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放置されたコメは化けて出る(後編)

「とりあえず、米の状態を見てみるか」


 私たちは少し心配になったので、いくつか米袋を持ち出してみた。紙の包みを開けてみると、一応代わり映えのない姿が見られてほっとする。


「まあ、見た目に分かるほどの変化はないな」


 かさっ……。


 何やら小さな異音がして、私は袋の中を見やった。さっき袋を動かしたから、米の位置が変わってこんな音をたてたのか。


「気のせい……だよな?」


 怯える私が見ている目の前で、米粒が盛り上がる。しかもたたみかけるように、もぞもぞと動き始めたのだ。


「ま、魔力が宿ったのか!?」


 石など、長時間形態が変化しないものには、長い時間をかけて魔力が染みこむことがある。だが、作物などでそんな例があるとは聞いたことがない。バフムですらなかったというのに、これはどういうことか……。


「い、いえ。違います。魔力ではありません。生き物です!」


 副官が上ずった声をあげる。そして紙袋を持って、少し米を斜めに流した。


 その途端、米の間に動く生き物の姿がはっきり見えた。二、三匹どころの騒ぎではない。米の間に、黒くて小さな点がびっしりと確かにいた……。


「おや、今日は大騒ぎですねえ。先日は孫が失礼しました」


 私は思わず手を振り払うのも忘れて、悲鳴をあげながらやってきた総理にしがみついていた。


「sぎぇgskgfせえうlsjけ」

「申し訳ありませんが、日本語で話していただけませんか」


 しばらくは大変だったが、ようやく喉から言葉を絞り出す。それを聞いた総理は米袋に足を向けた。そしてわずかに眉をひそめる。


「ああ、これはコクゾウムシですね。米によくつく虫ですよ」

「虫……だと?」


 確か、地上の生物の一種だ。数も種類も多く、中には毒を持つものもいるので要注意と聞いたことがある。


「もともと米に卵を産み付けて隠れ住んでいるんです。低温では繁殖しませんが、少し温度の高いところ──だいたい二十度以上になると、こうやって活動を始めるわけですね」


 私は、こわごわと塊になった虫を見つめた。


「全く、なんでこんな形をしているか理解に苦しむな」

「虫も、あなたに言われたくはないと思いますよ」

「なんか言ったか? 悪意を感じるが」

「そんな気はさらさら」


 おのれ、いずれ正面切って勝負をつけてやる。……しかし、今は虫だ。


「こいつらは……なんだ。化けたり、毒を吐いたり、そういうことをするのか」

「いいえ? 別に食べたりしても害はありませんよ? 毒もありませんし」

「阿呆なことを考えるな!! そうと分かったら全て処分だ、処分!!」

「捨てるくらいなら米の部分はください」

「面白そうに言うな、誰が渡すか──っ!!」


 私は副官とともに、大騒ぎしながら虫入りの米を片付けた。


「ひ、ひどい目にあった……」


 ぐったりしている私に、総理は楽しそうに言う。


「栄養豊富なものを放置すると良くないんですよ。昔、栄養剤の缶を放置していたら、大量のウジ虫が湧きましてねえ。始末が大変でした。動物は、そういうものをかぎつける嗅覚が働くらしいです」


 総理が笑って言うが、私はいまいちぴんとこない。


「ウジ虫とは?」


 総理はささっとスマホを操作し、とある動画を見せてきた。


「────っ」


 そこから先は記憶がない。何かおぞましいものを見せられた気もしたが、思い出したくなかった。

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