スイハン・ブラザーズの強襲(四)
「おやあ、今日の魔王様はずいぶん意地悪じゃありませんか」
「私は自分に従順な相手には寛大なのだ。逆は冷遇する」
「素晴らしい。今日の魔王様は侵略者として完璧ですね」
私を褒めちぎりながら副官はこうつけ加えた。
「犬に弱いという弱点はできましたけど」
弱点じゃない。本気出せば私の方が強いからな。
「では、私たちは片付けてご飯にしましょう。おかずは塩鮭や昆布程度でいいとして……」
副官が立ち働く横で、男たちはひたすらよだれを垂らしていた。
「おい。垂らすなよ。この部屋は私が美しく保っているんだからな」
私の苦言を聞きつけた男たちが、お互いの意思を確認するように視線を交わし合った。
「……人間が垂らせるものは、よだれだけではないんだぞ」
「やめろ!! それ以上想像させるな!!」
「果たしてこの攻撃を完全に防げるかな? それが嫌なら米をよこせ」
私の清潔で安全な生活が脅かされようとしている。おのれ、なんて手を。魔法で片付けられんことはないが、下等民族のシモなど触りたくもない。
「よかろう、くれてやる。……言っておくが、危険な相手が炊いた米だぞ」
「いいんだ。米に優劣はないから」
そう言って男たちは、おかずもなしにいきなり白米を口にする。身の安全より食欲、といったなりふり構わなさだった。
「やっぱりうちの機械で炊いた米は美味いな」
「当たり前だ。一年で一番売れた、名作だぞ」
「これ、品種はなんだろう。粘りが強くて、結構固めだけど」
「いちほまれじゃないか? それとも、だて正夢とか」
男たちが楽しそうに食べ出したので、私は一旦安堵した。しかし、副官は渋い顔でこちらを見ている。
「魔王様。総理の一族や特別な高官はともかく、一般市民に『ここで米が食べられる』と認識させるのはマズいのでは? どこでしゃべるか分かりませんよ」
「案ずるな、ちゃんと考えてある」
全ての炊飯釜が空になるタイミングで、私はスイハン・ブラザーズたちに忘却の魔法をかけた。これで、ここで過ごした間の記憶は彼らの中から消える。
「よし、終わったな。さっさと連れていけ」
「分かりました。皆さん、大人しく帰りましょうね」
総理が先頭に立ち、踵を返した次の瞬間──
「隙あり!!」
「自分たちだけ米食いやがって!!」
近寄ってきた男たちが、私の頭にまだアツアツの炊飯釜を押しつけてくる。熱で、私の美しい外皮がちょっぴり汚れてしまった。
まあ、別にこれでどうにかなったりはしないのだが。
「う、動くぞ」
「ね、熱でもダメージなしか!?」
「くそ、いけると思ったのに」
うん、つまり。米を食わせてもらったという恩義が消えて、最初の殺意だけ残ったわけね。それであったかい炊飯器を見れば、そりゃこうなるわな。……それはそれとして許せん。
「最後まで何をしてくれとんじゃアホンだらあああああ!!」
私はドラマで見かけた罵詈雑言を唱えながら、手を伸ばし男の顎を殴りつけた。
「総理!!」
「冗談ですよ、魔王様。彼らは記憶をなくしているので、間違っても意趣返しとかではありませんから」
「笑えないものを冗談とは言わないんだよ!!」
総理の顔は、私が動揺して明らかに楽しんでいる感じだった。……やっぱり、戦闘民族は油断ならん。




