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地上の物は魔王(オレ)の物(七)

 時間がさらに経つ。結界に何かがぶつかる違和感があって、休憩をとっていた私はそろそろと目を開いた。


「異質な存在が干渉してきていますね」

「餌にかかったか。行くぞ」

「はっ」


 副官とともに、異物のところへ移動する。そこには、結界にねじこむようにして、大きな橋がかかっていた。透明な光は天頂の月の光を浴びて青く輝き、まるで氷のよう。翼の紋章の入った手すりが私の目の前で結界を食い破り、とうとう迎賓館のある大地にがっしりと根を下ろすのが見えた。


 橋には敵兵が布陣している。突入のタイミングをうかがうように、彼らはじっと止まったままこちらを見据えていた。


「……私の陣地を汚したな」


 この術を使うとなれば、それなりの実力者のはずだ。私は密かにほくそ笑んだ。


「ようやく姿を現したか、総大将が」


 その声に応えるように、兵団の中から一体が進み出る。


 彼の全身、翼までもが、黒い表皮で覆われていた。希少種の生物、火蜥蜴の鱗をつなぎ合わせて作った防御鎧だ。おかげで、碧の国の住民である証拠の青い本体はほとんど見えない。


「よく用意したな、そんな稀少なものを。おかげで顔がよく見えん」


 私が心ばかりの世辞を述べると、平坦な声が返ってきた。


「貴様を相手するとなれば、このくらいは必要だろう。どうせ、突入に備えて攻撃魔法を仕込んでいるのだろうからな」

「驚いた、正解だよ」


 おどけてみせると、大将はわずかに苛ついた様子を見せた。守護地にまで踏み込まれているのに、私が動揺していないのが解せぬのだろう。肩すかしは成功か。


「顔が見えないと言ったな……下等種族がお好きな貴様に合わせて、人間のまねごとでもしてやろうか?」


 次の瞬間、大将は黒一色の装いに変化していた。手には、指の部分がない黒い手袋をはめている。髪は深い藍色、その下に褐色の肌、背中に黒い翼。目は細く、瞳の部分がほぼ見えないため笑っているように見える。体つきのわりに顔立ちが幼く感じるのは、術者の内面を映したゆえか。


「邪悪な感じを表現した格好だな。そういうのを地上では中二病と言うらしいぞ」


 私はからかってやった。


「別に問題は無い。こちらの要求は、貴様の退位と──」

「主張は聞かん。聞いたところで、どうせ平行線だ。婚約者を殺したいなら勝手にやってみるがいいし、これから攻め込むと言うのなら止めはせん。私は余計な時間を使うほどバカではないのだ」


 向こうの大将の喉がひくついた。私の言うことが本当かどうか、計りかねている。


「なんだ。ここまでやっておいてグズつくとは、案外度胸がないんだな」

「度胸がないのは貴様の方だろう……!」


 何気なく言った一言が、相手の地雷を踏んだらしい。私はニヤつきながら、向こうが爆発するのを待った。


「地上の征服を企てた貴様が、逆に懐柔されていると聞いた。万が一聞き間違いかと思ったが、実際に現地を見てみれば市民生活は障害なく営まれている……魔王の矜持を捨て去り、下僕に自由気ままさせるなど下の下! 貴様を倒し、我々が被支配層の扱いというものを叩き込んでやる!」

「魔王様。各部隊撤収、すでに全て終わっております」


 大将が熱弁を振るう中、私の傍らの副官が冷静に言った。……あー、相手の寝言も聞き飽きたし、そろそろちょうどいいよね。


「では、最後の仕事をさせてもらおうか」


 私はわざとらしく腕をさすりながら、準備していた魔法を発動させた。


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