地上の物は魔王(オレ)の物(三)
総理が再び戻ってきたのは、四時間後のことだった。私が連れてくるように指示したので、明らかに不満顔の孫娘も一緒に居る。
「相手の妨害は一切なさっていない様子ですが、いいんですか? この調子だと明日の昼には、完全に包囲が完了していますよ」
「問題はない。貴様こそ、言っていた僕はそろえたんだろうな」
「……自衛隊の若手精鋭、三百名でしたね? 問題なく、部屋の外に待機しておりますが」
それを聞いた私は笑いながら総理に指示を出す。
「終わったならいい。貴様は横で、指をくわえて見ていろ。これは、《《もう》》うちの戦いだ」
「はいはい。では、一旦失礼させていただきますよ」
了解して去って行く総理とともに、孫が出て行こうとしている。私は手を伸ばして、彼女の襟元をがっちりつかんだ。
「お前はここにいろ」
「こんな怖いところに一般人残してどうしろっていうんだよ!!」
私は傍らで感情むき出しに騒ぐ少女をちらりと見た。
「お前、マンガとかアニメとかそういうものを見たことはあるか?」
「ま、まあ。有名なのをちょっとだけなら」
「それには主役と脇役が必ずいるだろう。今回のお前は、その脇役だ」
「はああ!?」
「支配者のなすことを理解できなかった無知で無謀なギャラリーが、ことが極まった時に『なんだとお-!?』とか騒ぐからこそ気持ちいいわけだ、アレは。無反応なら面白くもなんともない」
「ちょっと凜々しいとこあるじゃんと思ったけど、アンタ中身はほんとそのまんまだな!!」
勢いよく机を叩く孫娘を、私は冷ややかに見た。
「……まあ、それだけではなく、ここの運営も任せたいというのが本音だ」
「運営!? あんた、あたしに一体何させる気なんだよ!!」
私は黙って、部屋の外に待機していた人員を指さした。戦力になりそうな若くて屈強な男たちばかり、三百人。
「ちょっと待ってよ……まさか、これって……」
そちらを向いた孫が驚愕で目を見開く中、私は高笑いをしていた。
「今までの無礼な振る舞いを公開するがいい。貴様に地獄を見せてやる」
そして翌日を迎えた。私と副官は外の様子を見ながら、最後の詰めを行う。
「……で、あと一時間ほどで敵が見えてくるんだろ? アンタ、さっきからずーっと動かずにいるけど、いいわけ?」
仕事から少しでも逃げようと、孫娘が私の背後に現れた。どうやったか知らないが、要領のいい娘だ。昨日の夜はひいひい言っていたくせに。
「いいんだ。大がかりな魔法を使うためには、冷静でなくてはな」
「魔法? 敵も見えてないのに?」
「発動させるぞ。そのまま喋っていると舌を噛むからな」
私が忠告してから指を弾くと、ぐらっと館自体が大きく動いた。そしてそのまま、上方向へ移動を始める。
「も、もしかして……この館、飛んでる?」
完全に腰を抜かして、地面に尻をぴったり貼り付けている孫娘がうめいた。
「いや。さすがにこの質量を動かし続けるとなると、魔力の消耗が激しい。いじったのは地盤の方だ」
しゃべっている間にも、外では大地の起伏が続いている。終わった時には、周囲の光景は一変していた。
魔法は迎賓館を標高数百メートルにまで押し上げ、周囲には逆に深い谷を刻んだ。さらに迎賓館の周辺にも、高い塀が築かれる。入り口は正面のみ、そこは姿を隠した使い魔たちが厳重に守っていた。




