が声をかけると、大将は憎しみのこもった目でこちらをにらみつけた。


「まだ盾となるべきアイスゴーレムが……」

「ああ、あの役立たずのことか?」


 私は下を指さした。相手の最後の切り札が今、文字通り崩れ落ちようとしているのを見せてやろうと思ったのだ。


 氷の巨人の背後に現れたのは、対照的に全身に炎をまとった豪炎の巨人。巨人は地平線を埋め尽くす勢いでずらりと並び、その熱で向かい合っただけで氷の巨人が溶け始めた。


「な……」

「お前たちが橋に夢中になっている間に、距離を詰めさせてもらった。こう見えて、この巨人は結構俊足なんでな」


 巨人の隠れ家は起伏を操ればいくらでも作れる。地中のトンネルを使って移動すれば、相手の目にはつかない。


「足が遅いのが仇になったな。一度捕まったら、もう逃げられん」


 アイスゴーレム討伐隊の指揮官として前線を指揮するのは、婚約者の伯父にあたる公爵だ。少々名誉欲が強すぎて鬱陶しい男だが、すべきことはきちんとこなせる。


「美しく決まりましたね、背後からの不意打ち」


 副官がつぶやく。もはや婚約者を盾にしたところで、敵が勝つ可能性は万に一つもない。全ては終わったのだ。


 私は目の前の大将を見据えた。人間に姿を変えてしまったばかりに、口元がねじれて痙攣しているのを隠しきれていない。


「いくら装備を調えても、バカは抜け切れてなかったようだな。それで魔王気取りとは片腹痛い」


 私を気味悪く思っているのだろう。大将の瞳が、苛立ったようにこちらを見据えた。


「お前の戦い方は微笑ましいほどだった。児戯とはまさにこのことだ。私は包囲されると分かってから、やるべきこと──根回し、資材の運び込み、指揮系統の維持──は全てやった。その結果がこれだ」


 私はしゃべりながら、拘束魔法でキリキリ大将を縛り上げる。


「ああ、殺す前に一つだけ質問に答えておいてやろう。私が、なぜここの下等民族と馴れ合っているのか、お前は知りたそうだったからな」


 眺めた大将の顔が、実に面白いことになっている。私はゆっくりと言葉を選びながら言った。


「簡単だよ。いつでも殺せるからだ」


 のどかな日常は、私が崩そうと思えば瞬時に絶望に変わる。それが分かっているから、相手の児戯にも笑ってつきあえる。


 すぐに怒らず、笑っている相手をバカにする向きはこの世界にもあるが──その笑顔は、「本気を出したら貴様ごときたやすく潰せる」という余裕の現れの場合もある、と知っておいた方がいい。


「足りないものなど何ひとつない。ここの、いや、ここもか。世界の支配者は私だからな」

 

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