表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/72

スイハン・ブラザーズの強襲(一)

 とある昼下がり。仕事をしていた私はふと、不穏な空気を感じ取った。犬も扉に顔を向け、低く唸っている。


「敵だな」

「結界ではね返しますか?」

「……いや、顔を拝んでおこうか」


 一抹の不安も感じはしなかったが、対処はしなければならない。私は息を殺して、敵が扉を破ってくるのを待った。


 沈黙の後、一気に扉が開け放たれる。そこにいたのは五人の男たち。若年の者が多く、彼らの顔は上気していた。そして手に手に、何か得体の知れない黒いブツを持っている。


 手から黒い物体が投げられた。大砲が発されたように、それはこちらに向かって飛んでくる。


 ある程度の重さと重量がある、とみた私は、ちょっと悪戯をすることにした。


「悪戯妖精よ。それをそいつらに返してやれ」


 命令を受けて実体化した妖精たち──羽を持った小さな少年たち──が、黒い物体を次々に受け止める。


『なにこれ、中が空洞だよ?』

『じゃあ、こうしちゃおう』

「な、何をする──!?」


 放った物体を頭にかぶせられ、取れないように押さえつけられた人間たちが、慌てて部屋の隅へ逃げ出した。何人か絨毯に引っかかって転ぶのを見ながら、私はため息をつく。


「もういいだろう。放してやれ」

『はあい』


 私は、妖精たちが持ってきた物体を手にとってみた。底が丸い、釜だ。けっこう重いから、頭に当たればそれなりのダメージだったろう。


 ……まあ、そんなことを考えそうな奴の顔は、一人しか思い浮かばないのだが。


「くそっ、読まれたか」

「やはりもっと数を用意すべきだった……」

「犬がいるなんて聞いてないぞ。卑怯な地底人め」


 倒れながらも騒がしい連中の後ろに、見慣れた顔──総理が立っていた。想像通りの展開だ。


「やっぱりお前の差し金か」

「魔王をブチのめしたいので呼び出してくれ、という熱いご要望を受けまして。久しぶりに戦いを仕掛けられたお気持ちはいかがです?」

「久しぶりに出したからいいというものではないぞ……」


 周囲からの罵倒が聞こえる中、私は困惑しながらつぶやいた。


「まあいい、とりあえず敵だ。犬、まずあのスカした男を噛め」


 その言葉を聞いた犬は総理の手をくんくんと嗅いだ。そして視線を総理の顔に向ける。しばし、両者は無言でにらみ合った。


「お手」

「クウン」


 私は驚愕した。


「どうしてなの──!!」


 犬は大人しく座って前足を出し、尻尾まで振っている。その様子には、敬愛の情までにじみ出ていた。つまりこの犬は、総理を完全に「自分より上」として認識している。それはあってはならないことだった。


 完全に体面を失って叫ぶ私を、倒れた男たちが嘲笑っていた。くそ、恐れていたことが現実になってしまったではないか。なんとか話をそらさなければ。


「……今まで聞いていなかったが、お前たちは何者だ?」


 男たちに歩み寄るうちに、以前の光景が頭をよぎる。


 血の気が多いことは間違いない。しかしこいつらは皆スーツ姿だし、手が料理人のそれではない。


「わ、我々は炊飯器を開発していたメーカーの者だ」


 私は発言した男に鋭い視線を向けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ