スイハン・ブラザーズの強襲(一)
とある昼下がり。仕事をしていた私はふと、不穏な空気を感じ取った。犬も扉に顔を向け、低く唸っている。
「敵だな」
「結界ではね返しますか?」
「……いや、顔を拝んでおこうか」
一抹の不安も感じはしなかったが、対処はしなければならない。私は息を殺して、敵が扉を破ってくるのを待った。
沈黙の後、一気に扉が開け放たれる。そこにいたのは五人の男たち。若年の者が多く、彼らの顔は上気していた。そして手に手に、何か得体の知れない黒いブツを持っている。
手から黒い物体が投げられた。大砲が発されたように、それはこちらに向かって飛んでくる。
ある程度の重さと重量がある、とみた私は、ちょっと悪戯をすることにした。
「悪戯妖精よ。それをそいつらに返してやれ」
命令を受けて実体化した妖精たち──羽を持った小さな少年たち──が、黒い物体を次々に受け止める。
『なにこれ、中が空洞だよ?』
『じゃあ、こうしちゃおう』
「な、何をする──!?」
放った物体を頭にかぶせられ、取れないように押さえつけられた人間たちが、慌てて部屋の隅へ逃げ出した。何人か絨毯に引っかかって転ぶのを見ながら、私はため息をつく。
「もういいだろう。放してやれ」
『はあい』
私は、妖精たちが持ってきた物体を手にとってみた。底が丸い、釜だ。けっこう重いから、頭に当たればそれなりのダメージだったろう。
……まあ、そんなことを考えそうな奴の顔は、一人しか思い浮かばないのだが。
「くそっ、読まれたか」
「やはりもっと数を用意すべきだった……」
「犬がいるなんて聞いてないぞ。卑怯な地底人め」
倒れながらも騒がしい連中の後ろに、見慣れた顔──総理が立っていた。想像通りの展開だ。
「やっぱりお前の差し金か」
「魔王をブチのめしたいので呼び出してくれ、という熱いご要望を受けまして。久しぶりに戦いを仕掛けられたお気持ちはいかがです?」
「久しぶりに出したからいいというものではないぞ……」
周囲からの罵倒が聞こえる中、私は困惑しながらつぶやいた。
「まあいい、とりあえず敵だ。犬、まずあのスカした男を噛め」
その言葉を聞いた犬は総理の手をくんくんと嗅いだ。そして視線を総理の顔に向ける。しばし、両者は無言でにらみ合った。
「お手」
「クウン」
私は驚愕した。
「どうしてなの──!!」
犬は大人しく座って前足を出し、尻尾まで振っている。その様子には、敬愛の情までにじみ出ていた。つまりこの犬は、総理を完全に「自分より上」として認識している。それはあってはならないことだった。
完全に体面を失って叫ぶ私を、倒れた男たちが嘲笑っていた。くそ、恐れていたことが現実になってしまったではないか。なんとか話をそらさなければ。
「……今まで聞いていなかったが、お前たちは何者だ?」
男たちに歩み寄るうちに、以前の光景が頭をよぎる。
血の気が多いことは間違いない。しかしこいつらは皆スーツ姿だし、手が料理人のそれではない。
「わ、我々は炊飯器を開発していたメーカーの者だ」
私は発言した男に鋭い視線を向けた。