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ヤキニクという名の麻薬(一)

「……頼まれていた使い魔の件ですけれども、今のところ芳しい報告はございませんわね。お望みの魔力レベルに達した個体はいたのですが、あまりに凶暴なので討伐対象になってしまって」

「分かった。頃合いを見計らって、また捜索をかけよう。わざわざ来てもらって、悪かったな」

「そんな、魔王様のためですもの」


 かわいらしく頭を傾ける婚約者に、私が格好よくうなずいてみせる──うん、映画になりそうな良いワンシーンじゃないか。熱い視線にこたえるためには、練習したウインクがやはり良かろう。


 しかし渾身のウインクは一瞬で終わり、私は目を見開いた。目の前の婚約者は私に目をそむけ、入り口の方へすすすと移動している。


「総理。お久しゅうございますわ」

「おやおや、この前はどうも」


 婚約者と総理が、とても楽しそうに会話を始めている。私は思わず割って入った。


「どうしたマイハニー。その男がどうしたって? ずいぶん親しげじゃないか」


 それを聞くと、婚約者はフフフと軽く笑った。


「あれほどのお品をくださった方は初めてですもの、仲良くしたいですわ」

「いや、仲良くというか、我々は地上を牛耳るのが目的で……」


 私はあわてて訂正しようとしたが、彼女は聞いてはいなかった。


「この前はお友達や知り合いが押し寄せて、大規模なカレーパーティーをやりましたのよ。わたくし、僭越ながらそこで采配をふるいましたの」


 婚約者の変わりように私は目を見張った。深窓の令嬢が手づから料理など、そうそう見られるものではない。昔は私以外に関することで、そんな行動力を見せたことはなかったのに。


「よく働く奥方をもらって、魔王様はお幸せですね」


 総理はやけに機嫌良く、にこにこしながら答えた。


「妻もあなたを気にかけていまして。そろそろ、カレーに代わる何かをお教えした方がよいのではと言っていました」

「あら、しばらくは皆、飽きそうにありませんけれど。山ほどあったカレールーも、もう少なくなりましたわ」

「それはすごい。今日もルーはお持ちしておりますよ。それでもお料理の幅は広い方が、皆さん喜ばれると思いますが」


 総理の言葉を聞いて、婚約者からさっきまでの勢いがなくなった。


「あのう……お恥ずかしいのですが、わたくし、まだあまり難しいものは……」


 もじもじとする彼女を、総理は微笑みながら見やった。


「大丈夫です。お教えするのは、どんなお肉も美味しくなる魔法のソースです。材料を混ぜるだけですからね、簡単ですよ」

「まあ、それなら是非知りたいですわ」

「では、明日の夜などいかがです? もうご帰還の予定ですか?」

「いえ、大丈夫です。奥様によろしくお伝えくださいませ」


 うきうきしている婚約者は、さっそく侍女たちに朗報を伝えにいった。その背中に投げていた視線を、私は総理の方へ戻した。


「……本当にそんなものがあるのか?」


 不信感をあらわにする私に向かって、総理はうなずいてみせた。


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