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地上の物は魔王(オレ)の物(四)

「な、なにこれ……」

「魔法で大量の土砂を固め、隆起させたのだ。この迎賓館、ちと立てこもるには高さが足りんのでな」

「昔から、戦は高所を押さえた方が勝ちと決まっていますしね」


 副官がのんびり言うと、孫は目を丸くした。


「高所っていうなら、相手の方が有利じゃん。飛べるんでしょ」

「翼さえもいでしまえば、地面を這う亀と一緒だ。後は地上戦と同じで位置取りがものを言う」

「そんなこと言ったって……こんなのいつまで保つんだよ!! あんた、相変わらず無茶苦茶するな!!」

「私が死なない限り、生み出した魔法の効果は維持される。安心して中にいるがいい」


 私が言うと、孫娘はようやく少し安心した様子だった。怖々と、変わっていく外の様子を見ている。


 しかししばらく経つとそれにも飽きたのか、急に私の方を振り返った。


「あんた、意外と仲間には優しいんだ」

「は? 急に何を言い出す」


 私は話の流れが読めずに、孫娘の顔を見つめた。


「……ここまでできるのに、あいつらとチマチマ正面から戦うってことは、ピンクちゃんが向こうにいるから、無茶できないってことだろ」


 孫娘は胸の前で両手を組んだ。


「殺される可能性が低くても、攻撃に巻き込んじゃったら危険だもんね。あんたの愛がこれほどとは思わなかったから、ちょっと驚いただけ」


 私はようやく孫娘の意図を察して、大笑いした。


「フハハハハ、私がそんな貴公子だと思ったか。この腐れボケ。全く違うわ」


 まだ孫がなにやら背後で怒っていたが、私は無視した。今、その「何故」に答えると、ちょっと格好悪くなるからな。ハハハ。


「さあとっとと仕事に戻れ。いい話で誤魔化そうったってそうはいかんぞ」

「あ、悪魔──!!」

「お前は仲間でもなんでもないからな。さあ行けやれ行け」


 そんなベタなやり取りをしているうちに、いつの間にか一時間経っていた。


 迎賓館の外は、碧の国の精鋭たちと、彼らの使い魔──大きな四角い氷を組み合わせたようなゴーレムたち──が取り囲んでいた。使い魔には一様に、翼の形の紋が入っている。全員が碧の国の術士によって魔力で精神を支配されており、裏切ることはない兵士と化していた。


 こちらを凝視する使い魔を見ながら、私はため息をつく。


「ぞろぞろとまあ……」

「供の使い魔は冷気魔法を得意とするアイスゴーレムですか。足は遅いですが、自身が氷壁代わりにもなるので、包囲戦に使うとしたら悪くはありませんね」

「わー、なんか綺麗なモンスターがいる」


 また抜け出してきた孫娘が、窓から身を乗り出してつぶやく。……まあ、そろそろここに置いてリアクションを堪能してやるか。


「あいつらの射程は短いが、攻撃能力は高い。捕まえた人間の首くらい、あの太い腕で簡単にひきちぎるぞ。命が惜しくば、落ちんことだな」

「ひいっ!」


 孫娘はさっそく、いい恐怖顔を見せてくれた。その調子その調子。


「ほう、僕たちが作業を始めたか」


 すでにアイスゴーレムのいる大地が凍り始めている。この分ではしばらく経つと地面が完全に凍って、外からの救助がさぞややりにくくなることだろう。


「ここしばらくの快晴もさして向こうには効果無し、ですか」

「そのようだな」


 私はにやついた。その横で孫娘が、スライムが飛んでくる、とうるさく騒ぎ始める。


「まず飛行部隊が仕掛けてくるぞ。徹底的にそいつらの翼だけを狙え。高所を一方的に、こちらが支配する」

「仰せのままに」


 実戦が始まった。副官と、彼が呼び寄せていた精鋭たちが一斉に魔法を発射する。風を利用し、直線上にあるものを全て切り裂く攻撃魔法。それは対象が多少動いたくらいでは消えず、追尾してとどめをさす。……全く、この魔法の考案者は実にいい性格をしていたのだな。


 一回の風魔法斉射で、飛行部隊は全て地に落ちた。


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