地底からの不穏な影とモチ(四)
総理の言葉を裏付けるように、餅米が大きく持ち上がった。まるで生きているかのように盛り上がり、その後回転を始める。
「おおお……」
餅米がぐるんぐるんと回っている様子を見るのは、なんともいえない心地よさがある。数分して粒が見えなくなると、回転はさらに早くなって、機械から飛び出さないか心配になるほどだった。
「さあ、できましたよ」
スイッチが切れると、表面に穴ひとつない、奇跡のようにつやつやした餅が出来上がった。魔法には及ばないが、文明バンザイ。
しかし、ここに至るまでに我々が払ったバクダイな犠牲はなんだったのだ。
「……こんなものがあるなら最初から出せ……」
「さあ、ちぎって丸めましょう。表面を美しく整えてくださいね」
総理はいつものごとく、私の恨み言を完全に無視した。
「ここ東京では、餅を伸ばして四角く切る方が主流なんですよ。その方がきっちり箱に詰められて、たくさん運べますからね。西の方だと、丸餅が多いですが」
「お前、意図的に話をそらそうとしてないか?」
そんな話をしながら、私と総理は餅を取り分けた。その横で、副官がせっせと調味料や付け合わせの準備をしている。
「はい、そろいましたよ」
私は卓の上にそろえられた材料に目をやった。醤油やきな粉に砂糖が混ぜ込んである……ここらへんは伝統の味付けだ。私も知っている。
なぜか、その横にめんつゆとバター、ケチャップ、チーズ、ベーコンといった具材が並んでいるのが気になるが……副官の顔を見る限り、間違って出したわけではなさそうだ。一体、どんなことになるんだ?
「砂糖醤油やきな粉には、そのまま混ぜるだけでいいんでしたね」
「はい、それで」
準備の手伝いに入った総理の言葉に熱がこもっている。もしや、好物なのかな。
「こちらもできましたので、一旦食べましょう」
副官の方は、なぜかめんつゆを餅に絡め、その上にバターとかいう脂の塊をのせている。……それ、本当に食べられるんだろうな?
「いただきます」
皆が卓につくと、総理が真っ先に箸を伸ばした。砂糖醤油ときな粉を大量に皿にとる様を見て、私は呆れる。
「今日はずいぶんと意地汚いな」
「おっと、いけない。大好物なんですよ。食べ過ぎてはいけないと、いつも妻が私に説教しているくらいで」
総理は少し恥ずかしそうに言った。もはや喜色を隠せず、次々餅に手を伸ばしている。焼き肉の時に消極的だったのが嘘のようだ。
私もつられて食べてみる。米より遥かに粘りが強く、伸びる物体に調味料が絡んでいる。噛んで噛みきれないことはないが、口の中でもちもちと転がる様子は、他のなにとも違う風味だ。
しかしかといって不味いわけではない。食べれば食べるほど、独特の食感がくせになった。それに柔らかいから、かかっている調味料も満遍なく包みこんで、甘味や塩味がよりマイルドに感じられる。
「魔王様、お味はいかがですか」
「うん、思ったより悪くないぞ。間食には最適だな」
「そんなにお好きでしたら、こちらもどうぞ」




