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地底からの不穏な影とモチ(三)

「まあ、そうゴネずに。たくましいところを、是非拝見したいです」


 よく見ると総理は少しやっただけで、額に汗をかいている。私はひとりほくそ笑んだ。


「ふん、軟弱な。貸してみろ」


 私ならもっと手軽に、モチを作ってみせる。見ていろ副官と犬。そう思いながら、杵を片手に一歩踏み出した。


 しかしその熱意が持ったのはしばらくのこと。……変化の度合いは相変わらずだ。こねてもこねても粒が残っている餅に、恐怖すら感じる。


「一度、ついてみたらどうですか?」

「そ、そうだな。プレスした方がいいかもしれん」


 総理の提案にうなずくと、当の本人は今度は副官の方を向いた。


「副官さん、手伝ってさしあげてください」

「私が?」

「ええ。杵が上がった瞬間、餅ををひっくり返すお手伝いさんが必要なのです。二人で息を合わせて、タイミングよく頼みますよ」

「えええ~……」


 副官は本気で困惑し、本気で嫌がっているように見えた。おい待て、嘘だろ。


「私の相棒役が嫌なのか」

「書類仕事やいつもの補佐ならいくらでもやりますけどお。魔王さま、魔法以外の体術はお粗末だったじゃないですか。こっちでは魔法しか使わないからバレてないですけど、私は忘れてませんからね」

「う、うるさい。それは昔の話だ。モチつきくらい、余裕でこなしてみせるさ」


 私は恥ずかしいのを誤魔化すように大きく振りかぶり、意識を餅米に集中して打ち下ろした。


 見事な振りのおかげで、ずれることもなく臼の中に杵先が命中する。……ここまでは予想内だったのだが、餅の下からにじみ出るように副官の手が出てくることまでは想定していなかった。


「だから言ったでしょうがこのポンコツ魔王──ッ!!」

「お前が気配を読んで避ければ済む話だろうが──ッ!!」

「ああ、お互いにかけ声をかけないと失敗しますよ」


 微妙なタイミングで総理が声をかけてきたので、我々はきっと彼をにらんだ。


「もうやめだ、やめ!! もっと簡単にできる方法はないのか!」

「それならば魔王様、自動餅つき機はいかがでしょう」


 総理は、奥から小さな四角い機械を出してきた。機械の上面が臼のようにくぼんでいて、そこに何か羽のような部品がついている。


「いけないいけない。早くしないと餅が硬くなってしまいます」


 総理は自ら膝をついて臼から餅米を救出し、謎の機械に放り込んだ。そして、機械全面にあった赤いスイッチを押す。


「……スイッチはそれ一つしかないのか?」


 ひどく単純な機械を見て、思わず私はつぶやいた。


「はい。餅米をついて、餅にするだけの機械ですから。多機能なものもあるようですが、うちにあったのはこれしかなくて」


 日本人は機械が本当に好きだな、と私は嘆息した。しかし、杵の欠片もないこの形状で、本当に餅になるのか?


「ひとつの機能に特化していますから、餅つきには最適なんですよ。まあ、見ていてください」


 私の不安を見透かしたように総理が言った。

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