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地底からの不穏な影とモチ(五)

 そう言って副官が出してきたのは、めんつゆをふりかけた餅を出してきた。うわあ、バターが溶けてさらに救いようのない感じになっている。


「アレンジレシピで見かけまして。なかなか美味しそうですよ?」

「待て。人間は愚かなものだということを、もう一度思い出せ」


 なんでもかんでも混ぜればいいってものじゃないの。魔王様は許しませんよ。


 そう私が騒いでいるうちに、総理がひょいっと餅をかっさらっていった。


「おや、おやおや。これは、思ったより美味しいじゃありませんか」

「そう言っていただけて光栄です」


 罠かもしれない。しかしここで引いては、今日の私にいいところが一つもなくなる! いざ、魔王は逃げも隠れもせぬ!


「……ん?」


 甘めのつゆに、バターの塩気と脂がからむ。その三者が一体となると、口の中に得も言われぬ味が出来上がった。甘いのにしょっぱい、しょっぱいのに甘い。その行き来が楽しくて、次の餅に思わず手が伸びる。


「あれ、もうないのか」


 気がつけば、めんつゆバター餅は影も形もなくなっていた。惜しい、もっと食べたかったのに。


「なあ、もう一回作ってくれないか」


 私が声をかけると、何やら作業をしていた副官は「これが終わってからにしてください」と渋い顔をした。


 見れば、薄くのばした餅にケチャップを塗りたくり、その上にベーコン、さらにチーズと層を厚くしている。そしてそれを、「おーぶんとーすたー」とかいう機械に入れて満足そうに微笑んだ。


「何を作ってるんだ」

「餅ピザです」


 ピザとは、水を加えてこねた小麦粉を薄くのばし、具材をのせて焼いた料理だったと記憶している。つまり、その土台のところだけを餅でやろうというわけか。……そう考えてみると、突飛すぎる発想ではなさそうだな。


 私の目の前で、機械がチンと明るい音をたてた。焦げたチーズと、ベーコンの脂、それにケチャップが混じり合って、餅の上でぶくぶくと小さな泡をたてている。


「う、美味そうだな」


 熱でちょっと焦げた食べ物は、どうしてこんなに魅惑的なのだろう。私と総理はそろって手を伸ばし、ほぼ同時にかぶりついた。


「美味い!!」


 期待は裏切られなかった。チーズとベーコンの脂をトマトの酸味がさわやかにまとめ、それが下の柔らかい餅と一緒に喉に入っていく。噛みきれないとびよん、と餅が伸びたりするが、そのこと含めて楽しかった。


「おっとっと」

「気をつけてください、ベーコンが落ちかかってますよ」


 そんな会話が終わるころには、たくさんあった餅料理もすっかりなくなっていた。総理が少し残念そうに、空の皿を見ている。


「なあ、もう一回餅を作らないか?」


 私が副官にわくわくしながら提案したとき、結界を外から叩く気配がした。


「──悪いが、それはしばらく待ってはもらえないか。そう時間はとらせないから、話を聞いてくれ」

「えええええええっ!!」


 私と副官は、つい我を忘れてそろって大きな声をあげた。見た先に立っていた人物、それの発する独特な魔力は間違いようがない。


「き、貴様……」


 彼こそが今や実権を失ったもう一つの王家の末裔、翼の王。身体能力に限って言えば、屈強と言われる赤の国の勇士たちに匹敵すると言われる男だ。


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