komeはどこから迎賓館へ?(後編)
「いえいえ。米の格付けでは、けっこうそれ以外の地域も入っていますし。今はそこから外れているから不味い、とか何か差し支える、という時代ではないようです」
「米にも格付けがあるのか」
「はい。複数産地のコシヒカリを混ぜたものを基準として、試食の結果それより上か下かで判断しているようです。ま、人間の舌が決めるものなので、完全に科学的な格付けではありませんが」
副官はそう言ってホームページを見せてくれたが、ぎっしり文字ばかりなので読み飛ばした。要は人の舌で決めていることだけ分かればいい。
バフムの格付けは大きさや糖度などを、計量魔法を用いて厳密に決められる。それに比べて地上民族は、不確定な個人の舌に頼るしかないとは。文明レベルの差が知れるというものだ。ふはは。
「ランキングは特Aが一番上で、A、A`と続きます。これ以下のB、B`というランクもあるのですが、去年はBクラスに該当する品はなかったようですね」
「なんだそれ」
私が素っ頓狂な声をあげると、副官も困った顔をした。
「ソンタクとかいう、この国独特の仕組みが働いてるんじゃないのか?」
「さあ。米のレベルが全体的に上がった、という意味にとらえた方が、無難かもしれませんよ」
疑問は残るが、これについては我々は追求しないことにした。……余計な闇が出てきても嫌だし。
「そうだ。本当にソンタクがあったかどうか、食べて確かめてみるというのはいかがです?」
「……斜め上の解決方法を思いつくなあ、お前は」
「だって、迷っているよりはいいじゃないですか。よし、では特Aの米を出してきましょう」
副官はうきうきとし出した。その声を聞いた犬がにわかに起き上がり、小さく吠えて命令を待つ。
「よし、ではこの品種を出してきてください。一番小さい袋でお願いしますよ」
「ワンッ!!」
犬は嬉しげに吠えると、その場から姿を消した。
時計の秒針が一周したところで、犬が戻ってきた。背中の籠には、小さな米袋がたくさん詰まっている。見慣れたコシヒカリなどはなく、どれも聞いたことがない名前のものばかりだ。
「格好いい名前のものもあるな。『晴天の霹靂』に『雪若丸』とか」
「『つや姫』、『ふっくりんこ』、『にこまる』なんかはかわいらしい感じですね」
「これはどういうことなんだ、『恋の予感』。発案者は誰だ」
困惑しつつも私たちは魔法を使って米を炊き、大量のご飯を作り上げた。しかし私はあることに気付く。
「白米だけではきついぞ。何かおかずがないとまずいんじゃないか?」
「では、大量消費にぴったりなこれをご用意しました。カレーです。この前は肉のカレーだったので、今日は魚介類と豆のカレーをご用意しました」
「お、健康的な感じでいいじゃないか。よく見ると、ルーの色もちょっと違う気がするな」
その後我々は様々なカレーを食べ比べ、「カレーをかけてしまうと米の味が隠れるのでは……」という真理に辿り着くまで、無駄な時間を費やした。
それに気付いた時、呆然とする私を横目で見ながら、また犬が鼻を鳴らしていた。




