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スイハン・ブラザーズの強襲(二)

「スイハンキ?」

「自動でご飯を炊く機械ですよ。この前、ここで使ってみせたでしょう」

 そういえば、そんな丸っこい機械があった気もする。

「日本の炊飯器は優秀で、洗った米を入れておけば一時間弱でおいしいご飯になるんですよ」


 その言葉を聞いて、男たちが口を開いた。


「炊飯器はあれど米はなし……」

「虚しい……」

「我らなんのために存在するのか……」


 まあ、長い時間をかけて開発したならそう言いたくなるのも分かる。しかし、こっちだって折れるわけにはいかないのだ。


「それならば海外に目を向けてはどうだ。米を食べるのは、この国だけではないだろう。この市場は諦めてだな」


 その言葉を聞いて、男たちは絶句した。


「……私は何か間違ったことを言ったか?」

「国産メーカーとしてのプライド、というやつですかねえ。ものづくりをする人間は、矜持が高い」


 副官が感心したような表情で言った。別にそれは説明してくれ、という意味ではなかったように思う。


 しかし男たちはにわかに熱っぽい表情になって、話し始める。


「そうだ。我々は国内市場を諦めない。切り開いてきたのは我々の先輩たちだ」

「炊飯器が発売されたのは約五十年前。……といっても、最初の機械には炊飯機能がなかった」

「初手から矛盾したことを言うんじゃないよ」


 炊飯できない炊飯器。意味が分からない。何かのとんちのようだ。


「当時は、釜で炊いたご飯を入れて、保存しておく容器でしかなかったのだ」

「……お言葉ですが、その商品の存在意義とはなんでしょう?」


 流石に副官も確かめにかかった。そりゃそうだ、気になるだろう。


「時間がたっても、暖かいご飯が食べられる。こんなに喜ばしいことは、当時なかったと聞いた」


 一応保温用の容器はあったのだが、それだとどんなに頑張っても昼までしか保温できない。夜に帰ってきた人の強い希望もあって、この商品は広く受け入れられたのだという。


「そういえば、昔の家電には花のマークがたくさんついていましたねえ。誰が考えたかわかりませんが、あれは華やかで良かった。手放してしまったのが今になると惜しいですね」


 総理が昔を懐かしむように言う。


「花柄のデザインひとつで売り上げが変わったと言われてますからね。デザイナーが趣向を凝らしていたんでしょう」


 スーツの男たちも、総理にはちゃんと敬語を使う。


「それからまた新たな革命が起きた。フッ素加工の釜の登場だ」

「ふっそ?」

「釜の表面がツルツルしているでしょう。これは米粒が洗い流しやすいように、加工してあるんですよ」


 首をかしげる私に、総理が言った。


「それまでは釜にこびりついた米を落とすのに、水を張って沸かしていたそうですからね。大変な進歩ですよ」


 そしてこの三年後には、ついに「炊飯もできる炊飯器」が発売されることになる。電気釜や釜を別に用意する必要がなくなり、さらにキッチンは広く使えるようになった。


「それからも進化は止まらず、自動火力調整、蓋の丸洗い化、IHの導入など、様々な改良がなされてきた」

「ご苦労さん」

「それが全て貴様のせいでパアだ。責任取れ、責任」

「そんなことは知らん」


 私がそう言うと、男たちは釜を打ち鳴らして威嚇してきた。鬱陶しいので厳重に縛っておくことにする。

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